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実は無関係なのに農薬のせいだと勘違いされがちなもの:61杯目【渕上桂樹のバーカウンター】

コラム・マンガ

実際は農薬とは関係ないのに、「これって農薬のせい?」と聞かれたり、「これは残留農薬です!」と誤情報が発信されたりしているケースがあります。今回はこれまで出会ったそうした勘違いや誤情報の例を紹介したいと思います。

① 果物の表面のベタベタや白い粉

スーパーの野菜売り場で働いていたとき、りんごやぶどうの表面を「ワックスではないか?」「残留農薬ではないか?」と聞かれたことが何度かあります。
たしかにりんごの表面はベタベタしていますし、ぶどうの方は白い粉のようなものが付いていることがあります。

ですが、これはワックスや残留農薬ではなく、果物自身が自然に作り出したものです。
りんごは熟してくると脂肪酸であるリノール酸やオレイン酸という物質を出すのですが、それが果皮に含まれるロウ物質を溶かし、表面に現れるためベタベタしてきます。
もちろん食べても害はないですし、むしろ熟している証拠でもあります。
ぶどうの場合は白い粉のような見た目になりますが、原理としては同じです。
私はこれまでいろいろな農薬を使ったことがありますが、りんごのベタベタやぶどうの白い粉が残るほど何かの農薬を残留させるのは逆に難しいように思われます。

ちなみに、たまに自然派を謳う販売者が「ワックス不使用」などと表記して販売していることがあります。
まあそれはウソではないのでしょうが、「なるほど、それなら他所で売っているりんごはワックスを使っているんだな」と誤解を強めてしまうことになるので良くないと思います。
ほとんどの販売者はわざわざ「ワックス不使用」なんて書きません。
もともと不使用だからです。

② 真っすぐなきゅうり

以前残留農薬について講演をしたとき、質疑応答の時間に「私たち消費者が曲がっていないきゅうりを求めるから農家さんが使いたくもない農薬を使うのだと思います。曲がったきゅうりの方が自然なんだからそれでも良いと思うのに」というコメントをもらったことがあります。

また、野菜を販売していたときに「家庭菜園のきゅうりは農薬を使わず自然だからいつも曲がっている」と言われたことがあります。
野菜売り場にずらりとならんだ真っすぐで完璧なきゅうりは美しいですが、不自然に思えてしまう人もいるのかもしれませんね。

ですが、きゅうりを真っすぐにすることができる農薬は(たぶん)ありません。
曲がっていない真っすぐなきゅうりを作るのは、健全な生育、十分な栄養、過不足のない土壌水分で、いずれかが欠けるときゅうりは曲がってしまいます。

「真っすぐじゃない自然なきゅうり」とはたびたび聞きますが、最適な土壌で作ったきゅうりこそ真っすぐ育つ。
ということは、真っすぐなきゅうりの方が「自然なきゅうり」だと言えるのでは? なんて思ってしまいます。

私は以前自家用できゅうりを栽培したことがありますが、最適なバランスを保つのがとても難しかった印象があります。
きゅうりの状態を見て土壌の状態を判断するのですが、それが難しいのです。
プロのきゅうり農家と話していると、小さな変化を見逃さない鋭い観察眼を持っていると感じます。
真っすぐなきゅうりは、農薬ではなくプロの農家たちの高い技術力と不断の努力によって作られているのです。

③ 農薬落としで水に浮いてくる油膜

残留農薬を除去すると調う商品 (たいていは高価なもの)のデモンストレーションでよく見る光景です。
農薬を除去する水でトマトを洗うと油膜のようなものが浮いてきて「見てください! こんなにも農薬が! ただの水洗いでは落ちないのです!」というものです。
私はトマトを栽培したことがあり、農薬も使ったことがあるのですが、根拠はなくとも感覚的に「なんかおかしいな」と思ってしまいます。

農薬は大量の水で何百倍から何千倍にも希釈しているので、たとえ、農薬をびっしょりかけた直後のトマトを洗ってもそんな風に油膜が浮くようにはとても思えないのです。

さらに、出荷されているトマトは農薬の散布から日数も経っているため、何かで洗ったからといって目視でわかるほど残留していたら大変なことです。
こうした眉唾な「農薬落とし」商品は多数あるのですが、有名な「ホタテパウダー」は日本農業新聞で効果を検証した記事がありました。

結果は「農薬を使ったトマトも使っていないトマトも同じように油膜が浮いてきた」というものでした。
油膜の正体は農薬ではなく、トマト自身が出す成分であったり、強アルカリ性であるホタテパウダーが溶かしたトマトの表面の成分であると推測されます。
りんごやぶどうの表面をワックスや農薬と勘違いするパターンと似てはいますが、農薬落としの場合は誰も勘違いしていないのに、一部の人たちが積極的に誤解を与えていくスタイルなのでより性質が悪いと思います。

以上、農薬は関係ないのに農薬ではないかと疑われるものを紹介しました。
もちろん、残留農薬もあるにはあります。
人体に影響がないくらいに、ごく微量に残留しています。
ただ、それは0.000000何%という世界の話なので、高性能な検査機を使ってやっとわかるレベルです。
スーパーの店先や自宅のキッチンで目視で確かめるというのはかなり無理があるのです。

もちろん「それでも心配だ」という人もいるかもしれません。
でも、ごくわずかな残留農薬を気にするあまり、野菜や果物の摂取が減ってしまっては本末転倒です。
真っすぐなきゅうりを「不自然だ」と訝しむより「技術ある人が作ったんだろうな」と思って食べる方が美味しく食べられると思います。
そして、効果がわからない農薬落としパウダーを買うよりそのお金でトマトをもう1個多く買った方が健康的だと思うのです。

 

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筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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