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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート30〉【ナス農家の直言】
記念すべき30回目の今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート30〉」
をテーマに、農家の私ナス男が農業デマを紹介していきます。
1.(中)100均からグリホサートが消えた! やっぱり危険なんだ!
「ダ○○ーの棚からグリホサート系の除草剤がなくなった! 企業はグリホサートが危険だと認識している!」
と一部界隈では盛り上がっています。
一部の団体が、グリホサート系除草剤の販売中止を求める署名を各企業に送って回答を求めているようです。
しかし某100円均一ショップの説明は、
- グリホサートを使用した製品は生産中止し、他の除草剤に切り替えていく。
- ただ内閣府食品安全委員会は、グリホサートの発がん性などはないと結論付けていることから、取引先が既に生産した在庫品に限り販売する。
とされているようです。
100円均一ショップがグリホサート系の除草剤の販売を取りやめたのは安全性の問題ではなく、一部消費者の批判を受けて取り下げたというのが正確なようです。
私の記事でも何度も紹介していますが、グリホサートは世界中の活動家からデマに利用されているのが現状です。
消費者の方には、正しく知り正しく恐れてほしいと思います。
2.(二)農薬のせいでPFASの影響がある!
「PFASが問題になっているのは農薬のせいだ!」
と、理解が難しい投稿を目にしました。
最近よく聞くPFASとは、高濃度フッ素化合物のことで、水道水にも微量混在しているとニュースになっています。
主に山の源流から流れてくるもので、農業や農薬が関係しているというのは無理があります。
デマ屋は情報をごっちゃにして消費者を騙そうとしているので、不安に駆られずに情報を精査する必要があります。
3.(三)磯焼けはネオニコやグリホサートが原因だ!
「田んぼに撒いたネオニコが、川を通って海に流れ出る! 魚介類も死ぬし、磯焼けにもなりそう!」
医師がインスタグラムで発言しているそうですが、それってあなたの感想ですよね?
磯焼けとは、海藻が繁茂している海域で、海藻が著しく減少して繁茂しなくなる現象のことです。
磯焼けの原因は、
ウニなどによる食害
温暖化でイスズミやアイゴなどの藻食生物が北上してきたり食欲が落ちないこと
埋め立てや防波堤設置などの浅場の消失
が主な原因だと考えられています。
SNSでバズれば何を言ってもいいわけではありません!
4.(一)コンパニオンプランツを利用すれば無農薬でできる!
「パクチーを蒔いたら、アブラムシが激減した!」
「農家は農薬に頼っている! もっとコンパニオンプランツについて勉強しろ!」
と、SNSの陰謀論アカウントが主張しています。
たしかに側に植えると相性のいい作物同士はあり、混植すると害虫が寄ってこなくなるような効果を発揮する作物の組み合わせもあります。(トマト、ナス×ニラなど)
しかし素人に言われなくても、農家はとっくにコンパニオンプランツについて知っていますし、そのうえで選択していないのです。
①よっぽど混植して農薬不使用を目指して栽培しない限り、無農薬にはならない。
害虫は数本コンパニオンプランツを混植したところで、隙間を狙って侵入し食害をします。
農薬を減らせる可能性は当然ありますが、農薬が必要なくなるわけではありません。
②作業効率も落ち、農薬登録がない野菜は出荷できない。
色々な作物を混ぜて植えると、農作業の効率は当然落ちます。
それに、コンパニオンプランツの両方に登録のある農薬を選択しないといけないという難しさも出てきます。
例えばトマトに登録があってニラに登録のない農薬を使ったら、ニラは出荷できません。
自家消費分くらいのニラであれば自分で食べればいいのでしょうけど、たくさん植えていたら、相当なロスです。
ちなみに当該の陰謀論アカウントは、「無農薬農業でも成り立つ証明をしたい!」とクラウドファンディングでお金を集めていますが、活動報告義務がないため収支は不明です。
支援した方々を納得させるためにも、自身の農業にどのくらいの作業時間と人手と売上があるのか、証明すべきだと思います。
5.(左)オーガニックコットンなら、生理痛が軽くなる!
「化学繊維を使うから、生理痛が重いんだ! オーガニックの布やコットンを使えば生理痛は軽くなる!」
という、女性を敵に回すような発言をしている方がいました。
私は男なので、生理痛の辛さなどは当然分からないのですが、さすがにこれは嘘でしょう。
案の定コメント欄には、「生理痛で不安商法をしないで!」というコメントがたくさんありました。
すぐにばれるような嘘は、オーガニック普及には逆効果だと思うのですが……
6.(右)鯉農法で無農薬!
「田んぼに鯉を放てば、無農薬で米が作れる! 特許も出願中!」
という投稿を見ました。
たしかに田んぼに鯉を放流する栽培をしている農家は少ないながらもあります。
- 鯉が土壌をかき混ぜ雑草が生えにくくなり、
- 害虫も食べてくれて、
- 成長した鯉は捌いて食べたり売ったりして
鯉農法には様々なメリットがあったようです。
しかし、全国に鯉農法が広まらないデメリットもあります。
- 水深を12センチほど維持する手間がかかる
- 鳥害に注意が必要
- 米の価格に転嫁しにくい
- 魚毒性の農薬に制限がかかる
- 鯉の最終的な処分(売り先や処分方法)に課題がある
鯉農法が減少していった一番の要因は、安全性が極めて高い農薬が次々と販売されたことでしょう。
アイガモ農法とも似た特徴がある鯉の役割は、使い勝手のいい安全性の高い農薬散布に置き換えられているのが現状です。
鯉農法やアイガモ農法を全く否定はしませんが、農薬批判のためにもてはやされるのは違和感を感じ得ません。
7.(捕)有機JAS認証は金で買える!
「30万円ほど出せば、有機JAS認証は受けられる!」
と投稿している方がいましたが、間違いです。
たしかに有機JAS認証を取得するのは、お金がかかります。
地域によっても違いますが、圃場を何箇所もサンプリングすれば、10万円を超えるケースもあります。
しかし、お金だけ払えば認証が取れるなどという都合がいい話ではありません。
以前の記事でも紹介しましたが、農薬を2年以上使用していないかなど、お金以上に厳しい審査項目があるのです。
お金だけ払えば有機JASを名乗れるなら、もっと簡単に有機栽培は広がりますね。
もっと正しく有機栽培が知れ渡ってほしいと思います。
8.(遊)日米合同調和で、アメリカが日本に農薬をバンバン買わせている!
陰謀論界隈では有名な、「日米合同調和」という、日本とアメリカの間で交わされた調和があります。
農業分野では、
「日本の最大残留基準値設定に関わる農薬の審査、農薬の収穫後利用に関わる枠組み、基準値違反に対する執行政策など、未解決の農薬関連の問題に対処することにより、新規に開発されたより安全な農薬のさらなる利用を促進し、日米両国の政府関係者の協力を促す。議論では、国際的な基準と慣行が考慮されるべきである。」
という文言が日米合同調和に記されているのですが、
「アメリカは日本に農薬をバンバン使わせている!」
と捉えてしまう人もいるようです。
いやいや、別に農家は農薬の使用を強制されていないですし、安全性の高い農薬しか登録できないんですよ?
と説明しても、陰謀論界隈には届かないでしょう。
日本とアメリカのパワーバランスについては、私は政治評論家ではないので語りません。
しかし公開されている文章を読んでも、特段日本に不利になるような文言はありません。
農薬=危険みたいな歪んだ認識があるから、アメリカ憎しになってしまうのでしょうか?
9.(投)オーガニックの作付面積が増えれば、安くなる!
「オーガニック給食で取り扱えば、オーガニックをする農家が増える!」
「オーガニックの面積が増えるから、給食分のオーガニックは安くなる!」
オーガニック給食を広めたい方の説明ですが、現場の農家としては意見は全く逆です。
まず給食で賄えるほどの有機栽培の野菜が安定生産できるとは思いませんが、もし生産できたとしても、簡単に安くはならないと私は考えています。
だって難易度が慣行栽培よりも高いのに、苦労して作った有機栽培野菜を安く買おうと言われると……
私が有機栽培農家なら、給食ではなく、もっと高く買ってもらえる業者に売ります。
なぜオーガニック給食でなくてはいけないのか、誰しも納得するような根拠をください!
まとめ
読んでくださる消費者の方と、デマが絶えないSNSのおかげで、MLBの球団数と同じ30回目の節目を迎えることができました。
これからも、農業に関するデマを随時紹介していきます。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |