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「不安情報に流されないために役立つ現場感とリスペクト」:23杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

コラム・マンガ

トンデモハンターとして農業の風評を追って2年。最近では「これって本当?」みたいな質問に来る人も増えてきました。質問に答えるとよく「私には農業の専門的な知識がないので、聞いてよかった」「不安を煽る情報に出会っても、農業の知識がないので判断できないから」といった感想が返ってきます。たしかに、知識があれば不安情報の真偽を即座に見抜き、理路整然と反論だってできるかもしれませんが、それはあまり現実的ではありません。そこで、役立つと思うのが「現場感」です。

不安情報にどう対応するか

優れた栽培技術や知識を持つベテラン農家が、特定の農薬の海外での認可について詳しいとは限りません。
また、植物の研究者と、農業政策の専門家は、それぞれの分野が違うので、持っている知識も違います。
こうした理由から、知識を身につけることで不安情報に流されないようになる、というのは難しいと思うのです。

私も、栽培や農業政策など、高度で専門的な知識はありません。
スーパーの野菜売場や、野菜作りの現場での経験はありますが、専門的な知識を積んでいるとはいえません。

では、私が不安を煽るトンデモ情報に出会ったとき、何を元に判断しているのかというと、それは「現場感」です。
現場感があれば、不安情報に流されそうになっても大抵は冷静に思いとどまることができるのです。
例をいくつか挙げましょう。

トンデモに警戒するだけなら
現場感が役立つ

「種苗法改正で農家はタネを買わなければならなくなり、経営は立ち行かなくなる。タネの権利を持つ大企業が農業を支配する」という一見こわい話を聞いたとき、

「あれ? 法律関係なく農家は普通にタネを買っているよな。その方が効率いいし。しかも、経費に占めるタネ代なんてそんなに大きくないはず。競合他社も多く、いつも親切なタネの会社さんが農業を支配? なんかこの話おかしいぞ?」と立ち止まることができます。

「除草剤を規制する基準値、日本だけが大幅に緩和された。あなたの食べているもの、本当に安全?」という情報に出会ったときでも、

「あれ? 農薬の基準って品目や用途によって項目がとてもたくさんあって、基準が変更になるときは引き上げも引き下げも同時にたくさん見直されているよな? “日本だけが緩和”のような単純な表現はできないはず。どうしてこの人は緩和された項目だけ見せるんだろう? それに、通常は作物に使用しない除草剤を、どうしてここまで問題視しているんだろう?」と冷静になることができます。

不安を煽る目的で拡散されるトンデモは、飛びつきやすいタイプの人だけを騙せればいいので、一つひとつはそれほど精度が高くありません。
そのため、指摘や反論をするならまだしも、ちょっと警戒するだけなら高度な知識は必要なく、こうした現場感の方がずっと役に立つと思うのです。

不確かな情報に流されないために
他者に対するリスペクトも

ですが、今の時代、農業の現場感はどれほど一般的でしょうか?
農業技術は進歩し、生産性も向上しました。
少ない人数で食料を生産できるようになった一方、余った労働力で農業以外の産業が発展し、結果的に農業も支えられています。
その反面、みんなが生産現場を身近に感じることは難しくなりました。
どんな素晴らしい進歩にも新しい課題はつきもので、社会から農業生産の現場感が薄れたことはその一つだと思います。

私がバーやラジオで伝えたいのはこうした何気ない現場感です。
収穫体験や果樹園の見学はキラキラしていて楽しいですが、現場感を伝えるとなるとまた別です。
例で挙げたような、キラキラしていない、一見地味な仕事でも、現場感を高い精度で伝えるためには必要だと思うのです。
「そんな地味なこと、一般消費者は興味を示さないんじゃない?」と訝しむ人もいるかもしれません。
ですが、実際にはそんなことはありません。
最近の大多数の消費者は知的好奇心に満ちています。
そんな賢い人たちを「どうせ興味ないだろう」と甘く見てはもったいないです。
正直に、丁寧に、そして時にユーモアを交えて話せば現場感は伝わるのです。

「そうは言っても、農業関係者は周りにいないし、現場感なんてピンとこないよ」という人もたくさんいると思います。でも大丈夫です。例えば、私は原子力産業に従事する人が周りにおらず、現場感なんて全然ありませんが、「電力会社が放射能の安全性を意図的に軽視している」といった不安情報に簡単になびいたり、よくわからず情報拡散に加担することはありません。
それは、現場感がなくても他者の仕事へのリスペクトがあるからです。
身近でない業界でも、そこでがんばる人を想像すると、身近にいる頑張り屋さんの顔が思い浮かぶはずです。

不安情報に出会ったとき、現場感が役に立つのは間違いありません。
あるいは、「他者へのリスペクト」という誰もが持つ普遍的な精神に忠実であれば、不確かな情報に流されずに済むはずです。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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