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第1回 冬のお化け 鈴木宣弘批判決定版【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】

特集

東京大学教授の鈴木宣弘氏がメディアを賑わしている。『文藝春秋』2023年4月号でも「日本の食が危ない!」という緊急特集で、意図的と思える嘘と同氏の無知に基づいて不安を煽る。ウクライナ紛争、その他の要因による飼料や肥料の高騰に伴い、酪農を含む農業経営が打撃を受けている。それを話題として取り上げるメディアにとって鈴木氏の“放言”は、衆目を集める都合の良い“ネタ”なのだろう。
しかし、少しでも農業や世界の農業事情に通じた者であれば、同氏の発言がとんでもないデタラメや同氏の無知をさらけ出したに過ぎないものであることがわかるはずだ。
本特集は、『文藝春秋』2023年4月号に「日本の食が危ない!」として掲載された内容を検証したものになる。読者たる農業経営者だけではなく、彼を便利に使い、売れっ子に祭り上げてしまっているメディア関係者にもぜひとも読んでいただきたい。鈴木宣弘氏がこれで大学教授が務まるというのなら、東京大学の権威も地に落ちたものだ。彼のデタラメで無知をさらけ出した放言をそのままにしておくわけにはいかない。(昆吉則)

 

『文藝春秋』2023年4月号の緊急特集「日本の食が危ない!」の読後感を頼まれた。筆者は、東大教授の肩書きを持つ、あの鈴木宣弘さん。拝読しての印象は、困惑の一語に尽きる。食料安全保障がテーマなのに、それこそ書いてあることは、「このままでは国民が飢え死にする」内容だからだ。

鈴木さんが書くものは、とにかく筋が粗い。事実の取り違えもある。看過できないのは、裏付けのつもりで出してくる数字に歪曲したものが多く、正直、そのことが分かってしまえば、読むに堪えないということになる。困惑したのはそのためだ。

オオカミ少年が説く食料安全保障

まず、筋が粗っぽいと思ったのは、冒頭からGM作物の問題を持ち出してきたことだ。この種の企画を、このタイミングで組んだのは、サブタイトルが示す「国民が餓え死に」しないよう食料安全保障の問題を正面に据えて、その重要性を読者に喚起してみようということのはずだった。

食料安全保障に対する、この方が持ち合わせている“見識”を見事に示してくれたのは、リード(前文)で十八番(おはこ)の「遺伝子組み換え作物」(GM作物)と「ゲノム編集食品」の話題を振ってきたことだった。

「日本が直面しているのは自給率という『量』の問題だけではない。食料の『質』という面でも、懸念がある。例えば、『遺伝子組み換え作物』(GM作物)がアメリカなどから大量に輸入され『ゲノム編集食品』が国内でも積極的に生産されている。これらバイオ技術を駆使して誕生した作物や食品は、長期的に人体や生態系にどのような影響を与えるかについて、誰も分からない」

鈴木さんの首根っこを捕まえて連れていってやりたいところがある。飢餓の苦しみにあえいでいる人たちのところだ。その人たちの前で同じことを言ってみるがよい。石もて追われるのがオチだ。

鈴木さんは、GM作物とゲノム編集食品に対し、しきりに危ない、危ないと吹聴して回っているが、国内に関する限り、安全性はしっかりと保証されている。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)によるコーデックス基準があり、内閣府の食品安全委員会はそれに沿って国内基準を定め、厚生労働省や農水省が厳しく監視している。

その態勢がとられて20年経過し、鈴木さんが危惧するような事態は一度も起きていない。それどころかGM作物とゲノム編集食品を積極評価する動きも出始めている。それもこれまでネガティブに受け止めていた生協組織の中からだ。首都圏に363万人を擁するコープみらい(さいたま市)は、ホームページでゲノム編集食品についての見解を掲載している。

「農作物の品種改良などによる食料問題の解決、新たな治療技術の創出、創薬の加速、CO2吸収力を高めた植物・海藻の開発による気候変動への対応等、さまざまな分野での応用が期待されています」

従来の考えを変えて食料問題の解決に役立つと期待を寄せているのだ。いつも危ない、危ないと吹聴して回っている鈴木さんは、まるでイソップ寓話のオオカミ少年のようである。

根拠なしの自給率「一〇%前後」

緊急特集のハイライト部分は、100頁のこの記述だ。

「今は国産率九七%のコメも、二〇一七年以降の一連の種子法廃止と種苗法改正で、いずれ野菜と同様、一〇%前後の自給率に落ち込む可能性も否定できないのだ」

これを読まされた読者がどう反応するか。想像に難くない。この数字を見せつけられたら恐怖で金縛り状態に陥るだろう。それが鈴木さんの狙いどころだ。世間では、不安を煽って、壺や印鑑や置物を売りつける商法があるそうだが、不安を煽るところだけは、その商法と何ら変わるところはない。

文藝春秋編集部も、ここが雑誌のウリとみたのか、その部分をサブ見出しに使ってきた。

「有事の際は餓死者も! 食料自給率は10%」

その数字が正しいものなら、何も問題はない。もし根拠がない数字なら、読者をミスリードすることになる。数字を検証してみよう。「国産率九七%」は、日本人が口にする米の自給率としては、農水省統計でも確認できる正しい数字。首を傾げるのは、問題の「一〇%前後の自給率に落ち込む」という部分になる。根拠は何も示されていない。鈴木さんの妄想の中から出てきた数字だ。こんなことは許されないはずなのに、文藝春秋編集部はチェックしていなかったみたいだ。

筆者も、この数字には首を傾げた。主食の米だけは、有事になっても、100%自給を確保することは難しいとしても、「10%」に落ち込むようなことはないと思っていたからだ。引用部分を読み返してみた。おやっと思ったのは、数字の前段にある「一連の種子法廃止と種苗法改正」という部分だ。種子法廃止と種苗法改正で稲の種子が自給できず、従って米の生産が「一〇%前後」になる組み立て方だ。

これは単なる事実の取り違えではない。ねつ造に近いものだ。少なくとも稲の種子は一粒も海外から輸入していないし、今後も自給は続く。それは有事に陥っても同じことだ。そのことは鈴木さんも分かっているはずだ。

それなのに鈴木さんは、なぜ「一〇%前後」と書いてきたか。その答えは実にシンプル、講演や執筆活動の“営業方針”のためだ。鈴木さんは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に反対のスタンスを取った。以前からGM作物の安全性に懸念を抱き、自由貿易が進めば、GM作物だけではなく、その種子も国内に入ってくるということで、鈴木さんのGM作物嫌いがいっそう強まったようだ。

ところが、TPP協定は2018年に発効した。鈴木さんが強く懸念したGM作物の安全性の問題は何も起きなかった。そこで営業のテコ入れのため、食料安全保障の議論にも持ち出してきたという見方はどうか。この見方に反論があるなら、「一〇%前後」の根拠なるものをぜひ示していただきたいものだ。

お粗末な「農業生贄論」

食料安全保障は、農業と形影相伴の関係にある。その人の食料安全保障観を知るには、その人の農業観を質せば事足りる。
鈴木さんの農業観なるものを象徴するのは、101頁の「農業生贄論」だろう。

「TPP協定など、巨大な自由貿易協定を一つ結ぶごとに自動車産業は約三兆円も儲かり、農業は一兆数千億円規模の損失を被ることが分かっている。自動車産業を守り、農業を差し出す――日本は国家ぐるみで農業を“生贄”にしてきたと私は考えている」(一部省略)

読者もどこかで耳にしたことがあるだろう。政府が、農産物市場の開放に向かうと、農協組織から出てくる反対論だ。鈴木さんは、その勢力の広告塔なのだ。その勢力が競争を毛嫌いしてきた結果、日本農業がどういう状況に陥ったか。あらためて説明の必要はあるまい。鈴木さんも慨嘆している「離農者数の増加」「輸入依存」「自給率の低下」という事態を招いてしまったのだ。鈴木さんも口にする「農業生贄論」は、極めてナンセンス。農家の家計収入に占める農業収入の割合を調べれば、すぐ分かる話。その仕分けで統計をとっていた農家の家計収入調査では、平均的な水田作農家の1~2ha階層で、農業収入は10.5%しかなかった。「農業生贄論」を口にする前に、残りの収入を農家はどこから得ているか、胸に手を当ててよく考えてみることだ。

政府をねだる道具に使われた食料安全保障

その勢力が最後にたどり着く結論は、農業予算をもっと寄こせと、政治力を使って政府に圧力をかけることだ。看過できないのは101頁のこの部分。

「農水予算は年々減る一方である。予算額は、この数年間で一兆円以上減り、近年は二兆円台で推移している」

予算には、通常予算と補正予算があるのに、わざと後者を隠して少なく見せている。補正予算を加えると、2013年度からの10年間で平均2兆9550億円の予算がついている。大学教授の肩書きを使う前は、農水省にもいた。そんな人物に補正予算のことは知らなかったとは言わせない。こんな数字の使い方を世間では“インチキ手品”の類いと呼ぶ。「学者失格」の烙印を押しておこう。

そして鈴木さんらしいのは、農水予算の増額を主張しながら、その使い道について何も示していないことである。鈴木さんが、日頃から食料安全保障のことなど何も考えてこなかった、そして今も考えていないことを示す証拠のようなものだ。彼を慕う“信者さん”へのメッセージを発信しているのかもしれない。

GM作物に対する彼の根拠のない記事に対し、“冬のお化け商法”と皮肉っておいたことがある。出そうもないのに、出るぞ、出るぞと恐怖を煽り、木戸銭を集めることだ。食料安全保障の議論でも、その商法は健在だった。根拠もない数字でただ不安を煽るだけ。これではまともな議論は期待できないと思った。

【第2回へ続く】

 

【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】記事一覧

筆者

土門 剛

続きはこちらからも読めます

※『農業経営者』2023年5月号特集「おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する」を転載

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