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Vol.31 聖なる植物「マコモ」への期待値が高すぎる【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、SNSを騒がせる「マコモ湯」の原料マコモです。古来より神事や祭事などで大切に使われるマコモは「聖なる植物」とされてきたことから某界隈に目を付けられ、今や好き放題言われているとのこと。マコモ生産者(界隈関連は除く)も驚きの、その内容とは。
マコモ菌入浴剤で風呂水が腐らない!?
「マコモ湯」がまたもや、ネット民のおもちゃになっています。
マコモ湯とは、イネ科の水生植物である「マコモ(真菰)」の葉を発酵させた入浴剤を入れた風呂のこと(もともとはショウブ湯のようなものだったと思うのですが)。その入浴剤に含まれる「マコモ菌」(詳しくは後述)によって、「いつまでもお湯が腐らず悪い菌も発生することなくキレイに保てる」……と、にわかには信じがたい働きがうたわれています※。
※入浴剤のマコモ自体が体へ悪影響を及ぼすわけではないが、常識的に考えれば長期間のふろ水の流用は、雑菌の繁殖が必須である。
そこからマコモ湯実践者たちは“秘伝のつけダレ”のごとく、同じ湯に入浴剤を継ぎ足し継ぎ足し……何年間も熟成させ、成果を世に発信するのです。希望者に湯を使わせてくれる施設も存在しています。
各種SNSによく見かけるのは「70年間お湯そのまま」という漆黒のマコモ風呂。菌の理屈はどうであれ、生理的にゾワっと来る人が多いのは仕方ないことでしょう。そこへ頭までチャプンと浸かるチャレンジャーを眺めていると、ガンジス川で沐浴する光景がオーバーラップ(一緒にすんなと怒られそう)。体験者によると、ぬめりなどはなくサラサラの湯だとの話ですが「飲んでもいいし」とゴクリと味見する配信は、シンプルに健康が心配になります。
昭和の時代は婦人雑誌などで紹介されていましたが、昨今は一億総クリエーター時代。かつてとは比べものにならない拡散力で、広がり続けています。
そのマコモ湯が「お湯を変えない」特徴を持つことから(注:お湯を取り替えてはいけないわけではない)、「●年間、●●していません」というテンプレの「マコモ構文」まで発生。長期間投稿していないことを「マコモ投稿者」、単に湯を変えない(マコモを入れてない)風呂を「マコモ湯」と呼ぶアレンジも。マコモのネットミーム化で、認知度がますます高まっていくでしょう。
神道、自然派スピ、陰謀論と混ざりあい不思議な物語に…
この連載は「不思議食品」なので、そろそろ食品としてのマコモにも少し触れましょう。
ネガティブな話題で盛り上がると、とばっちりをうけるのが原料です。原料であるマコモは、アジア料理の定番食材。マコモが黒穂菌に寄生されることで茎が肥大して「マコモダケ」となり、やわらかいタケノコのような食材として重宝されます。旬が短いのでどこでも手に入るというわけにはいきませんが、日本でも栽培&流通しています。
また、マコモの仲間に「ワイルドライス」という呼ばれる、北アメリカ産のイネの近縁とされる植物もあります。日本でも米が広まるまでは食べられており、現在も流通していますが、現代日本の一般的な食生活に取り入れるには、それなりの工夫が必要そうな味わいです。葉を乾燥させて、お茶にする利用法もあります。
さてここまでは一般的なお話。
このように食用の歴史もある植物が、なぜこんな不思議な存在になってしまったのか?
原因のひとつに、マコモは神道と深くかかわることから「神聖な草」とされていることが考えられるでしょう。
そして縄文、ナショナリズム、スピリチュアル、自然派、菌信仰などさまざまな分野がゆる~く混ざり合い、謎のマコモ物語が発生しています。そこには陰謀論も入り込み、お約束のテンプレも見られます。ざっくりこんな具合でした(カッコ内は著者の感想)。
- マコモは素晴らしい力を秘めていて、原爆の放射能をも浄化した(ある程度水質を改善する効果は確かにあるようですが、その手の水草ってたくさんありまして……)。
- マコモの生命力と浄化力を恐れたGHQによって、マコモの生息環境である水辺が埋め立てられた(戦後に河川が埋めたてられていったのは事実でしょうが、それは河川交通から自動車交通へと変化していった時代の流れではないかと……。似たような物語では“そしじ(GHQの漢字廃止によって消されたと界隈で言われる漢字)”ってのがありましたね)。
「マコモ」と検索すると「GHQに封印された!」と出てくるので、これは一体どこから?と検索していくと、『蘇生の靈草【マコモ伝説】のすべて』(ヒカルランド)なる書籍にたどり着き、そこに描いてあった説明です。マコモ湯が、お湯を取り替えなくていいとされる理由も語られています。
- 特許をとった特殊な菌を加えて発酵させているので、普通のマコモとは違う(ここ大事)。
- その特殊な菌は数万度でも氷点下100度でも絶対死なず、何億年前から1匹たりとも死んでいない(クマムシですら死ぬのにすごいですね)。
- 特殊な菌=神様だから、飼われることを嫌い、大自然に存在したいという意思がある→3時間しか体内にいることができないから、どんどん摂取しなければならない(マコモ水、マコモ茶という商品も存在しているので、たくさん消費させる便利な説明だなと感じます)
- そんな特殊な菌で発酵させたマコモは最強!
- マコモ湯に腐敗菌が混在することもあるが、エアポンプで酸素を送り込み温度を上げるとマコモが元気になる。そもそも菌にいいも悪いもない。病気を作るのも、本人の意思である(人間の都合的には悪い菌はあるのですが……。いわゆる“思いは物理的現実になる”って思想が関係ありそう)
普通においしいマコモにオカルトの味付けは不要
そのほかも「マコモを広めようと思ったら超越した存在に試される」「扱う人の気持ちが菌に伝わるから、仕込みを担当する杜氏は夫婦喧嘩をすると作業に参加できない」など、“菌信仰”で大変よく聞く言説も登場し、スーパースペシャルな菌でも、そのへんの菌と同じようなことを言われるんだなという面白味もありました。
さらに「薬機法に接触するから」と一部伏字になっているのも、同書の見どころです。
- マコモ入りの団子を食べさせてたらアルツハイマーが完全に●●た。
- 糖尿病の壊疽(えそ)で指がなくなったが、1か月間指が治るイメージでマコモ湯に毎日4~5時間突っ込んでいたら、日に日に指が●●●きて、今は完全に●●●います。
トンデモな主張は横に置いておき、伏字の表記、最近流行りのモキュメンタリー(ドキュメンタリー風のフィクション)ホラーみがありませんか。マコモに奇跡を見る人の、ユニークさが凝縮されているとも言えるでしょう。
本来、茎も葉も普通においしく利用できるマコモですが、一部加工品の神秘パワー語りによって、すっかりおかしな存在となっているようです。
神聖視されている植物の背景に思いを馳せ、気持ちをすっきりさせる、癒される……程度なら理解できますが、「毒素を排出」「アトピーにも効く」とまでなると、一気にうさん臭さが跳ね上がります。普通にマコモを生産している人たちが困りそうなので、オカルト的な消費はほどほどにお楽しみを。
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