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不正確な情報あふれるマルシェ、「オーガニックを広めたい」なら正直で誠実な商売を:57杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】
「オーガニックを広めたい」「オーガニックが当たり前な世の中に」と望む声がありますが、そのためにはもっと正直で誠実な売り方をすべきと思うことがあります。
最近特にそう思ったのは、オーガニックマルシェに行ったときのことです。
マルシェ自体は良いものだと思います。私も出店したことがありますし、知り合いの農家もよく出店しています。
そして、生産者と消費者が直接話して買い物ができるマルシェはオーガニック志向とマッチしていると思います。
ですが、対面で会話をしながら販売するマルシェでは不正確な情報による売り方がたびたび見られるのです。
今回はマルシェでの売り方を見て考えたことを述べます。
オーガニックマルシェでの会話
ある日訪れたオーガニックマルシェで見つけたのは「OKシードプロジェクト」のノボリ。
OKシードプロジェクトといえば、秋田県の新しいお米「あきたこまちR」をはじめ、安全が確認されている農産物を「安全性に疑いがある」とわざわざ不安を煽って「食べたくありません」と署名活動をしている団体です。
最近話題の「オーガニック給食運動」の旗振り役的な存在ですが、そのノボリを掲げる人たちはどんな想いで売っているのかな? と思い、質問してみました。
私「OKシードプロジェクトってどんな意味ですか?」
出店者「私たちはゲノム編集で作られた作物を一切扱っていません。その印です」
(え、ゲノム編集の作物なんてむしろ作ろうと思ってもなかなか作れないのになんで?)
私「……ゲノム編集の作物って何があるんですか?」
出店者「鯛とかトマトですね」
(ここで売ってるのはじゃがいも……関係ないよな?)
私「じゃがいもも関係あるんですか?」
出店者「……そのうち売られるかもしれません」
(普通に安全が認められているゲノム編集作物の何がそんなにイヤなんだろう?)
私「ゲノム編集作物は何が良くないんですか?」
出店者「危険なことを隠して販売するかもしれません」
(なぜこういう話のときはいつも陰謀論っぽくなるんだ)
私「……なんか悪い人たちっぽいですね」
出店者「はい、儲け主義なのが良くないと思います。そのうちゲノム編集作物ばかりになるかも」
私「なるほど。ここの野菜の良さは何ですか?」
出店者「ゲノム編集ではない、国産の安全なタネを使っています。スーパーの野菜はどんなモノを売っているのかわかりません」
他者を下げる野菜を売り込み
大体こんな調子で、ゲノム編集の作物や、スーパーの野菜や、オーガニックではない野菜が危険かも?という語り口でした。
自分たちの野菜を売り込むために、美味しいとか、安いとか、珍しいとか、何でも良いので魅力をPRするのは良いと思います。
でも、こんな風に安易に他者を下げて良いのでしょうか?
時には自分の野菜の良さを伝えることが難しいときもあるでしょう。
その出店者の野菜はお世辞にも良い品質には見えず、相場よりも高い価格設定でした。
それでも、自分の野菜の魅力を見つけて伝える努力をしたら良いと思うのです。
何かあるはずです。
どんなところでどんな栽培をしたとか、こんなところにこだわったとか、何か話せることはあるはずです。
せっかく対面販売をしているのですから、どう魅力を伝えればいいかを発見するチャンスなんです。
口で言うほど容易なことではありませんが、だからと言って不正確な情報で他者を下げた上に不安まで植え付けて商売するなんて、そんなのは全く誠実ではないのです。
有機JAS認証の質問をはぐらかすケースも
また、マルシェでは「有機JAS認証を取っていますか?」という質問にはっきり答えない出店者にも出会いました。
はっきり答えないというのは、質問とちがう話題で返したり、ちがう説明を始めたりする答え方です。
私は有機JASがないからダメだとは思いません。
オーガニックマルシェとはいえ、有機JAS認証だけに限定するわけにもいかない事情もわかります。
ですが、認証がないのにあたかも認証があるかのように見せて、質問されてもはぐらかす売り方は正直ではないと思うのです。
出店者の中には質問に答えてくれた人たちもいます。
はっきり答えてくれた人たちは「この野菜は有機JASを取得しています」または「取得しようとしています」「取得しないけど、こういう栽培をしています」と、すらすら話してくれました。
心なしか、そういう人たちの野菜は質が良いように見えました。
認証があるかないかよりも、正直なコミュニケーションがとれる方が信頼できると思うのです。
「スーパーの野菜は安全?」発言に見え隠れする怪しさ
このほか農産物以外では、マルチ商法のアロマが医療の効果を謳って販売していたり、病気が治るというエステ? の勧誘があったりと、怪しげなビジネスがちらほら混ざっていました。
実はマルシェではこういう事例は何も珍しくありません。
怪しげなトンデモビジネスはオーガニックマルシェ以外の場所にもありますが、オーガニックマルシェでトンデモ濃度がグッと上がるのはどういう理屈なんでしょうか。
出店者が急に変な勧誘を始めるわけでもないはずなのに、事前に運営側で「その出店って大丈夫?」とチェックしないのでしょうか。
もちろん、オーガニックマルシェは不誠実な売り方ばかりではありません。
割合としては真面目に売っている人の方が多いと思います。
ですが、普通のスーパーではこんな不誠実な売り方や不正確なトンデモ情報には全く出会わないのです。
ライバル店の農産物を危険であるかのように吹聴するスーパーも、商品の情報をはっきり表示せず雰囲気で誤認させようと目論むスーパーも見たことがありません。
OKシードプロジェクトの人たちは「スーパーの野菜は安全?」と言っていましたが、スーパーの方がよっぽど信頼できるのです。
「オーガニックが当たり前な世の中」を作りたいなら、まずはそういうところから改善するべきだと思います。
しかしながら、オーガニックを推進する団体がそう言っているのを見たことがありません。
私はスーパーの野菜売り場に勤務していたとき、いかなるときも正直で誠実であるようにと教えられました。
他社のスーパーでもきっと同じように教えてきたと思います。
スーパー各社が大きくなって、長く続き、スーパーでの買い物が「当たり前」になったのは、働く人たちが正直で誠実な商売をしてきたからではないでしょうか。
「オーガニックが当たり前な世の中」を目指すなら、まずはそこから始めるべきだと思います。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |