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物価高に苦しむ有機市場。逆転の鍵は「エセ有機」の排除?【オーガニック問題研究会マンスリーレポート18】
「有機食品購入、物価高が影響 消費者意向調査」
日本農業新聞に掲載された5月10日付の記事見出しです。
農水省が実施した最新の調査結果によると、「週に一回以上有機食品を利用する人の割合」が前回までに比べて大きく落ち込んでいることが明らかになりました。
2017年調査時の17.5%から、コロナ禍中の2022年には32.6%まで急上昇していた数値が、今回の調査では再び17.4%にまで下落しています。
オーガニックを意識している余裕がない
農林水産省「有機農業をめぐる事情」(令和8年4月版(令和8年4月1日更新))より
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/index-171.pdf
背景には、コロナ禍における一時的な「巣ごもり需要」「健康志向の高まり」の反動に加え、見出しの通りインフレや厳しい物価高が影響しているのは間違いないでしょう。
このことについては前回取り上げた政策審議会の場でも出席した委員から指摘があり、「非常に需要が広がっていない」「週1回以上使っている人は非常に限られたところで、そこが増えていない」など危機感の滲む発言が相次ぎました。(※1)
一方で「有機食品の一般的な食品との価格差」を問うアンケートについては、6割程度の回答者が一定の価格差は受容しているとして記事中では前向きに取り上げられていますが、本調査が実施されたのが昨年末頃のこと。イラン情勢の先行きが不透明ないま再び同じ質問をしたら、果たしてどうでしょうか。
家計は厳しく、物価高の落ち着く気配はなく、社会全体が先の見えない不安に苛まれている今、「オーガニックを意識している余裕はない」というのが多くの生活者の偽らざる本音だと思います。
有機農業を推進する人々からは「こんな時代だからこそ輸入資材に頼らない地域資源循環型の有機農業が重要だ」といった言説が散見されます。個人的には一理あると思いますが、この文章は「有機」の文字を抜いても同じように成立します。というより、有機に限定する意味がありません。事態はもはや有機農業という狭い枠組みの優位性を殊更大きく見せることに躍起になっていられる状況ではないのです。
有機JAS vs エセ有機?
ただし、国内マーケットにおいて有機JAS農産物に対する堅調な需要そのものは継続しているとみられ、物価高等の影響から消費全体が伸び悩んでいるからといって有機だけが急に腰折れするような要因も特段見当たりません。
そのようななか、鈴木憲和農水大臣からSNS上で興味深い発信がありました。
有機JASを取っている方が、バカらしいと思わない世界にしないと、、、まともな有機のマーケットが日本では成立しないと前々から思っていますので、様々検討させてください。
— 鈴木憲和 (@norikazu_0130) April 7, 2026
一部のX(Twitter)ユーザーにとっては記憶に新しいと思いますが、これは長野県で有機農業を営む茂木伸夫さんの「昨今のニセオーガニック情報が氾濫するのを目にするたびに、有機JASの書類に手がつかなくなってきています」という投稿へのリプライとして書かれたものです。
有機JAS認証を取得して堅実に経営している有機生産者が、「昨今のニセオーガニック情報」に触れるなかで「だんだんと有機、オーガニックという言葉が嫌いになりつつ」あり、認証を維持するモチベーションを落としている。その声に現役大臣が寄り添い、対策する意思を表明した格好になります。
後日それを報じた日経新聞の記事では、なぜか発端となった「昨今のニセオーガニック情報」については全く言及されておらず、認証取得に伴う生産者側の負担の大きさと、その一方で認証未取得でも有機を名乗って販売できてしまう現状が問題点であったかのように取り上げています。(※2)
筆者の理解が正しければ、茂木さんが憂慮しているのはJAS認証を取得していない有機農家の存在ではなく、有機農業の優位性を主張したいあまり誤情報や陰謀論に頼って慣行農業を貶めるような生産者や事業者、消費者が野放しになっている状況ではないかと思います。
例えば国が対策として「有機農業やオーガニックを名乗るには、販売方法を問わずJAS認証の取得を必須にする」などと厳格化した場合、「昨今のニセオーガニック情報」を発信する生産者や事業者のいくらかは淘汰されるかもしれません。
しかし、そうしてしまうと統計上の有機耕地面積や取り組み人数にカウントできなくなるため、有機拡大を目指す国としては現状維持のまま曖昧にしておきたいところでしょう。
また、SNSで一部に見られるような「認証を取得していないのはエセ有機農家である」といった一方的な論調に対しても、留保する必要があります。
日本の有機農業は草の根的な産消提携の市民運動として始まった1970年代の成り立ち以来、生協や直販など、必ずしも認証を取得しなくても出荷できる販路が歴史的に一定程度根づいており、有機JAS認証は2000年代に入ってから市場の拡大に合わせて導入された制度です。
そのため、十分に認証の取得が可能な栽培水準とリソースを持っている有機生産者であっても、あえて経営判断として認証を取得していないケースは決して珍しくありません。
もちろん、認証を取得・維持できるだけの経営水準に達していなかったり、認証制度自体に懐疑的・感情的に反発を抱く生産者、またそれを支持する消費者層も一定数存在しており、そうしたなかには誤情報や陰謀論と親和性の高いグループが見られるのも確かです。
ただ、これに関しては有機JAS認証を取得していたり経営規模がしっかりしていれば誤情報や陰謀論と無縁でいられる、とも言い切れません。例えば前回の記事で紹介したように、100haを目指す大規模有機の経営者であっても「抗がん剤に匹敵する有機農産物の可能性やエネルギー」というような危うい発言をしています。
有機マーケットは健全化に向かうのか
鈴木大臣の投稿の真意はわかりませんが、前後の文脈からひとつ推測できるのは「国として有機農産物マーケットの拡大を引き続き目指していく前提のもと、有機JAS認証取得を従来以上に強く生産者に促していく可能性」の示唆です。これはマーケット側の要求とも一致しています。卸や小売にとって、JASのない有機商品を取り扱うことで発生する現場の説明責任コストは多大な負担となるからです。
国が有機と慣行農産物との価格差の圧縮、さらなるコモディティ化をイメージして有機支援のリソースを配分していくとすれば、JAS認証や慣行農業に対して攻撃的な振る舞いをみせるような小規模生産者や事業者は徐々に行き場を失い、広いマーケットからは退出していく代わりに、ますます先鋭化して陰謀論団体や反医療団体、それに近しい政治家らと結びつき、学校給食や交付金事業への介入を強めるおそれもあります。
その受け皿を狭めていくことが有機マーケットの健全化と「ニセオーガニック情報の氾濫」への対策には不可欠だと思うのですが、少しでも有機面積と取り組み実績をかき集めたい国に本当にそれができるのか、引き続き動向を注視しましょう。
出典
(※1)令和8年度食料・農業・農村政策審議会果樹・有機部会(第3回有機関係)議事録
(※2)オーガニック農業、実は4割が認証なし 生産者の嘆きに農相共鳴(日本経済新聞)
筆者熊宮渉(ダイアログファーム代表) |



