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農業に関するデマで打線組んでみた!パート24〈ネオニコチノイド編〉【ナス農家の直言】

農家の声

農薬に関するデマでグリホサートと並んで特に多いのがネオニコチノイドに関するものです。ネオニコチノイドのデマだけで打線が組めてしまうほど、情報やデマが散見されているので注意が必要!
ということで今回は、
「農業に関するデマで打線組んでみた!パート24〈ネオニコチノイド編〉」
をテーマに、ネオニコチノイドのデマを農家の僕ナス男が紹介します!

1.(二)ネオニコとは何だ?

まずネオニコチノイド(通称ネオニコ)とは何かというと、比較的新しく開発された現在主流の農薬成分の1つです。
ご存じの通り、昆虫だけではなくヒトにも強い毒性のあるニコチンの、化学構造式を少し変えて生まれたニコチン類似物質です。
日本では1993年頃から使用されるようになり、現在は農薬取締法に基づいて7つの化学物質がネオニコ系農薬として登録されています。
ネオニコチノイド系農薬は、

  • 作物への浸透移行性がある
  • 残効性がある
  • 幅広い種類の害虫に効く

というのが特徴で、農家としてもローテーション防除の一角として重宝される一方で、その作用の特徴から誤解やデマを受けやすくもあります。
ネオニコの誤解やデマを以下に挙げていきます。

2.(遊)ネオニコでハチが絶滅してしまう!

「ネオニコのせいでミツバチが激減している! ハチがいなくなれば、農業は成り立たなくなるぞ!」

という批判があります。
たしかにネオニコは他の殺虫剤と比べて、マルハナバチやミツバチに対して影響日数が長いです。
ネオニコ系農薬をハウスの作物に使用すると、しばらく期間を空けないと、ハチをハウスに再び放つことができません。
しかし以前の記事でも紹介した通り、ミツバチの減少はネオニコだけが原因ではありません。

  • 地球温暖化や気象変動
  • ミツバチに寄生するダニ
  • 環境破壊

など、ミツバチに影響を与えうる原因は、ネオニコだけに絞れないのです。
ネオニコ憎しで批判している人の意見を一旦置いておいて、冷静に議論を進める必要があります。

3.(右)ネオニコのせいでワカサギが絶滅した!

「宍道湖のワカサギがいなくなったのはネオニコのせいだ!」

以前も紹介しましたが、ワカサギの消失をネオニコのせいと断定するのは性急すぎます。
島根県の見解では、夏に30℃以上の高水温の日が続き、ワカサギが生きにくくなった可能性も考えられるとしています。
島根県より北の県では、ワカサギは激減してないですからね。
ネオニコのせいだとするならば、全ての県でワカサギがいなくなってないとおかしいですが、そうはなっていません。
もっと詳しい続報を見てから、議論を進めてほしいです。

4.(一)ネオニコは残効も長く、全ての昆虫に影響がある!

「ネオニコ系農薬は、数カ月も残効性がある!」
「全ての害虫を駆除し、寄せ付けない!」

ネオニコに対するこれらのイメージは、現場の農家としては反論するしかありません。
当初は残効性の長さをウリにして発売されたのかもしれませんが、抵抗性がついたのか、現場の農家としてはそこまで保たないという印象だからです。
夏場であればネオニコ系農薬を使用して、数カ月というより数週間すら経たずに、また害虫が発生するのですから。
また、幅広い害虫スペクトラムがあると言っても、全ての昆虫に対して効果があるわけではありません。
それにネオニコが効かない害虫も当然います。
「とりあえずネオニコ入れとけば大丈夫」「ネオニコは全ての生物を駆逐する悪魔の薬」みたいな現実と剥離したレッテルが貼られてしまっているように感じます。

5.(三)ネオニコが原因で子どもの体調が悪化! 学力も低下!

以前の記事でも取り上げましたが、某ユーチューバーが、

  1. 動悸や記憶障害、手足のしびれなど、1000名を越える体調不良者が出た!
  2. 男児がブドウ狩りのぶどうジュースを飲み続けたら、失禁や腹痛などの体調不良が起きた!
  3. 果物やお茶の接種を止めたら、生徒の成績が一気に回復した!

という、ネオニコに関するショッキングな動画を投稿していました。

何かのニュース記事を引用する形で、ネオニコに対するショッキングなニュースを伝えたかったのかもしれませんが……
農家の私の意見としては、体調不良の原因を全てネオニコのせいにするのには、疑問がいくつかあります。

  1. ネオニコは多くの作物で使用が認められているので、ネオニコが体調不良の全ての原因だとしたら、1000名どころではなく隠しきれないほどの多くの被害者が出るのではないか。
  2. 原液でネオニコを扱っている農家は、消費者の比ではないくらい、バタバタ倒れてないと説明がつかないのではないか。
  3. ネオニコ系農薬も適切に使用すれば基準値以下の残留値しか出ないのが通常で、体調不良が出た観光農園が、残留基準に引っかかるような農薬散布をしていた可能性もあるのではないか。

これらの質問を某ユーチューバーにしても、未だに返答はありません。
さらに、再生回数が多いネオニコの動画はいつの間にか削除されていました。
私は「ネオニコの闇」に触れてしまったのでしょうか?
しかし、質問に対する返答は今でも待っています。

6.(中)無毒性量でもマウスの行動に異常が出る!

「マウスが異常行動を起こした! ネオニコの無毒性量に問題があるのではないか」という研究結果もあるようですが、農薬工業会の見解は以下のように異なります。

  • マウスの場合は性周期の不安定さなどにより繁殖毒性試験には不向きなので、マウスではなくラットで試験するのが通常
  •  ラットでは行動異常や発達神経の影響を見る試験は十分に行われている。

研究結果が集まっていけば、ネオニコの安全性に対する評価は変わるのかもしれません。
現時点では、ネオニコ系農薬は適切に使用すれば、安全性は学会や国が認めているということです。

TBSテレビ報道特集に関する農薬工業会の見解|農薬工業会ニュース|農薬工業会について|JCPA農薬工業会 (なおJCPA農薬工業会は2024年5月「クロップライフジャパン」に名称変更した)

7.(左)EUでは使用禁止で、以降一度も使われていない!

「EUではネオニコ系農薬は使用禁止になったのに、日本は逆行している!」
との批判はよくあります。

たしかにEUでは2018年に、全ての作物についてネオニコ系農薬の屋外使用は禁止されました。
しかし、ネオニコを禁止して以来、何も問題が起きていないかと言えば、そうではありません。
ネオニコ系農薬に代わる効果的な農薬は未だ開発段階なのに、主力農薬のネオニコ系農薬を禁止にしたものだから、現場の農家に被害が出ました。
フランスでは拙速なネオニコ系農薬の使用禁止により、テンサイ(砂糖の主要原料)の収量が3割減少したと報告されています。
そして度重なる病虫害の被害が発生する中で、代替策が見出せないことから、ネオニコ系農薬の特例的な使用が何度も認められたのです。
有効な別成分の農薬が新たに開発され実用化されてから、ネオニコ系農薬を禁止にするのなら、まだ分かるのですが……
ネオニコ反対の団体や活動家の主張に政治が屈した失敗策だったと私は思います。

ネオニコチノイド系農薬の緊急使用に否認の判決(EU)|農畜産業振興機構 (alic.go.jp)

8.(捕)ネオニコは母親を通して子どもに影響が出る!

「尿からネオニコが検出された!子どもの発達障害も増えているのは、ネオニコのせいだ!」

未だに根強くある間違いです。
母親の尿中のネオニコチノイド濃度と、子どもの発達障害の関連については、否定される論文が発表されています。

そして、子どもの発達障害と農薬の関連は確認されていません。

母親や子どもを責めて傷つけるデマは、即刻やめていただきたいです。

9.(投)日本はネオニコの残留農薬基準がゆるゆる!

「EUはネオニコの基準を厳しくしたのに、日本は緩めている!」
「EUに比べて、○○倍も基準が緩い! 世界に逆行している!」

いつまでも続くデマの一つが、EUとの農薬基準の違いに関するデマです。
たしかにEUは日本より、ネオニコに関する残留農薬基準は低いです。

しかし、前提条件を無視してデータを切り取って、危険を煽る手法には注意が必要です。

前提条件には、

  1. 残留農薬基準値=実際に残留している農薬量ではないこと
  2. 残留農薬の単位はppmで、100万分の1という微小な単位であること
  3. 農薬の成分によっては、日本の方がEUより厳しいものもあること

などがあります。
都合の悪い部分を巧妙にスルーして、日本ディスりをするのはフェアではありませんよね。
ネオニコに関しては、都合のいいデータだけを見せてくるデマが多いので、注意してください。

まとめ

私はナスの栽培期間中(年11カ月)に、ネオニコ系農薬は2回使用するかしないかです。
ネオニコに限らずですが、農薬を使用する時は、ラベル通りの使用を心がけています。
それでも、私はネオニコが100%安全だとは考えていません。

ネオニコは殺虫成分なので、使用すれば害虫の数は減りますし、生態系に少なからず影響を与えます。
賛否両論あること自体は私も肯定していますし、新しい事実が出てきて、ネオニコの安全性の判断が覆る可能性もゼロではありません。
しかし、ネオニコが悪質なデマ屋の飯のタネにされるのは心外ですし、農家に風評被害が出るのは遺憾です。
中には「たばこを吸いながらネオニコの危険性を煽る」勉強不足なデマ屋もいます(笑)。
食の安全に関する情報を集めるサイトの一つに、アグリファクトを入れていただければ、参考になるはずです。

 

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筆者

ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人)

 

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