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子供達のためにオーガニック推進に立ち上がった「カッコいい」市長名鑑①【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑫】

オーガニック問題研究会マンスリーレポート

国会議員や自治体首長、官僚らが多く出席した2022年の「第1回全国オーガニック給食フォーラム」、その会場で配布された公式資料集には「子供達のために立ち上がったカッコいいトップたち」と題された見開きページがあり、給食有機化を政策に掲げる市長らの顔写真とコメントが一覧で掲載されています。
その後数年で、オーガニック給食に取り組む自治体の数はさらに大幅に増加していますが、彼らをただ手放しに「カッコいい」と称賛する態度は適切といえるでしょうか。
「子供達のために立ち上がった」はずの首長たちのなかにも、様々な不祥事や問題発言をおこなったり、疑惑を抱える人物が存在します。
筆者が知り得た全ての情報を掲載することは残念ながら難しいのですが、あえて公知の情報だけを元に、いくつかの事例を紹介してみたいと思います。

ファイル① 愛知県東郷町 井俣憲治元町長 職員への悪質なハラスメント行為により辞職

2018年5月に東郷町長選で初当選を果たした井俣憲治氏は、就任直後から給食に有機農産物を導入する方針を打ち出し、有機農家を自ら訪ね歩くなどして、2019年度には最初の提供をスピーディーに実現。翌年度には自然農法米の提供も開始するなど品目を拡大し、2027年度までに全ての給食を有機米に転換する計画を打ち立てました。(※1)

当時の資料やSNSなどからは、新町長のトップダウンで強力にオーガニック給食が推進されたことや、それにより全国から注目を浴び、町長自ら様々なセミナー・インタビューなどで発信をおこなってきた様子が伺えます。

例えば2020年、『未来をつくる給食 Foods for Children愛知』のSNS投稿には「井俣町長のお話は、感動の連続です✨」「子どもたちのために真剣に取り組む東郷町✨」などの、やや高揚気味の記述が残されています。(※2)

井俣氏は2022年の町長選でも再選を果たし、翌年には「オーガニックビレッジ宣言」を発表。いち早くオーガニック給食に取り組んできた先進地域として存在感を高めていきます。

2023年7月には、東海農政局が主催するセミナー「はじめよう!サステナブルな食を学校給食から!~先進事例に学ぶ~」に町長として登壇していました。(※3)

ところが、そのわずか4カ月後には町職員へのパワハラ・セクハラ問題が大々的にスクープされ、最終的に辞職にまで追い込まれることになります。(※4)

第三者委員会の調査報告書によれば、問題となった言動は就任一年目から多数の職員に対し、日常的に繰り返されてきたということです。(※5)

詳しく紹介することは差し控えますが、例えば女性職員の妊娠・出産の予定を確認する発言など、「子供達のために立ち上がった」同じ人物の口から出たとは到底信じ難い、目を疑うようなものが並びます。

辞職時の会見でも井俣氏は記者に対して反論するなど、最後までハラスメントの認識についてズレを感じさせる発言を繰り返し、納得のいかない様子を窺わせました。「町長のお話は、感動の連続」と言っていた人々が、いま何を感じているのか、聞いてみたいところです。

ファイル② 愛知県名古屋市 河村たかし元市長 署名偽造、セクハラ、気候変動懐疑論etc

4期にわたり名古屋市長を務め、全国的にも著名な河村たかし氏がオーガニック給食を推進していたことは、それほど広く知られていないかもしれません。4選を賭けて臨んだ2021年の市長選で、河村氏は公約に「給食では有機農産物の使用を拡大」と掲げています。(※6)

市長選直前の公開討論会では、ナチュラルスクールランチアクション名古屋ママ会という団体からオーガニック給食の計画を問われ、「ぜひこの、なんですか、自然食ですか。英語で言うとオーガニックですか、をやっていきたいなと。賛成でございます」と回答。同年秋からオーガニックバナナの給食提供を開始しました。(※7)

「ハッピー地球防衛軍 クーミン」を名乗る人物のブログによれば、名古屋ママ会は河村氏の再選後まもなく市長訪問をおこない、バナナだけでなくオーガニック給食の全面導入を要望したということですが、それに関しては今に至るまで実現に至っておらず、2024年秋からパイナップルを提供開始した他、2025年2月に有機米が数回使用されるに留まっているようです。(※8)

当時の名古屋ママ会メンバーによる別のブログでは、「少しでも住みやすく、未来に希望を持てる日本と地球を子ども達に残したい(中略)同じ想いでいらっしゃることを、とても嬉しく感じました😊」と河村市長への感動が綴られています。

ところで河村氏については金メダルをかじる行為や、未成年へのセクハラ行為、愛知県知事リコール運動をめぐる署名偽造疑惑など様々な行動がこれまで問題視されてきたほかに、日本保守党との合流や南京事件を軽視するような発言など、その政治的スタンスにおいても極右排外主義的な思想との親和性が強くみられることで知られています。

また有機農業と関連する点では気候変動について、2025年の参院選の際に「本当にCO2が悪いかどうかは怪しい」「起きているか起きていないかわからない」「大きな流れでは寒冷化に向かっている」など、有機推進とは大きく矛盾するような発言も確認されています。

既に市長を辞しているとはいえ、オーガニック給食の掲げる「理想」からは極めて遠い政治姿勢に思える河村氏であっても、「カッコいいトップたち」のひとりだったといえるのでしょうか。

ちなみに、河村氏は市長在任中の2022年に『なごやの給食の未来を語ろまい♪「食の安全を守る人々」上映会 & 山田正彦氏講演会・名古屋市長対談』というイベントに出演しています。(※9)

農業について多数の誤情報や陰謀論を発信し続けるオピニオンリーダーとして知られる山田正彦氏と、現役の行政首長(当時)が公開で対談してしまうこと自体の有害さはあらためて言うまでもないのですが、実は山田氏は、かつて農水大臣を3カ月で退任したのち、民主党から除籍処分を受けたその翌日に、河村氏と新党「脱原発」を結成していたという因縁があります。(※10)

オーガニック推進首長のチェックポイント

オーガニック給食を掲げる首長に対しては、まず以下のような点を注意深く観察することが必要になります。

  • オーガニック給食の実施がパフォーマンスや自己目的化していないか? 他の政策や政治思想と矛盾していないか?
  • 疑似科学や反医療に傾倒していないか? それらの団体と繋がっていないか?
  • 有機以前に農業そのものに対して、地に足のついた見識やビジョンを有しているか?

参政党を例に挙げるまでもなく、有機農業が今やポピュリズムの道具として政治的に都合よく利用されていることは誰の目にも明らかです。

少なくとも社会的・倫理的にこれほど問題のある言動や人間性、政治姿勢といったものが「オーガニック給食推進」と両立し得てしまうという事実は、仮に有機農業支持者であっても受け入れざるを得ないはずです。

次回も引き続き、オーガニック給食を取り込む首長たちの実像を紹介していきます。

 

参考・出典

(※1)有機食材の給食利用に関する取組について 令和4年2月24日 愛知県東郷町 給食センター 所長 中嶋章人(東海農政局)
(※2)未来をつくる給食 Foods for Children愛知 Facebookより
(※3)第2回「はじめよう!サステナブルな食を学校給食から!~先進事例に学ぶ~」(東海農政局)
(※4)愛知・東郷町の井俣町長 パワハラ発言の疑い 今週中に会見へ(NHK東海NEWS WEB)
 “ハラスメント町長”2人辞職へ 池田町長「裸の王様だった」 東郷町長は会見でも“不適切発言”(日テレNEWS NNN)
(※5)東郷町長のハラスメント事案に関する第三者委員会 調査報告書
(※6)名古屋市長選2021・公約<河村たかしさんの公約>(中日新聞)
(※7)名古屋市長選、立候補予定3氏が討論会 オーガニック給食導入は賛成(Yahoo!ニュース)
(※8)オーガニック給食要望 母親らの会 名古屋市長も前向き /愛知(毎日新聞)
名古屋ママ会給食グループが 名古屋市河村たかし市長を訪問しました(クーミンの地球防衛軍)
河村たかし名古屋市長との面談(ナチュラルスクールランチアクション名古屋ママ会)
小学校給食等におけるオーガニックパインアップルの提供について(名古屋市)
名古屋市内で有機農業により栽培したお米を小学校等の給食に提供します(名古屋市)
(※9)【お知らせ】「なごやの給食の未来を語ろまい♪」上映会&山田正彦氏講演会・名古屋市長対談(オーガニック給食マップ)
(※10)減税日本と反TPPが合流、新党「脱原発」結成(朝日新聞)

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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