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第23回 オーガニック保守政党誕生の憂鬱【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】
オーガニック志向と排外主義が融合したかのような政策を掲げる「参政党」が、7月の参院選で比例1議席を獲得しました。この出来事に、一部のオーガニック愛好者や関係者からは戸惑いの声が上がっています。同党に対する各方面からの意見に加え、オーガニック給食推進との親和性などの実態から間宮さんがこの参政党に迫ります。
参政党に対する各人の見方
投票日直前の7月8日、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏は自身のFacebookで、選挙ライターの宮原ジェフリーいちろう氏のブログ『参政党はなぜ気持ちがいいのか~スピリチュアリティに理屈はいらない』を参照して、「自然主義や子育て政策を打ち出し人を取り込みながら(中略)排外主義、差別を内包していると感じます。私の周囲でも、自然派の方、農業に携わる方、そして、Qアノンはじめ元々陰謀論に取りつかれてしまった人など、幅広く、この党に飲み込まれています」と危機感を露わにしている。
政治的にリベラルで、オーガニックに好意的な人々からすれば、このようなオーガニックと右派思想の合流は一見受け入れがたい現象だろう。
彼らが「参政党の〈正体〉は危険な排外主義の側にあり、オーガニックは支持者を呼び込むために利用されているにすぎない」という主従関係を願ったとしても、その気持ちはよくわかる。
だが一方、選挙翌日の7月11日に掲載された評論家の古谷経衡氏の記事『参政党とは何か? 「オーガニック信仰」が生んだ異形の右派政党』は、参政党の「実際の街頭や講演会等での内容は、圧倒的にオーガニック信仰である」と分析している。
「支持者の大きな部分は、政治的免疫が絶無の無党派層を中心とし、さらにその中でも消費者意識の高い、中産・富裕層を中心としたオーガニック信仰によるものである」として、「オーガニック信仰」こそが党の支持層を支えており、右派思想は主従でいえば「従」の側であるという。
コピペの集合体としての農業政策
参政党の農業政策それ自体の問題点ついては、農業ジャーナリストの浅川芳裕氏が既に繰り返し指摘しているので、この記事では踏み込まない。
その代わり、従来からあるオーガニック志向と参政党との、類似点や親和性に着目する。
結論から言えば、参政党の農業や食に関する言説自体には、実はそれほど目新しい内容はない。
そのほとんどが、大なり小なり、既にオーガニック愛好者や関係者の間で以前から知られていたような情報のコピペ(切り貼り)にすぎないということは、最初に指摘しておきたい。
オーガニックスターたちとの親和性
例えば『農業崩壊』などの著書で知られる東京大学教授の鈴木宣弘氏は、これまでに参政党のイベントや動画で繰り返し講演をおこなっており、党の農業政策にも(輸入小麦に対する陰謀論的な危険視など)相当の影響を及ぼしていると考えられる。
その一方で、鈴木氏は従来からオーガニック関係者やリベラル寄り野党の間でも、反農薬運動を牽引するブレーン的存在、オピニオンリーダーとして広く支持を集めてきた。
また、同じく参政党と動画で共演しているジャーナリストの堤未果氏は、これまで農薬等の危険性を度々告発し、鈴木氏らとも連携してオーガニック推進の立場をとってきたことで知られる一方、著書『日本が売られる』中で外国人への明らかな差別と偏見を助長する記述をおこない、NPO法人「移住連」から強い抗議とファクトチェックを受けた経歴がある。
まだまだある。元格闘家で現参議院議員の須藤元気氏は有機農業推進議員連盟に加盟し、国会質疑でオーガニック給食の推進を求めたり、全国の有機農業関係者を訪問して回るなど精力的に活動をおこなっているが、SNS等で参政党支持を公言している。
また同時に須藤氏は、ワクチン陰謀論を唱える講演会に登壇するなど反医療的な姿勢を隠さないことでも知られている。
字数の関係でこれ以上は省略するが、本当は挙げていけばきりがない。
ポイントは、オーガニック愛好者・関係者のあいだで以前から影響力を持つスターたちが、少なからず参政党と重なる主張をおこない、協力や賛意を示しているという事実だ。
はたしてオーガニックの味方でさえあれば、排外主義的な思想を掲げていても構わない、ということなのだろうか。
オーガニック給食運動との類似点
さらに注目したいのは、近年オーガニック給食推進の市民運動を牽引し、急速に影響力を発揮している団体にも、参政党と親和性の高い言動や世界観がいくつも観察される点だ。
ある団体の代表者は、自身が主催したセミナーの告知で、世界を裏から操る支配層「ディープステート」と戦っていることを公言し、アメリカから拡大した陰謀論「Qアノン」の影響を感じさせる。
新型コロナウイルスのパンデミックやワクチンがそうした勢力によって仕組まれた計画であると主張し、「日本人」こそがそのような支配層に対抗できる特別な民族であるともほのめかしている。
またある団体は、発達障害の原因は農薬や添加物の摂取にありオーガニック食で改善が可能であるとして、発達障害を「なるべきではない可哀想なもの・回復されるべきもの」と位置付ける差別的な価値観を(おそらくは無自覚に)前面に出している。
ここにも行き過ぎたオーガニック志向がもたらす歪んだ優生思想が垣間見える。
このような主張に対して発達障害当事者から困惑の声や苦言が寄せられているが、彼らがそれに応答している形跡は今日まで確認できていない。
彼らはまた「発達障害という概念自体が医療利権によって捏造された陰謀」と主張する団体とも友好関係を持っている。
別の団体のウェブサイトには、活動支援者としてなぜか新型コロナウイルスを極度に軽視した陰謀論を展開することで知られるカリスマ医師のコメントが記載されていた(※本記事の執筆時点では削除されている)。
オーガニック給食に何の関係があるのかよくわからないが、ここで紹介した三つの団体はいずれもワクチンが危険なもの(または既得権益層の悪意や利権によって仕組まれたもの)という世界観を概ね共有している。
参政党の主張とは一層親和性が高まる組み合わせだ。
いずれもここ数年で大きく成長し、全国的にネットワークを広げつつあるオーガニック給食推進団体が、申し合わせたように参政党と符号するような性格を持っていることは、果たして偶然と言えるだろうか。
写し鏡としての参政党
では、仮に参政党が右派思想を掲げず、純粋にオーガニック志向だけなら良いのかといえば、浅川氏が既に指摘する通り、実際は食に関する主張も大量の事実誤認やミスリードにまみれている。
一方、ここまでざっと見てきた通り、参政党の食に関する持論は「戦前の日本に小麦は存在しなかった」などの極端なものを除けば、これまで多くのオーガニック愛好者・関係者の間で「真実」として流されてきた情報と、それほどの距離はない。
過去の連載でも繰り返し書いてきたが、日本のオーガニックマーケットではこれまで明らかな誤情報や陰謀論、差別的な言論に対しても、毅然と距離を置くことをせず、むしろオーガニックのプロモーションに有利とさえみれば真偽のほどは問わずに利用し、ときに信念として取り込み内面化してきた。
もちろん、その出発点には純粋な正義感や、健康を願う心も多分にあったと思う。
だがそれらを免罪符に、あまりにも自己点検を怠ってきたのではないか。
ピンチをチャンスに
その意味で「参政党的なもの」は決して突然変異の何かではなく、オーガニックマーケットがもっと早くに向き合い乗り越えなければならなかったものが、誰からもケアされることなく放置されてきた、その結果の産物と言えるのかもしれない。
これまで一部の農業者らが人知れず戦ってきた問題が、参政党により白日の下に晒され、いよいよ困難な社会課題として広く知られるようになった。
耳に心地よい話の影で生まれ落ちる社会の分断から目を逸らす限り、「参政党的なもの」はこれからもオーガニックに接近し続けるだろう。
毎回似たような結びになってしまうが、科学的に誤った情報や情念に頼らなくても、オーガニックには本来ちゃんと価値がある。
参政党の登場を奇貨として、今こそオーガニックを見つめ直し、変化を起こせるときではないだろうか。
参考記事
※記事内容は全て筆者個人の見解です。筆者が所属する組織・団体等の見解を示すものでは一切ありません。
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