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第5回 食の安全とは言うけれど安全な食料とは何か?【たてきの語ろう農薬】

コラム・マンガ

本連載は全6回の予定で早くも今回が5回目です。前回までは農薬の安全性を考える上でバランス感覚の重要性と農薬の危険性リスクがどのように明らかにされているがを述べてきました。今回はそもそも消費者が気にする「食の安全」という言葉の危うさについて述べていきます。
※web版『農業経営者』2001年10月1日 【たてきの語ろう農薬】から転載(一部再編集)。本文中の役職や肩書き等は2001年10月現在のものです。

「食の安全」という言葉はよく耳にする

「食の安全」という言葉はほんとによく耳にします。テレビ番組でも新聞記事でもそしてCMでも、さらに生産者サイドからも聞こえてきます。「安全な食料を求めるのは当然のこと」ということは間違いなく正論です。では、安全な食料とはいったい何なのか?この質問をぶつけてみるとどんな答えが返ってくるかといえば、ほとんどの場合「農薬や食品添加物を使っていないもの」という答えが返ってきます。この答えは果たして正しいのか、少し考えてみましょう。

安全とは何か

そもそも「安全」とは何でしょうか。安全とは安全性が高い、あるいは低いと表現される単語です。何かと何かを比べてどちらが安全かということを考えるものなのです。そして、比べる条件も重要です。何に対して安全性が高いのか、どんなときに安全性が高いのかということです。

たとえば車の安全を考えた場合、衝突事故でドライバーを守るという観点からは乗用車より自衛隊が使うような装甲車の方が安全性は高いですが、運転するなら取り回しがよくて視界も広い乗用車の方が安全性は高いでしょう。また仮に、紙でできた自動車があったとすれば鉄でできた自動車よりも歩行者に対して安全性は高く、ドライバーにとっては安全性の低いものになるでしょう。

一方で私たちは「ベンツは安全」とか軽く言ってしまうこともあります。これはもちろん何か別の車と比較はしているのですが、比較対照が限定されているわけではなく、社会通念上十分リスクが低ければ「安全である」と表現することも一般的です。

例えば農薬と「安全」の関わり

本題の食の安全からは外れますが、安全が相対的なものであるということを農薬を例にとって具体的に説明してみます。図にある通り、対象や目的によって農薬を使うことが使わないことに比べて安全かどうかは変わります。身近なもの、なんでも結構ですが目分になじみのあるもので一度この表を作ってみてください。そうすれば安全という概念がどういうものであるのか身につけることができます。安全に関する話をする場合にはあらかじめこのことを共通認識としてもってもらうようにしましょう。

安全とは相対的なもの

食べる側から見て、留意すべきポイント

食の安全という場合に、「いつ」「どこで」「どんな場合に」「何と比べて」その食品が安全なのかということを考えなければなりません。では、日々の食事に関して、その食品が身体を害するおそれがないか、つまり安全性を考える上で留意すべきことは何でしょうか。他に食べるものが全くないような状況を想定して重要な順に並べて表にしてみました。

極端に考えた場合の危険な(安全性の低い)食べ物の順位

(1)食材に毒が入っていないか(ふぐ、毒キノコなど、あるいは 強アレルギー物質など)
(2)かびが生えたり、腐ったり、あるいは病原菌が入ったりしていないか
(3)精神衛生上聞題となるものが入っていないか(虫や宗教的倫理的に問題あるもの)
(4)栄養上問題がないか(塩分や糖分の過多、肥満を助長するような高カロリー食品)
(5)普通の食べ物

こんなことを考えても無駄と思われるかもしれませんが、日本でも魚介類やキノコの毒で死ぬ人は年間10人以上います。また、サルモネラ菌や病原性大腸菌(0-157など)などによる死者や中毒患者はさらに多くなっています。しかし、そのことは昔に比べれば格段に減っています。それはなぜかというと冷蔵冷凍技術の発達や防腐剤などの食品添加物の発展、そして食品の絶対量が増えたので無理に変なものを食べる必要がなくなったことが挙げられます。世界的に見た場合、世界中の人々が(1)~(4)を食べなくて済むようにすることが食の安全を確保したことになります。

日本でも20~30年ぐらい前までは、食品を食べる前に腐っていないか臭いをかいだり、あるいはかびの生えたパンをかびの部分だけ取り除いて食べたりするのは当たり前でした。今は、ほとんどそんなことはありません。食品添加物や農薬(含ポストハーベスト農薬)などを活用することによりそのようなリスクを回避しているのです。

安全追求に終わりはない

安全性というのは高ければ高いほど良いので、ある問題を回避してもまた別の問題が出てきます。それは、全く新しい問題の場合もあるし、それまでは目立たなかった小さな問題が相対的に大きな問題になる場合もあります。決してなくなることはありません。

しかし、先に述べた通り、食の安全性という言葉は一般的に消費者の口に入る場合のことをさしており、その安全性を高めることが作る人の安全性・コスト・手間・環境安全性などを損なうこともしばしばあります。

そのことをふまえて社会全体のトータルで最も安全性の高まる判断を下すこと、そしてそのための技術を開発することこそが「食の安全」をより高いレベルで確保することにつながっていくのです。

食の安全を具体的に語ってみよう

例えば水について考えてみましょう。最近はペットボトルで売られている無添加をうたった水が安全性を理由に人気です。おいしいという理由もあるのですが、実はたいていの人は水の味にそこまで敏感ではなく、イメージによって左右されている部分が人です。それはともかくとして、安全性について考えてみると表のようになるのではないでしょうか。あらゆる点でペットボトルの水は水道水に劣ります。1000倍以上の値段を出して多くの人が買っています。たとえ味がすぐれていたとしてもそこまでのお金をかけることがあり得るでしょうか。100g100円のお肉の味が気に入らないからと言って10万円の肉を買う人はいないでしょう(そんな肉売っていませんが…)。

水はわかりやすいのであえて例にしたのですが、それぞれの農作物・加工食品などについてこのような表を書いてみましょう。

食の安全を確保するみなさまへ

以上、色々書いてきましたが、まとめると次のようになります。

(1)安全とは相対的なもので絶対安全などというものはない。
(2)食の安全で無農薬など考える前にもっとやらなければならないことはたくさんある。
(3)食の安全を健保するために農薬や食品添加物などは非常に役立っている。
(4)社会的に大きな視点で食の安全をとらえたて見るべき。

これらの結論をもとに、食の安全を考えて欲しいと思います。

将来はいやでも持続可能な農業

・化学肥料の原料であるリン資源の枯渇
・窒素製造にはエネルギー多投入
・石油もなくなる
・農薬の開発は抵抗性害虫に勝てるか?

現在農業はあと50年くらいが限界?

最後に少し話は変わりますが、現在農業はその持続性について問題が指摘されています。食の安全を将来にわたって確保するためにも有機栽培を考えていかなければなりません。ここでいう有機栽培はJASなどで規定されている有機栽培のことではなく、真に持続可能な農業技術のことで、そのものがどんなものなのかはまだはっきりとは見えてきていません。江戸時代のような農業になるのかもしれません。農業技術の発達や実行によってこの間題を回避することを食の安全を確保するために考えて欲しいと願います。

筆者

西田 立樹
「農薬ネット」主宰
企業で農薬の研究を行いつつ「正しい農薬の知識を身につけるページ」をネットで公開中。著書に「気になる成分・表示100の知識」「ダイオキシン100の知識」(いずれも東京書籍)など。

 

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