会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

誤情報に毅然と立ち向かう、頼もしい製薬会社と農薬会社:50杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

農と食、医療は以前から誤情報やデマの標的とされてきました。特に多いのが農薬・除草剤・食品添加物・ワクチンです。「身近にあるけど製造の現場が身近ではないのでよくわからないから」というのが理由だと思いますが、もう一つの理由としては「誤情報を流布してもやり返される心配がなかったから」ではないでしょうか。巨大に見えて決して殴り返してこない大企業は、リスクを負うことなく叩ける格好の相手でした。ですが、その時代も変わるかもしれません。製薬会社も、農薬会社も、自社製品のユーザーを守るために毅然とデマに立ち向かい始めたのです。

レプリコンワクチンデマには厳正に対処

2024年10月、新型コロナワクチンの次世代型である「レプリコンワクチン」を製造する明治ホールディングス傘下のMeiji SeikaファルマがX(旧Twitter)公式アカウントを開設して話題になりました。
同社は公式サイト、新聞広告などを通じてデマに対して法的な手続きを含めて厳正に対処していく姿勢を明らかにしました。

レプリコンワクチンについては、医学的な信頼性調査に基づき厚生労働省に認可されたものであるにも関わらず、SNSなどでデマ情報が出回り、取り扱いのある医療機関に妨害や嫌がらせが殺到するなど問題になっていました。
私の住む長崎県でも現役県議会議員が公立中学校の校長と一緒にワクチンの不安を煽る趣旨の動画を撮影し、生徒たちにビラを配るという怪事件が発生し、物議を醸していました。
他にも、「レプリコンワクチン接種者は入店お断り」など、差別や分断を煽るケースも報告され、誤情報による問題が多く発生していました。

Meiji Seikaファルマの小林大吉郎社長は、「コスタイベを導入した医療機関に対して誹謗(ひぼう)中傷や脅迫が寄せられている。ワクチンの供給に支障が出ている」と述べ、今回の対応が製品を取り扱う医療機関を守る意思があることを示しました。これを受けてSNSなどでは医療従事者から「Meiji Seikaファルマを支持します」との声が上がりました。

除草剤では日産化学が動く

このニュースと非常によく似た出来事が、少し前に農薬の分野でもありました。
農薬や除草剤は非科学的なトンデモ情報の標的にされ、使用する農家や施設管理者などに誹謗中傷やクレームが向けられる事態がありましたが、ついに販売元が動いたのです。
それは、除草剤「ラウンドアップマックスロード」を国内で販売する日産化学です。

日産化学は2024年2月、「ラウンドアップマックスロード」の公式Xアカウントを開設しました。
「誹謗中傷の発信者に対して、法的な手続きを進めております」「今後も当社製品ユーザーの皆さまを守るために毅然とした対処をしていく所存です」と表明し、それに対して農業従事者らからは「支持します」「頑張ってください」などの声が殺到しました。

黙り込むデマの発信者たち

では、誤情報を発信していた側はどう反応したのでしょうか?
受けて立つ姿勢を見せたのでしょうか?
それとも誤りを認めて謝罪・訂正したのでしょうか?
そのどちらでもありませんでした。

Meiji Seikaファルマ社に名指しされた団体は、公式サイトからメンバーの名前を削除、SNSの投稿を削除して黙り込んでしまいました。
ラウンドアップの誤情報を発信していたあるインフルエンサーは、「調査したら違う部分がありました」と言い残し、こちらも投稿を全て削除、その後は食品添加物に矛先を変えて活動しました。
「ラウンドアップに警鐘を鳴らす」と講演活動を活発にしていた活動家は、予定していた講演会のタイトルから「ラウンドアップ」の文字を削除しました。
巨大なワルモノを相手に威勢よく闘う格好を見せていた者の多くが、相手が立ち上がったのを見た途端に静まり返ってしまいました。

これは、発言の内容が正しいとか間違っているという問題ではなく、ただただ情けないことだと思います。

次に立ち向かうのはユーザーだ

不安を煽る誤情報・デマに対して誰が対応するべきか? というのは度々議論になってきました。
政府や省庁、メディア、製造・販売元、ユーザー(医療・農業従事者)など、意見は様々です。
ワクチンも農薬も、これまではユーザーである医療従事者や農業従事者が誹謗中傷を受けながらも誤情報を相手に毅然と対応してきました。
今回はそんなユーザーを守るために販売元が覚悟を示しました。
除草剤のメーカーや販売店はたくさんありますが、誤情報からユーザーを守る覚悟を示した企業は特別です。

私は、誤情報の対応は誰の責任かというより、みんなで対応するのが良いと思いますが、やはり企業が姿を見せて対応してくれることには意味があると思います。
次は私たちユーザーがそれに答える番だと思います。
それは、製品を正しく、堂々と使うことです。
企業とユーザーの信頼関係こそが、デマや誤情報に立ち向かうカギだと私は思います。

「製薬会社」「農薬会社」と聞くと、四角くて大きなビルを想像するかもしれません。
四角いビルを巨人に見立て、デマという空虚な武器を振りかざして戦う素振りを見せても殴り返しては来ませんでした。
でも、これまでも会社はただ無機質なコンクリートのかたまりではなかったのです。
笑ったり、喜んだり、悩んだりしながら、社会を支える矜持を持って働く血の通った人間の集まりです。
デマで殴っていい相手では決してないのです。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

 会員募集中! 会員募集中!

関連記事

記事検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    (※終了しました)【特別セミナー】グリホサート評価を巡るIARC(国連・国際がん研究機関)の不正問題  ~ジャンク研究と科学的誤報への対処法~

  2. 2

    最終回 有機農業と排外主義②【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

  3. 3

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  4. 4

    VOL.22 マルチ食品の「ミネラル豚汁」が被災地にやって来た!【不思議食品・観察記】

  5. 5

    除草剤グリホサートに耐性のある植物の自然への影響は?【解説】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
CLOSE