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「発達障害の原因は農薬!」という議員さんを発達障害児・者を支える会に招待してみた:30杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

【前回までのあらすじ】
長崎の某市議会で「食の安全が脅かされている! 学校給食を有機に!」と訴えている議員さんがいるという情報が入りました。いったいどんな理由なんだろう?と思い、議会での答弁を聞いてみると、「農薬のせいで発達障害が増えている!」と発達障害の原因について言及していました。これは大丈夫なのか? 内容を詳しく聞きたいので直接質問に行ったところ、どうも情報源が不確かな模様です。「発達障害の当事者や親が本当は何を必要としているか、実際に聞いたことはありますか?」と尋ねてみると、「聞いたことがない。機会があれば聞いてみたい」との返答。そこで、私がたびたび参加している発達障害児・者を支えるグループの定例会に招待してみました。果たして、対話によって理解は深まるのでしょうか? 結果は予想だにしないものでした。

発達障害児を持つ親の定例会にトンデモ系市議会議員を招待

定例会がどういう会かというと、主に発達障害の子供を持つ親たちが集まって近況を話したり、情報交換したりをするものです。
支援団体の人や市の担当者さんが来ることもあります。
私は以前、「発達障害と食べ物を安易に結びつけるのをやめよう」とコラムで書いて以来、代表の方からメッセージをいただき、たびたび定例会に招待されていたのです。
当事者の親たちは「発達障害は○○のせい!と安易に言われるのは困る」と話していましたが、実際にそうした発言をした本人を連れていくのは初めてでした。

今回の定例会も、いつものように近況報告から始まりました。
議員さんは私の隣に座って、母親たちの話を聞いていました。
親たちは「最近こんなことができるようになった」という報告にみんなで喜んだり、「こういうことが苦手で、大変だけど一緒にがんばっている」という話にみんなで共感したりしていました。
私は、ある親の「感覚過敏の子供が制服を嫌がる」という話を聞き、「自分も学ランの首のところが嫌だったなあ」と中学生時代を思い出しながら聞いていました。
隣の議員さんを見ると、黙って聞いている様子でした。
私は「これで議員さんにもっと理解してもらえたら、招待した私としても嬉しいなあ」と思って期待していました。

議員の意見に期待しようとしたら……

定例会は次に、市や学校の支援などの情報交換に移りました。
子供たちはどんな支援が受けられるのか、支援の現場はどう動いているのか、そしてそれぞれの困りごとなど、各自の情報を共有していました。
とても大切な内容ですが、私には内容が少し複雑で、「こういう課題はどうやったら解決できるんだろう?」と考えながら聞いていました。
そこで、ふと思いました。

「待てよ。自分には難しいけど、こんなときこそ市議会議員さんが本領発揮するところに違いない⁉ さて、どうするんだろう?」と思って隣を見ました。
議員さんはやる気を示して「わかりました! 皆さんのお話を踏まえて、さっそく関係部署に話を聞きに行ってみます。進捗は次の定例会で報告します。お話を聞かせてくれてありがとうございます!」

と、言うかと思ったら……zzz。
え? ね、寝ている!? おい!
ここは存在感を発揮するチャンスだろ!
無駄にしてどうする!
あと、関係ないけど、連れてきた私の立場はどうなる!!

周りを見ると、母親たちはみんな眉毛が八の字になっていました。
私は議員さんの隣に座っていたので、その視線を感じていたたまれない気持ちになりました。
そんなこんなで結局、議員さんは特に何も話さないままおしまいの時間になりました。

会の代表者が議員の議会での発言をいさめる

グループの代表が会を締めくくり、議員さんの議会での発言を踏まえて「発達障害は食べ物が原因! 食べ物で治せる!と安易に言われると当事者の親たちは『発達障害は親である自分のせいなのか、治さなければならないものなのか』と傷つきます。当事者や親たちが求めているのは給食の改善ではなくて、適切な支援と理解です」と話していました。
議員さんは(この時はもう起きていて)黙って話を聞いていました。

そして、最後に一人ずつ感想を述べていき、私の順番が回ってきました。
私は「今日は共感できる話もありました。私も学ランの首のところがいやでしたし、友達にもそんなことを言っている子がいました。程度の違いはあれ、発達障害について理解が進んだ社会は誰にとっても生きやすい社会だと思います。私自身も周りの理解のおかげでこの社会に参加しています。理解が進むよう、意識していきたいと思います」というようなことを話しました。

議員から驚きの発言、そして戦線離脱

次は議員さんの番でした。
なんて言うんだろう?
「話を聞いていろいろわかった」とか、「適切な支援が行きわたるよう努めていきたい」とか言うのかな?と、思っていたら……

「うーん、結局は社会が悪いんですよ。あと、政府が悪い。市議会も悪い……市議会は時間が短すぎる……」と国や市議会の不満を語っていました。
会の代表者はちょっと困りながらも、「私たちが提出した要望書はもう読まれましたか?」と尋ねました。
すると議員さんは、「いや、読んでいません。あれはよっぽど興味がないと読まないんですよね」と答えていました。
いや、他に言いようがあるだろ!
議員さんを見る母親たちの眼差しは、なんだかかわいそうな何かを見る目に変わっていました。
もし自分が同じ目を向けられたらと思うと、とても耐えられる自信がありません。

議員さんは、最後に「個別に話しませんか?」という代表の話を断り、「もう帰らなければ!」と急いで帰っていきました。
その姿に、私たちは思わず顔を見合わせてしまいました。

結局議員さんは、自分の発言について説明するでも訂正するでもなく、話を聞くことすら拒み、あろうことか他人のせいにして帰っていったのです。

私はもともと期待していました。
たとえ食の安全について考え方が違っていても、子供を第一に思う目的は同じだと。
そして、直接話せば理解は深まると。
ですが、簡単ではありませんでした。
この会が終わった後に「私はこうして解決のお手伝いもできるんだ!」と自信をもって言うつもりでしたが、それもできずに終わりました。

帰り際、母親の一人が「給食をオーガニックにと言われてもねえ。そもそも発達障害の子供は好き嫌い激しい子が多いし。野菜を食べない子も多いのよね」と呟き、子供の好き嫌いの話になりました。
私は「うちの子も最近好き嫌いが出てきて……」と自分の子供について話しました。
すると母親は、「そのくらい大丈夫よ! ポテトチップスばかり食べて育っている子もいるのよ!」と笑っていました。
私が驚いていると、「子供は自分でちゃんと育つんだから、大丈夫!」と励ましてくれました。
この定例会では、先輩たちからこうしてよく温かい言葉をもらうのです。

部屋を出ると、廊下で待ってくれている人がいました。
会に参加していた、発達障害の子供を支援する団体の人たちでした。
その人たちは私に「子供たちの学習や就労、理解促進など力を貸してくれませんか?」と言ってくれました。
私は「もちろんです。自分にできることなら」と答えました。
とは言ったものの、自分に何ができるんだろう……?
これから考えないといけません。

農業の風評を追っていたら、いつの間にか思いがけない人たちとのつながりができたのでした。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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