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正直に話す農薬の話:5杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

コラム・マンガ

私の経営するバーは農業をテーマにしているので、農業に関心を持つ人が話を聞きに来ることもあります。中でも、農薬については良く質問されます。私は専門的な知識がないので、体験談や考えを述べるに留まっていますが、今日はそのお話をしたいと思います。
2021/2/1 編集部注を追記しました。

農家は自家用には農薬を使わない?

よくあるある質問で「農家は自分が食べる野菜には農薬を使わないって本当?」というものがあります。私は「使うことも使わないこともあります」と答えます。「やっぱり危険なことを知っているからですか?」と言われるのですが理由は違います。農家が自分用の畑に農薬を使うのはよくあることです。もし使わないとするならば、その理由は“面倒くさいから”です。

農薬を散布する仕事は割と重労働なのです。例えば、トマトにアブラムシが来ないように農薬を使うとします。このとき、まずはどの農薬がアブラムシに効くのか、トマトに使用して良いのか、今の成長段階で使用して良いのか、希釈倍率はどのくらいか、出荷先の基準はどうなっているのか、使用後どのくらい経てば収穫できるのかなど、多岐にわたる項目を調べます。慣れている人なら覚えているかもしれませんが、基準は変更になることもあるので念のため確認します。

次に、薬液をタンクに用意します。ポンプを準備し、ホースを畑まで伸ばします。このとき、だいたいホースが長いので誰かと連携して伸ばす必要があります。長いホースはそれだけ重いですし、土が濡れていると体が泥だらけになることもあります。そして、散布するときは上下長袖のカッパを着てマスクとゴーグルを身に着けます。虫は夏場に活発に活動するので、農薬の仕事は夏のほうが多くなるのですが、この格好で長時間仕事をするのは重労働です。ビニールハウスの中ならなおさらです。ですので、大体の農家は「そんなに大変な思いをしたくない」という理由で、自分で食べる野菜には農薬を使わないのです。自分用の野菜なら虫食いがあってもクレームは来ませんし、食べられるのが少なくても特に困らないからです。

「でも、やっぱり農薬が怖いという気持ちもあるんじゃないの?」と聞かれることがありますがそれは違います。農家はついでだったら自分用の野菜の畑にも農薬を使うことがよくありますが、それが証拠です。

日本の農薬使用量は外国と比較して多い?

このほか、「日本は外国に比べて農薬の使用量が多いというのは本当?」という質問がよくあります。これは答えに困ります。なぜなら「そもそも比べることができないし、比べ方もわからない」からです。

農薬は用途などによって成分や仕組みが多岐にわたります。例えば殺虫剤に限っても、虫の神経系に作用するもの、虫特有の胃液の成分で毒に変化するもの(人間の胃液では毒に変化しない)、虫の表面にまとわりついて窒息死させる“ただの油”などがあり、仕組みの異なるこれらの薬剤を単純に使用量で比べるのが全く無意味だからです。

また、種まき前の種子消毒に使用する農薬、苗に使う農薬、果実に直接使用する農薬、輸入果実などによくある収穫後に使用するポストハーベスト農薬など、使用される場面が全く異なるものを一緒くたに使用量で比較することはできません。さらに、農薬取締法では合鴨農法の合鴨さえも農薬として扱われているのですが(編集部注: 現在は特定農薬から除外されています)、そういったものを大雑把にひとまとめにして「日本では農薬が何トン、○○国では何トン」と定義づけること自体が不可能なのです。

期待するストーリーでなく真実を伝える

このように、私のお店では農薬の話題であってもありのままを正直にお話しすることにしています。たとえ私の答えがお客さんの期待するストーリーと違ったとしても、丁寧に面白く説明すればたいていわかってくれるからです。また、お客さんの期待する答えと現実が違った場合、前者を優先してしまうとその時点で私は嘘つきになってしまいます。

「農家は自分の野菜に農薬をかけない」「日本は農薬使用量世界一」

不安を掻き立てるフレーズはそれがいかに非科学的であったとしても読み手に効果的に働きかけます。自分の話を聞いてもらいたいとき、売りたい商品に注目してもらいたとき、科学的裏付けを多少犠牲にして、不安を強調したくなるかもしれません。ですが、偽ることを拒み、いかなる時も正直であり続けることを選ぶのなら、その誘惑に打ち勝たなければならないと思うのです。

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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