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ワイン試飲会で考えた、オーガニックの本質:69杯目【渕上桂樹のバーカウンター】

コラム・マンガ

私は仕事柄、飲食店を対象としたワインの試飲会に参加することがあります。会場には数十から百近くのボトルが並び、ワインが大好きな私はいつも楽しみにしています。今回は、そんな試飲会で考えた「オーガニックの本質」について述べたいと思います。

試飲会で聞くワインの裏側

試飲会で楽しみにしているのは、新しいワインに出会えることだけではありません。私が特に好きなのは、ワインにまつわるお話を聞くことです。試飲会にはいつも輸入業者さんが来ていて、産地のこと、生産者のこと、最近の流行など、あらゆる話が聞けるのです。時にはヨーロッパから生産者本人が来ていることもあり、作った人の話を直接聞きながら飲むワインは、特別に美味しく感じられます。

話を聞いていると、ワインも農産物であり、作っているのは人間なんだと実感します。農園や生産者のエピソードを聞いていると、情景が浮かび、ワインの世界に引き込まれるのです。

たとえば、超エリートや大物実業家が「どうしてもワインを作りたい!」とワイナリーをオープンして、苦労の末に立派な賞を受賞した話はロマンや冒険心があります。逆に、「こんなところで美味しいワインができるわけない」と笑われながらも畑を耕し、最後は地元を代表するワインを作った話は興奮を覚えました。(ちなみにそのワインはイソップ童話「すっぱいブドウ」にちなみ、キツネの絵が描かれていた)

生産者本人が来ているときは、産地の環境や栽培の様子を聞けるので、またさらに特別です。

「このブドウを収穫するときは鳥が食べにくるんです」
「鳥よけはしないんですか?」
「しません。鳥が来たのを合図に収穫をするので。少しくらい食べられてもいいんです」

そう紹介してくれたワインには鳥の絵が描いてありました。

また、「うちの畑は高地で砂漠みたいな所なので雨がほとんど降りません。でも、おいしいブドウを栽培するのにとても適しているのです」という話を聞くと、「やはり適した土地で作ったワインは最高だな」と思います。ですが逆に、「うちの畑は寒いのでブドウ栽培に適していません。だから、少しでも日照を確保するためにこんな斜面を活用しています」と写真を見せてもらうと、「適していない土地で作るのはきっと苦労しただろうな。知恵の結晶のワイン、やっぱり美味しいな」と感じるのです。

「オーガニックだから安全・安心」とは聞かない

ワインの中にはオーガニック認証があるものも少なくありません。ただ、気づいたことがあります。彼らは「これはオーガニックです」とさらりと説明しますが、「オーガニックだから美味しい」と優劣を語ることも、認証のあるワインばかりを特別扱いすることもほとんどありません。なにより印象的なのは、「オーガニックだから安全・安心」という説明をほとんど聞かないことです。もっとも、そもそも酒だからかもしれませんが。

試飲会で聞く「オーガニック」は、健康でも安全でも美味しさでもなく、「この土地を表現する」という文脈なのです。

私はその感想を、仕入れ先のワインショップのオーナーさんに話してみました。私が「ワインは土地を楽しむという文化が根底にあるのでしょうか?」と尋ねると、オーナーさんは「土地への愛、そして人への愛でしょうね」と話してくれました。「もともとワインは『どこの国のものが美味しい』などと言って遠くから輸入して楽しむものではありませんでした。王様なんかはそうしていたかもしれないけど、庶民は土地のワインを飲んでいましたからね」

私は、「土地のものは美味しく感じるということでしょうか?」と尋ねました。するとオーナーさんは意外にも「でも、年によっては美味しくなかったこともあったと思いますよ」と答えました。私が不思議そうな顔をするとこう続けました「出来が良くなかった年もあったでしょうから。昔の人たちは『今年のワインは酸っぱいね』と言いながら飲んだ年もあったと思うんです。でも彼らは『だから他の地方のワインを買って飲もう』とはならなかった。『今年のワインは酸っぱいから、酸っぱいワインに合う料理を作ろう』と考えたのではないでしょうか。それは土地への愛であり、ワインを作った人への愛があったと思います」と笑顔を見せました。

本当にそうだったかはわかりませんが、とても納得できるお話でした。ワインと食の文化は、「土地のものを飲む」「隣人が作ったものを飲む」という感覚の中で生まれ、オーガニックの考え方もそのように育まれてきたように感じました。

ワイン文化の根底には土地と人との付き合い方がある

そう考えると、日本でよくあるように「健康に良いのか」とか「美味しいのか」など「消費者である自分にとってのメリット」を探す文脈とは全く違うものに思えます。

もちろん、日本人にも「人への愛」で食事を楽しむ心はあります。愛する家族が作った料理には、どこの高級店とも比べられない美味しさがあると思います。

ワイン文化にある「土地と人との付き合い方」というオーガニックの視点は、愛情に溢れていて温かいと感じました。日本のオーガニックでも、こうした視点を大切にして行けたらより豊かになるかもしれません。

 

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筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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