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ワンオペ育児はトンデモ食品の入り口!? 『ママ友は「自然」の人』をレビュー 【不思議食品・観察記&沼物語】番外編

コラム・マンガ

AGRI FACTで【不思議食品・観察記&沼物語】を好評連載中の山田ノジル氏原作のコミック『ママ友は「自然」の人』(竹書房)が発売中だ。AGRI FACT執筆陣からも度々指摘される農と食の陰謀論の入り口となりやすいワンオペ育児。そんなワンオペママたちの寄る辺なき心の隙間に入り込んでくる、あやしげなスピリチュアル育児の闇を描いた異色の子育てコミックである。今回は同コミックを、子育てに奮闘するひとりの親でもある男性ライター鈴木長月氏が自身の育児・自然派二世体験などを踏まえてレビューする。

子どもにはちゃんとしたものを……

マンガだからある程度の誇張はあるとも思いますが、「子どもはみんな*エンパスだよね~」といったセリフがごく普通に飛び交う光景は、のっけから目がテン。「オーガニック」なんていう生半可な言葉では語れない“宇宙育児”のめくるめくトンデモぶりは、そっち界隈とは無縁の日々を過ごしてきたぼくにとっては、言葉どおりの「あなたの知らない世界」でもありました。

 *共感力が高く、他人の感情やエネルギーを自分のことのように感じ取ってしまう気質の人。医学用語ではない。

ただ、そこはぼくも子をもつ親。作中に登場するママさんたちの気持ちがまったくわからないかと言うと、もちろんそんなことはありません。

第一子が生まれたときには、インターネットであれこれ検索もしましたし、ロクに読みもしないのに、ちょっとした鈍器ぐらいの分厚さを誇る、岩波書店の『定本 育児の百科』を「きっと役立つ」と気張って買ったのも、いまとなってはいい思い出。赤ちゃん用品店でそれ専用の洗剤が売っているのを見てて、「野菜って洗わなきゃいけないもんなのか」とピュアに信じてもいたものです。

そもそも、意識の高低や方向性に違いこそあれ、「わが子のため」という根っこの部分は、ぼくも作中の主人公ママ・歩美さんも変わらない。ぼく自身は、どんなに推奨されても、七面倒くさい布おむつなんて絶対使いたくはないけれど、彼女の“信仰”の原点にある「自分はともかく、子どもにはちゃんとしたものを」というのは、親なら誰しもが抱くごく“自然”な感情でもありますしね。

おかんは自然派の信者だった

作中の主要登場人物には、そうしたある種の“信仰”を母親からモロに受け継いでいる悠月さんという先輩ママさんも出てきますが、いま振り返ってみると、かく言うぼくにも「そういやウチのおかんも……」と思い当たるフシが、実はけっこうあったりします。

「市販のジュースには、アスパルテームっていう砂糖の何百倍も甘い人工甘味料が入っている」
「ラーメンのつなぎに使われるかんすいは身体に悪い」「発泡剤入りの歯みがき粉はよくない」

……なんてことを、小学校に上がる頃には、ぼくもしっかり刷りこまれていたんですから、インターネットもまだない当時としては、かなり「意識の高い」おかんだったことは間違いない。家族が日々口にする食品のほとんどを、食の安全性にはことのほか敏感なコープ(生協)で共同購入していたおかんは、言うなれば、“コープ教”の敬虔な信者でもあったのです。

あの頃、巷でもよく言われた「骨が溶ける」うえに「アスパルテームまで入っている」コーラなんて、子どもの頃はおいそれとは飲ませてもらえませんでしたし、わが家に常備されていた袋麺は、当然ながらコープ独自の“たまごつなぎ”麺。歯みがき粉にしても、製造元は業界大手のサンスターだったのにいくら磨いても泡立ない……。チューブから鮮やかなトリコロールで出てくるCMが印象的だった『アクアフレッシュ』には、子ども心にひそかに憧れたものでした。

脱自然派の気づきは夏祭りの出店

そんなわが家の徹底したコープっぷりが「どうやら、ふつうではないらしい」ことに“氣”づいて、反発を覚えはじめたのには明確なきっかけがあります。

あれは小学校のいつだったか、地元の夏祭りに近所の子たちと一緒に行ったときのこと。ふだんから「○○は身体によくない」的なことを刷りこまれてきたぼくは、そこでも教えを忠実に守って、友人たちにもアドバイス。よかれと思って、「これは買わないほうがいい」「あれは身体によくない」なんてことを言ってまわるうちに、それを鬱陶しく思った彼らに巻かれてしまったんですね。

まぁそりゃ、そうです。お祭りと言えば、りんご飴や無果汁まるだしのかき氷、真っ赤なフランクフルトといった、毒々しい色づかいの食べものをあれこれ食すことこそが最大の醍醐味。それにイチイチ水を差されたら、興醒めもいいところ。一緒にいて楽しいはずがありません。

そんなこんなで、「気づいたらひとりにされてた」と泣いて帰ったことをいまも鮮明に覚えているぐらいの傷を心に負ったぼくは、あの夏の夜を境に“脱コープ”路線へとシフト。学生になって一人暮らしを始める頃には、より反動は顕著になり、むしろマクドナルドのようなジャンクフードこそを好んで食す、退廃的な若者へと堕落していくことになったのです。

当時のぼくは「まわりと違う」ことが、よっぽど気に入らなかったんでしょう。思春期ド真ん中だった中学生の頃などは、「自然由来の洗浄成分」を売りにしていた洗濯洗剤で洗った制服のYシャツが、どんどんきなりっぽく変色していくのが嫌すぎて、蛍光剤入りの洗剤をおこづかいで買って、自分で洗濯機を回していたほどでした。

時は流れて現在。

子をもつ親となったぼくはどうかと言うと、気がつけば、パルシステムを愛用していたりもしますが、やはり変わらず「オーガニック」には背を向けたまま。コープが伝統的に強調しがちな、「産直(=産地直送)」という言葉にすら、「そんなのイチイチ強調しなくていいよ」とちょっと反感を持ったりもしながら、「美味しければなんでもいい」のスタンスで日々の生活を送っています。

だって、くだんのアスパルテームも、いまや『パルスイート』なる商品名のカロリーオフ甘味料としてふつうに流通していますし、かんすいについては、当のコープさえもが「危険性はない」とお墨付きを与えている。「食品添加物」と聞くだけで身構える人も多いですが、常識的に考えても、安全に対してしっかりコストをかけられる大企業の商品のほうがむしろ、信頼度は高いはずでしね。

昨今話題のオレンジ色のみなさんのような「物事には裏がある」と勘ぐりがちな方々は、いつまで経ってもカビが生えない食パンなどに対して、「身体に悪いものが入っているからだ!」と過剰に反応されたりもしていますが、ぼくは純粋に「たゆまぬ企業努力のたまもの」と思う派。

日本三大祭のひとつ「ヤマザキ春のパンまつり」の時期には、『ダブルソフト』を何斤買っているか知れません(天下の『ダブルソフト』も放っておけばカビは生えます)。

本当に子どものため?

もちろん、「子どもにはちゃんとしたものを」と思う親の愛は尊いものですし、それ自体は尊重されて然るべき。新生児がもっている菌が身体にいいからと、自家製の“赤ちゃんドリンク”を真顔でありがたがったりするのも、それはそれでよいでしょう。

ただ、この世に“最幸”なものがあるとすれば、それはやっぱり子どもの笑顔。自らに制限を課しすぎたあまりに、生まれて初めてコーラやサイダーを飲んだときの子どもの表情を見られないとしたら、それはあまりにも“不幸”なこと。屋台のかき氷や駄菓子屋で売ってるマルカワの『○べ~ガム』を食べて、舌を真っ青にしているわが子の写真が撮れないなんて、ぼくには考えられません。

本来的な意味で言うなら、沸きあがる欲求に正直であることこそ「自然」な姿。

いろんな制限を課すことが「苦じゃない」と言うのであれば、「どうぞそのままご自由にお続けください」とは思いますが、その結果、子どもがなんらかの「我慢」を強いられるのだとしたら、それはすでに「不自然」なんじゃないかと、ぼくは思います。

つらつらと書いてしまいましたが、作中の歩美さんのように孤独なワンオペ育児中の心細さから来る“闇堕ち”は、はなからシングルマザーだったりしない限り、パートナーの意識次第でほとんどの場合は防げるもの。自宅作業でふだんから主夫みたいな役回りをごく「自然」に担っているぼくとしては、「世の男ども、もっとちゃんとしろ」とも、声を大にしてぜひ言いたい。

せっかく買った『定本 育児の百科』が、新品同様のまま書棚で埃をかぶっているわが家でも、子どもはすくすくと立派に育って、絶賛、反抗期まっしぐらだったりしますしね。

文/鈴木長月

 

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筆者

鈴木長月

 

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