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第11回 農薬の勉強会を開きませんか?【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

『沈黙の春』や『複合汚染』時代に植え付けられた農薬に対するネガティブイメージは連綿と受け継がれ、情報がアップデートされていない人々は少なくありません。間宮さん自身もかつてはそちら側でしたが、農薬の勉強会への参加を通して考え方を改めます。正しい理解こそが重要だと、そうした機会を設けていくことを提案するのでした。

農薬のことは何も知らないけど農薬が嫌い

「農薬」という言葉が会話に出れば、とりあえず少し苦々しい顔をしてみせる。「農薬、良くないよね。最近もまた、ほら、ミツバチがやられてるってニュースが出てた」

「どうしてなくならないんだろうね」と、いつまでも変わらない社会を嘆く感じでため息を漏らしてみる。

「でもさ、目の前の、いまできることからやっていくしかないよね」とか言って、いい感じに話をまとめようと試みる……。

過去の自分は、おおむねこんな感じだったと思う。今だからわかるが、一見憂えているようで、なんだか他人事みたいだ。すでにオーガニックを選んだ自分には関係ないところで起きている問題を、遠くから見下ろしている感じ。決定的に抜け落ちている認識があるが、そのことにも気づいていない。

怖い話だけは知っている

話は前回のエピソードから緩やかに続く。NPO「みつばち百花」と出会った影響で、農薬についての様々な思い込みを覆され、僕は混乱していた。

その後、連載でも取り上げた東日本大震災後の迷走や、近隣農家との交流も経て気づいたのは、これだけ日頃から無農薬、無農薬と言っている僕ら(オーガニックカフェ)が、いざ農薬について具体的に聞かれたら、何ひとつまともに答えられない、という矛盾だった。

もちろん、いわゆる怖い話はそれなりに知っている。レイチェル・カーソン『沈黙の春』とか、有吉佐和子『複合汚染』とか。DDT、枯葉剤とか。とにかく悪い情報だけは山ほど聞いてきた。

でも、あえて農薬を使っている側にとっての必要性に耳を傾けたことがあっただろうか? そもそも誰に聞けばわかるの? だいたいレイチェル・カーソンって何年前さ? 本当にそれから何も状況が変わってないの? 他人からの伝聞の積み重ねだけで、鬼か悪魔みたいに嫌ってたの?

どんな理屈を並べたところで悪は悪なんだから、“相手の言い分”なんかに耳を傾ける必要がないってその態度、本当にスローでフェアで持続可能と言えるだろうか?

農薬の勉強会を開いてみた

もちろん僕らの店は、いたずらに農薬の恐怖を煽ったり、安全を売りにするようなコミュニケーションからはできるだけ遠ざかるようにしてきた。それは今でも間違っていなかったと自負している。

とはいえ、なんだかこのままでは気持ち悪い。

そこで、「みつばち百花」の中村純教授(玉川大学ミツバチ科学研究センター)に相談したところ、カフェスタッフ向けに「農薬の勉強会」を開いていただけることになった。スタッフには勤務時間外で任意参加としたが、思いのほか多く参加してくれた。

科学的な解説については、正直なところ当時の自分には難解で、十分に理解できた自信はなかったが、それでも『沈黙の春』時代の反省から、農薬の成分は大きく改善され、使用基準は非常に厳しくなっており、安全性が大幅に向上していることは理解できた。

また、農薬が普及する以前の時代に、病害虫がどれほど深刻な被害を及ぼし、人々の生存を脅かしてきたのか。農薬が必要とされてきた歴史的背景と恩恵について知ることができたのは大きかった。負の側面も多く抱えつつ、戦後の高度成長期以降、食料の安定供給にとって農薬や化学肥料がひとつの要を担ってきたのは揺るぎない事実だった。

仮に自分だけが食事をすべてオーガニックに切り替えたところで、社会を回しているのは別の巨大なインフラだ。他者との関わりを完全に断ち切らない限りは、嫌でもそれに依存し、共生関係のなかで生かされている。

自分が農薬の恩恵を受けている、受益者の側であったという視点は、全く抜け落ちていた。「今日はオーガニックが売り切れてたから、スーパーで普通の野菜買っちゃったんだよね」と言われてしまうときの、“普通”の側の気持ちを想像してみる。

恩恵を盾に批判を封じ込めるつもりはない。だが対話を通じて、農薬の歴史と現在、そのメリットも理解した上で、もう一度、自分の言葉でオーガニックを選び直すことができるか、と問い直すことには意味がある。

知らない消費者が悪いのか

後日、近隣農家のご厚意でJAの勉強会にもスタッフと一緒に参加することができて、IPM防除や緑肥の利用など、慣行農業の枠内でおこなわれている工夫についても、実際に圃場を見ながら学ぶことができた。

オーガニックカフェという場にいながら、農薬や慣行農業についてきちんと教わる機会があったのは幸運だったし、胸を貸していただいた方々には感謝しかない。

だが時を経て痛感するのは、いまだに農薬の正確な情報を消費者層にまで伝えられるコミュニケーターが絶対的に不足している事実だ。これほど社会の根幹を担うインフラにも関わらず『沈黙の春』『複合汚染』以降のアップデートがほとんど知られていない。

それを知らない側、学ばない消費者が悪いのだ、という考えには賛成できない。そもそも学ぶ場がないのだし、一方で『沈黙の春』『複合汚染』が指摘してきたような被害や事故が起こった過去も消えることのない、厳然たる事実だからだ。その時代のトラウマから無農薬を目指したという農家も、年代によっては少なくない。

何も知らないくせに、ではなく、わかってもらいたい側が言葉を尽くすこと、不安に思う側の言葉に耳を傾けることが、もっと必要だと思う。だからといって根拠もなく恐怖を煽る反農薬運動が少しも免責されるわけではないが、少なくとも声の大きさという点では、完全に負けてしまっている。

農薬を理解する映像はあるのだが……

農産物の安定供給が実現され、インフラとして社会に浸透しきったことで、その景色が当たり前となり、かえってありがたみを感じる機会がなく、デメリットばかりに目が向いてしまう。また、改善が進んでいることが伝わらず、根強い不安感がデマの温床となる。ワクチン忌避が広がる構造にも、驚くほど似ているように思う。

コロナワクチンに関してはその切実さもあって、厚労省や医療関係者有志による噛み砕いた丁寧な情報提供がおこなわれているが、食に関してはまだそこに至っていない。

農水省の作成した資料もあるにはあるが、お世辞にも読みやすいとは言えないし、無味乾燥な事実を淡々と述べた文書が、そもそも不信感や不安を持っている人に響くとは思えない。もう少し何かないかと検索すると、農薬工業会が制作したミニドラマ風の動画が出てきたのだが、予算の都合なのか、なんとも言えない仕上がりで、失礼ながらこれを視聴して「そうか、農薬は安全なんだ」と安心する人はあまりいないのではないかと思う。ちょっと無理だった。

改めて農薬の勉強会を開きませんか

そこであらためて提案したいのは、まずはオーガニックを掲げる小売や飲食店の従業員から、農薬の勉強会を開いてはどうか、ということ。日々忙しいとは思うが、価値を伝える側に立つ人には、学び続ける責任がある。

知ることで一時的にそれまでの信念に揺らぎが生じたり、気持ちよく何かを断言できなくなるかもしれない。でも、どちらとも言えない気持ち悪い中腰の姿勢を維持する胆力って、とにかく言い切る強い言葉が溢れる社会にあって、とても大事だと思うのだ。

学んだ上で、やっぱりオーガニックだよね、と再認識できるのであれば、何よりだと思う。少なくとも無用な分断を再生産する側に回ってしまうことは、回避できるのではないだろうか。

やってみたい、という方は声を掛けていただければお手伝いくらいは喜んでしたいし、すでにやっているという事例があれば、今後のコラム等でも紹介させていただきたい。

筆者

間宮俊賢

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