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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート38〉【ナス農家の直言】

農家の声

今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート38〉」をテーマに、
農家の私が農業デマを紹介していきます。

1.(中)F1のイネからは種子が出来ない!

低レベルのデマで、取り上げるか迷ったのですが……
イネ(稲)の種子が、皆さんが食べている玄米や白米です(当たり前)!
F1種のデマを紹介する回でも取り上げましたが、F1からはタネが出来ないのではなく、形質にバラつきがあるタネしか出来ないので毎年種子を買うのが正しい理解です。

2.(二)玄米は残留農薬まみれで、精米しないと食べられない!

「玄米は栄養豊富だけど残留農薬まみれ! 精米しないと食べられない!」というサイトを見ました。かなり情報が偏ったサイトです。
たしかに精米して米ぬかや胚芽などを削ることで、もともと微量しか残留していない農薬をさらに減らせることは事実です。
しかし、ちゃんとした所で買った玄米であれば、出荷された時点で残留農薬の量はADI(一日摂取許容量)を下回っています。一生食べ続けても安全です。

3.(三)農薬で精子の数が減る!

「女性だけでなく、男性も農薬が不妊の原因になる!」
これも間違いです。
精子の数が減少する要因は、農薬と断定されているわけではありません。

● 健康状態の変化(喫煙や肥満など)
● ストレス
● はたまたスマートフォンの使用?

など、様々な意見があるのです。
そして研究によれば、日本だけでなく欧州やアフリカの男性も、精子の数は減っているのです。
精子の減少は、農薬まみれだと批判する日本だけでなく世界中で起こっている減少なので、農薬だけのせいにするのはいくらなんでも強引すぎます。

4.(一)肌が弱い人が野菜に触れたらかぶれる! 農薬のせいだ!

「野菜に触れたら、肌がかぶれる人がいるのは農薬が原因だ!」

この主張は言い過ぎです。
たしかに、野菜に触れただけで皮膚炎になる人はいます。
その場合、かぶれ、蕁麻疹などの原因となる物質(=抗原)と発生する症状としては主に以下が考えられます。

● 食物のトゲなどによる刺激性接触皮膚炎
● 抗原を触ることにより痒いブツブツができるアレルギー性接触皮膚炎
● 触った直後に虫刺され時に見られるような蕁麻疹がみられる接触蕁麻疹
● 抗原がついた後に光が当たることによって誘発される光接触皮膚炎

使用時から時間が経つにつれ分解消失していく残留農薬は、店頭に並ぶ頃にはほぼないと言える量です。野菜の残留農薬が原因でかぶれるというのは考えにくいです。
農家が農薬を誤って被ばくするくらいのことがあれば、農薬で皮膚炎になることもありますが、消費者には当てはまりません。

さらに言えば、森に半袖で分け入ったら、肌がかぶれる人がいるでしょう。それと一緒で、植物や野菜はかぶれる可能性があるのです。
ちなみにナス農家の私も、半袖でナスのハウスに入ると腕がかゆくなるので、長袖長ズボンでハウスに入るようにしています。

5.(左)海外製の輸入肥料を排除すべき!

「国内のバイオ肥料を使えば収量が倍になる!」
「海外肥料を排除しろ!」

と以前に主張していた人の具体的な肥料が分かりました。
腐植物質を含むアミノ酸肥料のことで、価格が20㎏で15,000円以上するものでした。一般的な肥料は、20kgで3000〜4000円程度です。
私はこの肥料を使ったことはありませんが……
高い資材を使えば、作物は多かれ少なかれ良くなるのは当たり前です!
問題なのはコスパ。
一般の農家では5倍高い肥料は高くて手が出ません。
そして、高価な肥料を使わなくとも、栽培技術があればちゃんと作物は育ちます。
「国産肥料使用!」というPRだけで、高い肥料代を価格転嫁した野菜を買ってくれる消費者がたくさんいるとは私には思えません。
それぞれの農業経営に合った肥料を選択すればいいと思います。

6.(右)オーガニック市場は広がっている!

「農薬反対派以外に、都会の一般女性にもオーガニックは広がっている!」
というSNSの投稿を見ました。
オーガニック市場が国内で広がっているのは事実です。
農水省のサイトによると、2018年にオーガニック市場は2000億円を突破し、着実に有機農産物の売上は伸びています。
有機農産物を扱う実店舗やECサイトが増えて、農家が有機栽培の野菜を訴求しやすくなったことも、売り上げ増の要因でしょう。
しかし慣行栽培の野菜の方が圧倒的に流通量は多いですし、オーガニックの意味を正しく理解した上で選択している消費者は少ないだろうというのが私の肌感覚です。
私は慣行栽培農産物も有機農産物も、正しく理解・選択されて広がってほしいと思っています。

7.(捕)放牧酪農は草代がタダ!

「放牧酪農は自然に生えてくる草を食べさせているから、牧草代はタダ!」
某自然派食品会社の会長の発言ですが、そんなわけないです。
たしかに輸入でなく牧草を自前で育てる分、牛のエサ代は安く抑えられますが、当たり前ですがタダではありません。
酪農家によると、

● 牧草を育てるために肥料を撒き
● イネ科の草を生やすために、選択的除草剤も時には使い
● 滑落や獣害から牛を守るために電気牧柵も設置する

といったコストがかかります。
エサ代自体は安くできても、放牧酪農には舎内管理酪農とは異なる種類の経費が増えるそうです。
自然派がいいと宣伝すれば会社の利益になるのは分かりますが、嘘をついてまですることではないでしょう。

8.(遊)ブロッコリーは収穫前日に農薬をかけている!

「ブロッコリーは収穫前日に農薬散布をしているので、農家は絶対に食べないらしい!」

というネットの意見がありました。
「数十年前の人づてに聞いた話だが」と前置きしていたので、ブロッコリーが本格的に普及した1960年代後半〜1970年代のブロッコリー栽培を調べてみたのですが、残念ながらこの時代のブロッコリーの農薬暦の資料がありませんでした。
今ほど農薬の使用が厳しくない時代で、中には隠れて農薬散布していた農家もいたのかもしれませんが……
今の栽培では、あり得ないです。
花蕾(ブロッコリーの食べる部分)が出来てからは、農薬を控えるようにするのが一般的です。花蕾ができ始めてからだと、薬害が出てブロッコリーに異常が出る可能性もあるからです。
「人づてに聞いた」というのも逃げ口上なのかもしれませんが、農薬に関するデマを私はしっかりブックマークして調べています!

9.(投)ブロッコリーが指定野菜に加わったから終わりだ!

キャベツやだいこんなど14品目の野菜に加えて、2026年度からブロッコリーが「指定野菜」に追加されます。
指定野菜とは、国が消費量が多く国民生活上の重要性が高い品目として位置づける制度のことです。

指定野菜になることで、価格が暴落した際、大規模な生産者に支払われる補助金が手厚くなるため、安定供給につながることが期待されています。
ただブロッコリーが指定野菜になったからといって、価格が安定したり安くなるなどのメリットが消費者に表れるかというと、おそらくそうはならないというのが、農家の私の意見です。
「指定野菜になったから、小規模のブロッコリー栽培はオワコンだ!」
などと、陰謀論にまみれた某農家が発信していますが、消費者にも農家にもすぐに事態が急激に動き出すことはないと思います。

まとめ

MLB2025年シーズンを投打二刀流で沸かせたドジャース大谷翔平選手の活躍と同じくらい、農業デマも勢いが落ちることがありません。
今後も様々な農業デマを、消費者にわかりやすく紹介していきます。

 

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人)

 

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