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農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート7〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】

農家の声

しつこいかもしれませんが、ネットやSNSでの農薬デマが尽きない限り、まだまだこのシリーズは続きます!
ということで今回も先月に続いて、
「農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート7〉」
をテーマに、農家の私ナス男が解説します!

1.(中)山全体にグリホサートを撒いている!

「山全体にグリホサートを撒いている! 日本は終わりだ!」
というツイートがありました。
おそらく、森林がなくなったハゲ山のことを言っているのだと思いますが……
森林に除草剤を使っているという話は、聞いたことがありません。
そもそもグリホサートは非選択性の除草剤。
なのでグリホサートを使ったら、山全体が枯れてしまいますよ!
ただ竹の駆除や山道の雑草対策には、グリホサートが使われるケースがあるのかもしれません。
しかし、あたかも日本全国で山全体にグリホサートが撒かれているかのようなミスリードはやめてください!

2.(左)オーガニックコーヒーは苦くない!

「化学農薬を使っていないオーガニックのコーヒーは苦くないからおすすめ!」
これは、農家でなくても気づくミスリードではないでしょうか。

そもそも、苦みを含むコーヒーの味を決める要素は、栽培に関する事だけではありません。

● 抽出方法
● お湯の入れ方や温度
● コーヒー豆の種類

など、考えられる要素はたくさんあるはずです。
農薬を叩きたい意図があるのかは分かりませんが、正しい知識を発信しないと、オーガニックのコーヒーを扱う方にとっても迷惑になると思います。

3.(三)害虫に抵抗性がつかないようにするために、より毒性の強い農薬を使っている!

「病害虫は農薬が効かなくなってきているから、どんどん強い農薬が開発されている!」
この意見のように、病害虫の抵抗性について、ネット上では正しい情報と誤った情報が錯綜しています。
確かに病害虫に対する農薬の抵抗性は前々から問題になっており、感受性は低下してきます。
つまり特定の農薬を使用しても、年々病害虫には効きにくくなってくるということ。
農家が病害虫に対して毎年悪戦苦闘していて、抵抗性がついた病害虫にも効くような新しい農薬が開発されているのは事実です。
しかし、農家が農薬抵抗性のある病害虫に対してより毒性が強い農薬を使っている、というのは誤解です。
新しく開発される農薬は、病害虫に対する新しい作用点であったり、既存の成分を改良したものがほとんどです。
より毒性の強い農薬ということではありませんし、環境に対する影響もごくごく軽微です。
病害虫の対処と安全との両立が可能な農薬しか、農薬登録を許されません。
半分くらい正しい情報が入っていると、全てが正しく思えてしまいます。
しかし、一つ一つ切り分けて情報を精査しないと不正確な情報を掴まされるので、注意してください。

4.(一)冬の葉物野菜にも農薬を無理やり使っている!

「農薬不使用って書いてないから、ほうれん草や小松菜とかの葉物にも、農家は冬でも農薬を使っている!」
と思われている消費者の方もいるかもしれません。
しかし、これは誤解です。
冬のほうれん草や小松菜などの葉物野菜は、農薬を使用していない農家も多いです。
理由は、気温が低いので病害虫の被害リスクが減るからです。
ではなぜ農薬不使用の表示をしないかというと、

● パッケージを変更するのが面倒だから
● 気温が低い時以外は、農薬を使用することがあるから
● 冬でもいざという時は農薬を使用するから
● わざわざ農薬不使用と書くほど、特別なことではないから

など、それぞれの出荷団体や農家にもよりますが、これらの理由が挙げられます。
何度も言いますが、わざわざコストをかけて、きつい消毒作業をしたい農家なんかいません。

5.(右)農薬を使ってないナスやキュウリは曲がる!

「農薬を使ってないから、自然と野菜は曲がるんだ!」
「いびつな形の野菜が出来るのが無農薬の証だ!」
と、政治主張が強いアカウントがツイートしていますが、これは初歩的な間違いです。
なぜなら、農薬を使って栽培している私のナスも、曲がっているモノも出るのですから。

農薬を使っているからいびつな形ができなくなるのではありません

〈パート1〉でも説明しましたが、出荷調整の段階で虫食いやいびつな形の野菜を区別しているから、スーパーではきれいな形の野菜を目にすることが多いのです。
農薬を使っているからいびつな形ができなくなるのではありませんので、誤解しないでください。

6.(二)飼料用や工業用の作物は、より強い農薬が使われている可能性がある!

「人間が食べない飼料用・工業用の作物は、より強い農薬が使われているかも!」
この意見に対する答えは……明確にNOです!
農薬取締法は、人間用や飼料用・工業用の作物への農薬の使用方法を区別していません。
人間用の作物でないからと言って、希釈倍率を濃くしたり農薬登録されていない農薬を使用すれば……農薬取締法違反です。
そんな農家が万が一にも存在するのなら、私は軽蔑します。

7.(遊)有機栽培野菜を食べて、重曹を飲めば大丈夫!

「重曹を飲んで農薬をデトックス!」
という感じで、健康情報を流しているアカウントの中には、重曹について知識不足で発信しているのもあります。
重曹の効果云々はここでは置いておくとして……
この方は、重曹を主成分とした有機栽培でも使用できる農薬があることは知らないでしょうね。
この矛盾、どう説明するのでしょうか?
きっとその健康情報アカウントは、聞いても答えてくれないでしょう。

8.(捕)農薬で健康寿命が縮む!

「日本は長寿だが、それは寝たきりの方が多いからだ!」
「農薬の使用量が多い国は、健康寿命が短い!」
という風に、デマ屋は喧伝していますが、これも違います。
WTO(世界保健機関)の2016年のデータを見ると、日本の健康寿命は74.8歳。
これはシンガポールに次ぐ世界第2位で、日本は健康寿命でも世界トップレベルなのです。
厚労省のデータを見ても、健康寿命は年々伸びています。

平均寿命と健康寿命の推移

図表1-2-6 平均寿命と健康寿命の推移|令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

単位面積当たりの農薬使用量は世界16位、そして有機栽培面積は世界でも少ない日本。
以上から、農薬と健康寿命を関連付けるのは無理がありすぎます!
そもそも、「日本が農薬大国!」というのがミスリードですけどね!
詳しくは、〈パート1〉をご覧ください!

9.(投)プロ農家も自作できる自然由来の農薬を使えばいいじゃないか!

家庭菜園の本や動画などで、自作できる自然由来の農薬を使用しているものがあります。
だからプロ農家も、自作の自然由来の農薬を使うべきだと思われる方もいるかもしれませんが……
自分で消費する作物を家庭菜園で栽培するのであれば、自作の自然由来の農薬を使用しても自己責任なのですが……
プロの農家が販売目的の作物に、農薬登録のない資材を防除目的で使用することは農薬取締法に違反してしまうのです。
〈パート2〉でも触れていますが、自然由来の農薬は有効と見られる成分が多く、また安定していないため、農薬としての検査ができないのが理由です。
検査がされない自然由来の殺虫効果があるものと、徹底的に検査されて科学的な安全が担保された化学農薬。
どちらが安心できるかは個人によって違いますが、化学農薬は基準通りに使用すれば安全と言えます。
慣行栽培農家の私としては、化学農薬をこれまでもこれからも正しく使用して、安全な作物を消費者に届けることを考えています。

まとめ

読者の皆さんのおかげで、このコラムも農薬デマシリーズも継続できています。
これを読めば、農薬デマは一網打尽!
そんな連載になるように、これからも農薬に関する正しい情報を発信していきます。

 

【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】記事一覧

筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「いわゆるナス農家」)

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