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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート37〉 【ナス農家の直言】
今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート37〉」
をテーマに、農家の私ナス男が紹介していきます。
1.(中)越冬する虫に対しても、冬に消毒しまくるのか!
「冬に害虫はいなくなるはずなのに、なんで暖かくなるとまた増えるんだよ…」
そう考えたことのある方は、私だけではないはずです。
結論から言えば、害虫は冬の期間、土の中に潜ったり暖かい場所で越冬しています。
代表的な暖かい場所とは、ビニールハウスの中や暖房機の近くです。
私のビニールハウスにも、冬の期間はコナジラミがわずかですが存在します。
そして春の暖かい気温になると、コナジラミの個体数は一気に増えるのです。
害虫の爆発的増加を防ぐために、天敵生物であるタバコカスミカメを使いながら、大発生を防ぐIPM(総合的病害虫管理)をしています。
ちなみにコメ農家さんの話を聞くと、稲刈り後のコンバインや乾燥機ラインの掃除はマストでやる作業だそうです。
なぜならしっかり掃除しないと、次年度コクゾウムシとアワノメイガが越冬して増えてしまうから!
残渣(ざんさ)や米ぬかのカスの中でも、害虫は越冬できちゃうってことですね。
農家は農薬だけではなく、冬の寒さを味方につけて、害虫の繁殖を防いでいるのです。
2.(二)冷え込んだ一晩で野菜が枯れた! 農薬をかけられた!
冷え込んだ一晩で枯れたような症状になってしまうと、農薬の被害を疑いたくもなりますが……
夜間や早朝の放射冷却による急激な温度低下の結果起きる「霜害」を真っ先に疑った方がいいでしょう。
霜害とは、霜が降りるほどの低温によって植物体内の水が凍ってしまうことです。
作物内の細胞が損傷してしまうことで、枯れたような症状が起こります。
霜害の対策としては、
- ビニールや寒冷紗などを作物に被せる
- 暖房などで作物を温める
- 防霜ファンで暖かい空気を送る
- 葉面散水で水をかけ続ける
などがあります。
特に4の葉面散水は意外かもしれませんが、水が凍る際に出る凝固熱(融解熱)によって葉面の温度が下がりすぎないようにするためです。
家庭菜園でお金を多くかけられないという方は、1の被覆資材か、もしくは寒さに強い作物を栽培することを私はお勧めします。
3.(三)ヤギで除草しろ!
「ヤギをレンタルしてきて雑草を食べさせれば、除草剤や草刈りも要らないだろ!」
と思いつく方は、少なくないでしょう。
1日で10㎡の草を食べてくれると言われていますし、除草として利用している農家もいます。
実際に地域によっては、ヤギをレンタルするサービスはありますし人気もあります。
● 集客にも使える
● 機械や農薬を使わないからエコ
● ヤギの糞が堆肥になる
● 農家の省力化になる
など、メリットも多いです。
しかしヤギの除草には、メリットだけではなくデメリットもあります。
①ヤギにも好き嫌いがある
ヤギは全ての草を満遍なく食べてくれるわけではありません。
ヤギが食べない雑草もありますし、中にはヤギが食べてはいけない植物もあります。
事前に下見して、ヤギが食べてはダメな雑草は抜いておく手間がかかります。
②行動範囲の管理が必要
ヤギは放し飼いができる動物ではないので、首輪につないで除草範囲を定めることが必要になります。
脱走したり、作物を食べてしまう可能性もなくはないです。
ペットと同様にお世話も必要になるので、自動草刈り機みたいなイメージを持つのは良くないです。
③コスパが良くない
ざっとヤギレンタルの料金を調べてみると、1頭あたり「1週間5,000円~1カ月1万円」くらいが多いですね。
コストパフォーマンスをどう見るかですが、小面積であれば、私は自分で除草するほうが安いと思います。
除草剤に数千円かかったとしても、一日で終われば気が楽ですからね。
私の主観も混じりますが、作物の利益を求めるだけの農家にとっては、ヤギが実用的な除草方法となりえるケースは少ないでしょう。
4.(一)国産米も燻蒸処理されている!
「コメの保管庫でコクゾウムシなどを〇すために、国内流通のコメも燻蒸処理されている!」
という、SNSのコメントが炎上していました。
たしかに国産米の燻蒸処理は、昭和59(1984)年に禁止になるまでは、行われていたところもあるようです。
しかし臭化メチルなどの残留農薬が問題視され、現在では禁止されました。
コメの保管については現在は冷温貯蔵が主流で、輸出用に燻蒸する場合も炭酸ガス(CO2)による害の少ない処理が取られています。
もし見間違いがあるとすれば、入荷前に倉庫の掃除などを行う際に、ネズミの忌避剤や消毒や燻煙処理等だろうという見解です。
いたずらに不安を煽るにしても、行き過ぎたデマですね。
5.(左)二酸化炭素(炭酸ガス)は農薬登録もされている
先に紹介した通り、炭酸ガス(CO2)は燻蒸処理に利用されており、残留性の心配がなく安全性の高い燻蒸処理方法です。
私たちが生きている中で吐いている二酸化炭素も、実は農薬登録がされているのです。
農薬や登録と聞くと、恐ろしい化学薬品ばかりを想像してしまうかもしれませんが、重曹や酢(特定農薬)を始め、実は私たちの身近なものも農薬登録されてますよ。
6.(右)堆肥は4年以上熟成させないと危険!
「4年以上熟成させた堆肥でないと、すぐに腐る野菜になる!」
と教えている、謎の動画を発見しました。
たしかに未熟な堆肥を投入してすぐの作付けは、多くの作物にとって悪影響が出ます。
それは未熟堆肥中の細菌や発酵熱などで、作物の根っこが痛んでしまうからです。
完熟堆肥がいいのはその通りなのですが、必ず4年以上の堆肥化が必要ということは疑問です。
おそらくC/N比(炭素率)=有機物に含まれる炭素(C)と窒素(N)の質量比が高い有機物が分解されにくいということを言いたいのだと思います。
堆肥化されていないもみ殻などは、作物に吸収される形態になるのに3~5年かかるとも言われますから、セルロースなどの難分解性有機物の知識だけをすくって、4年以上と言っているのだと思います。
嘘の中に少しの真実を混ぜて伝えるのがうまい方がいるので、注意してください。
ちなみに、「慣行栽培の野菜は腐って、自然栽培の野菜は枯れる!」という言説もまちがいですので、要注意!
参考
7.(捕)オーガニックな洗剤の方が安全!
オーガニックな洗剤とは、一般的には「有機農法で育てた植物由来の原料を含む石鹸」を指します。
オーガニック石鹸は農薬や化学肥料を使わず、持続可能な方法で育てられた原材料を使用するため、製造時から使用時までの環境負荷が少ないのが特徴です。
そして石鹸を使用したときに出る石鹼カスは、魚や微生物のエサとなるため、水質悪化にはなりません。
しかし、メリットばかりに見えるオーガニック洗剤にも、デメリットはあります。
- 敏感肌の方やアレルギー体質の方は、オーガニック石鹸でも何らかの植物成分と相性が良くないことがある
- 石鹸の主原料であるパームヤシの農地拡大で、環境破壊が進む可能性がある
- 過剰に排出されると微生物が増えすぎて、水中の酸素濃度が低下し、結果的に水中の生き物たちに悪影響を与える可能性がある
などです。
合成洗剤を全否定し、オーガニック洗剤だけに傾倒していくのは良くないと思います。
8.(遊)農薬のボトルの処理は、土に埋めている!
「農地を掘り返したら、昔の農薬が出てきた! 農家の農薬ボトルの後始末は雑すぎる!」
という指摘がありますが、昔はたしかに農薬の容器の処理はお粗末でした。
現在では考えられないことですが、土地の片隅に穴を掘って、農薬ボトルはまとめて埋めることが推奨されていた時代もあるようです。
今では当然、農薬ボトルを個人で処分することはできず、プラスチック類や金属類の容器は産業廃棄物として回収されます。
ちなみに私の場合は、JAの産廃物回収の日に、まとめて持って行って処分してもらいます。
9.(投)農薬メーカーの食堂では有機栽培野菜しか提供されない!
「除草剤を売っている企業では、有機栽培の野菜しか食堂で提供されない!」
という投稿を見ました。
農薬メーカーの知り合いの方に聞いたところ……
知り合いの農薬を取り扱っている会社の方は、コンビニや外食も利用しています。
ちなみに陰謀論の標的にされている政治家や投資家たちも、慣行栽培の野菜も食べていますし、ジャンクフードも好んでいる印象です。
まとめ
これからも農業デマの拡散を防ぐために、消費者に分かりやすく農業デマを紹介していきます。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |