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Vol.2 露地野菜農家が「JA」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

中部地方でキャベツとタマネギを作っている就農6年目の露地野菜農家、SITO.です。地元のJAで働いた経験から、農業そのものに面白さと将来性を強く感じ24歳の時に親元就農しました。

農協搾取論を唱える消費者

日本農業はJA(農業協同組合)抜きに語ることはできません。

一般消費者が食の安心安全に興味を持ち、農業について調べ始めると、ほとんどの人はJAの問題点を指摘し始めます。しかし、普通に農産物を購入する上で消費者が直接JAに関わることはほとんどありません。実態は知らないはずなのですが、多くの人が「JA=悪」という前提に立ち「JAは生産者の農作物を買い叩いている」とか、「JAは規格が厳しく、手数料も高い」といった「農協搾取論」を唱えたりするのです。

JAは日本の農作物流通の7割を担っている組織です。そのJAに根も葉もない噂が立つことは一生産者としても由々しき事態です。今回はJAに関する様々な誤解を農家かつJA職員も経験した立場から解いていきたいと思います。

農産物の販売に果たすJAの役割は多大

JAと生産者の関係は、簡単にいえば農家が販売をJAに委託している構図になります。販売をJAに任せることで、農家は農産物の栽培に専念できるのです。JAが担う農産物の「販売」とは売り先を見つけるだけでなく、収穫した野菜の選別から梱包、運搬等まで含まれることが多いです。これらを担う対価として農家から徴収するのが「販売手数料」なのです。

農協搾取論はこの手数料の高さを声高に叫び、農家が自分で販売業務を担うことで手数料分を自分たちのものに! という主旨のものが散見されます。確かに、農家が生産から販売まで一手に担うことで、手数料を差し引かれることなく利益を全て自分の懐に入れることができます。なるほど、高い手数料を取るJAは「悪」となるのです。

しかし、この考え方は重要なことを見落としています。JAの販売手数料は決して安くありません。しかしそれには高いだけの理由があるのです。先述した通り、JAに販売を委託することで農家は栽培に専念できるのであって、販売まで自分で担うということはそれだけ栽培に従事する時間が奪われることになります。

集客やクレーム対応まで全て自分が担うことの「コスト」をよく考えてみてください。そのコストの高さこそが手数料の高さの理由であり、JAに出荷するか、自分で販売まで行うかを生産者が選択していくというだけの話なのです。ただ単にJAが生産者の農産物を買い叩いている訳では決してありません。

例えば、キャベツやタマネギなどの日常的に消費する野菜は単価が安いため、農家がより大きな利益を得るためには広い面積での栽培が必要となります。大量の生産物を一手に捌くというのは一個人の農家には限界があり、このような付加価値の付きにくい日常的に食べる作物はJA出荷との相性が良いのです。全国津々浦々のスーパーにいつも新鮮な野菜が比較的安価に陳列されているのは、JAという大規模流通網のなせる技なのです。

産地を支える機能と能力

一方で、付加価値の付きやすいフルーツ等の希少性の高い作物は農家が生産から販売まで担うメリットが大きいです。作物それ自体が消費者にとってある種「イベント」になり得る高付加価値の作物は、生産者の栽培に対するこだわりをダイレクトに訴える顔の見える売り方に商機があるのです。送料こそ高くつく傾向にはありますが、直接購入によって得られる鮮度も直接販売の利点と言えるでしょう。

JAを利用するか否かは、作物や地域、農業経営者によって選択されるべきものであり「JAは手数料を高くとって搾取している」というのは正しいとは言えません。生産者の個々の事情に応じてコストパフォーマンスが変わる、というだけで利用する、しない、どちらが正解という問題ではないのです。

私が働いていた地域のJAはキャベツの有数産地であり、ほとんどの農家がJAに出荷しています。農家の数は全国的に見ても非常に多く、小さくやっているところから大面積をこなす経営体まで様々あります。高齢の方も多く、仮にJAが無くなればたちまち地域の農産物が廃棄されることになるでしょう。

地域にJAと同様の機能を持つ物流会社もいくつかはあるものの、全体の生産量を捌ける能力はないので、いかに当地域でJAが役立っているかがわかります。調べるとすぐにわかることですが、「〇〇(農産物)の産地」という地域には、必ずと言って良いほどJAが存在しています。

JAは全国的に見て有名で巨大な組織に見えますが、その実態は一般によく知られてはいません。ただ、近年農家の直接販売が増えてきたことで「顔の見えない」JAがどこか不気味であり、相対的に安全・安心でないのではないかと思われがちです。誤った情報によって農協搾取論が一人歩きを初め、本当にJAを必要としている人たちが不利益を被るようなことがないことを切に願うばかりです。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

SITO.(露地野菜農家)
中部地方でキャベツ(7ha)とタマネギ(3ha)を栽培する農業歴6年目の露地野菜農家。栽培技術を磨く傍ら、就農以前より日本農業の様々な問題に関心を持ち現在進行形で自主研究を続ける。生産現場で得た知見と、農業に関する幅広い情報をすり合わせ、「農業とそれに携わる人たちの持続可能な社会」を模索している。個人サイト https://sitochan.com/

 

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