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第5回 「日本の食が危ない!」は正しいのか? 10の感想(その2)【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】

特集

大きな論点について触れる前に、感想めいたことをいくつか述べたい。

感想5

個人的にアメリカにいじめられたのか、いじめられるところばかり見てきたのか、アメリカ憎しの反米主義者のようだ。中国共産党やロシアのプーチン大統領に親しみを持つのだろう。

マッカーサー率いるGHQがなければ戦後の民主化はなかった。農地改革は、柳田國男、石黒忠篤、和田博雄など農林官僚の執念が結実したものだが、GHQがなければ地主勢力の代弁者だった与党自由党に押し切られていただろう。

戦後の米凶作の中で、国内供給だけでは飢餓を克服できないと考えた吉田茂総理以下日本政府は、マッカーサー等に食料援助を繰り返し懇請した。今の農業界は輸入を敵視するが、このときアメリカからの援助がなければ、多くの日本人が餓死した。実際には、農林省が予想したほどの不作ではなかったので、予定した量より少ない輸入で済んだ。これをマッカーサーからなじられた吉田は、「日本の統計がしっかりしていたら貴国と戦争なんかしなかった」と答えたという。

アメリカが日本の食生活を変えたと主張している。しかし、アメリカの小麦業界は小麦の消費拡大を進めたが、アメリカ政府は違った。余剰農産物交渉において、アメリカ政府は学校給食に脱脂粉乳と綿花(学童服用)を提案したのに、主に小麦を輸入したいと主張したのは日本政府だ。アメリカ農務省は米を輸出したかったが、外貨が不足する中で、日本は高い米よりも多く輸入できる安い小麦を選んだ。また、アメリカが贈与した小麦はパン用小麦ではなく、日本はカナダ産とブレンドして使用した。これには、伊藤淳史京都大学准教授の“PL480タイトルIIをめぐる日米交渉”という論文がある。

このとき、農業予算が不足していた農林省は、アメリカから余剰農産物を購入する際、日本が用意する代金の7割を、日本が経済開発に使えるという学校給食とは別の仕組み(PL480タイトルI)を利用し、愛知用水の開発を行った。アメリカ農務省は、農業投資に使われてアメリカからの輸出が減少するのではないかと反対したが、当時の農林次官東畑四郎は吉田首相とともにアメリカに行き、経済開発に農業開発も含めることを認めさせた。ここで東畑は7割を確保するために、20万トンの米輸入を飲まされている。

要するに、アメリカ政府は同国産小麦の日本市場開拓という意思を全く持っていなかった。国際収支の制限の下で、小麦による粉食奨励を行ったのは日本政府だったのだ。

日本がガット加入を申請した際、ヨーロッパ諸国が日本に厳しく関税削減を要求したのに対し、アメリカは、日本に代わって自国の関税を引き下げ、日本の加入を助けてくれた。

確かに1980年代、日本が巨額の対米貿易黒字を抱えていたころの日米牛肉・かんきつ交渉は、日本農業界にとって厳しいものがあった。しかし、アメリカの政治状況やそもそも日本の貿易制度がガット違反だったことを踏まえれば、アメリカの主張は当然であるとも言えた。劣勢にあった日本の交渉者の中でも、京谷昭夫畜産局長(当時)はアメリカのヤイター通商代表に「スターウォーズの“ダースベーダー”のようだ」と言わしめるほどの交渉者ぶりを発揮した。

総じてみると、アメリカはずいぶんと日本を助けてくれたのではないか? 私にはアメリカを憎む気持ちが理解できない。

麦の生産が減少したのは、アメリカのせいではない。兼業(サラリーマン)化が進み、集落がまとまって田植えをできるのがゴールデンウィークのときしかなくなった。田植えの時期が6月から5月初めになったので、6月に収穫期を迎える麦の生産ができなくなったのだ。こうして麦秋は消えた。

食生活を変え、自給率を下げたのは、アメリカではなく、JA農協、農水省、農林族議員の農政トライアングルだ。1960年の79%からの自給率低下は、米の生産減少によるものだ。また、鈴木氏はTPPや日米貿易協定で自給率は下がると主張しているが、果たして自給率は下がったのか?

アメリカ産農産物の輸入を促進したのは、JA農協だ。JA農協は、農家が生産した畜産物を販売するだけではなく、アメリカから穀物を日本へ輸出し、これを加工して付加価値を付けた配合飼料を、畜産農家に販売することで、利益を得た。生産物と資材の販売の双方向で二重の手数料を稼いだのである。

アメリカは牛肉については自由化や関税削減を強く迫ったが、バターを主体とする乳製品については、自国が多く生産するチーズの副産物であるホエイを除き、関税引き下げを求めなかった。日本の酪農を維持して穀物を輸出した方が有利だからだ。日本の酪農については、JA農協とアメリカ穀物業界は利益共同体である。被害者は、高い牛乳・乳製品を買わされる日本の消費者である。日本の畜産物の原産地はアメリカだ。これが「国産国消」を主張するJA農協の裏の顔だ。

感想6

政府(農林水産省)や大企業への批判的な主張がヒステリックに展開されている。手あたり次第攻撃しているので、自己の主張の不整合性や矛盾に気がつかない。放牧型の酪農が良いというなら、なぜ輸入穀物を牛に食べさせる酪農に対して保護や救済策を講じる必要があるのか?

感想7

鈴木氏は政府・農水省は批判するが、その黒幕のJA農協は批判しない。米を作らせないのは政府だと言っているが、米の生産減少を先頭に立って旗振りしているのは、JA農協ではないか?

JA農協は、供給を減少させて高い米価を維持したいのだ。減反で最も利益を受けるのは、JA農協だ。米価が高いと販売手数料収入を稼げるだけではない。零細な兼業・年金農家を滞留させ、そのサラリーマン収入や年金収入を預金として確保することで、金融利益を上げようとしているのだ。こうして集めたJAバンクの預金額は100兆円を超える。JAバンクは日本有数のメガバンクであるだけではない。その預金量の7割をウォールストリートで運用する、日本最大かつ最強の機関投資家なのだ。

一般の公務員は兼業を厳に禁じられている。講演も自由にできない。しかし、国立大学の教授には兼業禁止義務が課されていない。羨ましいことに、彼らは複数の収入源(ポケット)を持っているのだ。国公立、私立を問わず、農学部の教授に主に講演依頼をするのはJA農協である。スポンサーであるJA農協の批判はできない。また、JA農協を批判すると、学生の就職を拒否される。JA農協のアメとムチによって、農業経済学者はJA農協を中心とする農業村の一員となる。2012年から2018年にかけてJA農協のシンクタンクであるJC総研の所長を兼務していた鈴木氏は、JA農協を批判できないのだろう。

ところで、米を作らせないことを批判する鈴木氏は、減反廃止論者に転じたのだろうか? それなら、素晴らしいことである。

感想8

農業予算を増やせば農業は活性化するという単純な発想を持っている。農業予算を使ってJA農協は何をしたのか? 3500億円もの予算を使って、日本の主食である米つぶしを行ってきたのは、誰なのか? 予算が増えれば、それは農業に関係する多くの既得権者のために使われるだけで、ますます農業殺しは進む。

感想9

各国の農業保護を農業予算だけで比較しようとするのは、完全に間違っている。OECD(経済協力開発機構)が長年行ってきたPSE(生産者支持推定量)の分析を勉強していないようだ。日本が世界10位の農業生産額を達成していることを評価している(「選び抜かれた精鋭だ」と言う)が、なぜ自給率38%の国が、大農業国であるフランス、カナダ、オーストラリアを凌駕する生産額を実現する(実にカナダ、オーストラリアの倍以上)ことが可能なのか、考えたことがあるのか? 単に水ぶくれしているだけの中身のない日本農業なのだ。

感想10

7千万人が餓死するというアメリカの研究チームの報告を紹介しているが、その根拠を示していない。食が危ないというが、1億2千万人の国民が生存するためには、いくら食料が必要なのか、根本的な点に全く触れていない。どれだけ必要かがわからないのに、どれだけの農業予算とどのような政策が必要なのか、検討できるのだろうか? 農業予算を増やせと連呼するだけでは、余りにも芸がない。

〜感想(その1)はこちら〜

【第6回へ続く】

 

【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】記事一覧

筆者

山下 一仁(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

続きはこちらからも読めます

※『農業経営者』2023年5月号特集「おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する」を転載

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