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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート15〉【ナス農家の直言】
今回から好評の「農薬に関するデマで打線組んでみた!」シリーズを
「農業に関するデマで打線組んでみた!」へと発展させ、
農薬だけでなく、農業全般における様々なデマや誤解を紹介していきます。
それでは〈パート15〉いってみましょう!
1.(中)養豚場・養鶏場が燃やされている!
養豚場や養鶏場から火災が発生していることが、最近立て続けにニュースになっています。
火災の主な原因は、電気設備の老朽化による漏電だと言われています。
● 昭和の時代に建てられたものも多く、
● 電気設備等が劣化していて、
● 経済的な理由などで修理ができない農家もいて、
火災が起こりやすい要因はあります。
豚や鳥たちも犠牲になっており、悲惨だと感じますが……
SNSでひそかに言われている、「食料危機を起こすためにレーザーで狙い撃ちされている」わけではないと、私は信じています。
2.(左)イチゴのパックは封をして冷蔵庫に保管しないと、他の食品に残留農薬が移る!
残留農薬は、冷蔵庫の中で広がるのか?
記事元にこの根拠を問い合わせていますが、未だ回答はありません。
よって、真偽不明!
回答があれば、またこの話題について取り上げます。
3.(一)豚熱くらいで豚を殺処分するな! ワクチンも打つな!
豚熱が確認され、養豚場の豚が殺処分されたというニュースについて、
「豚熱は人に感染することはないのに、豚を殺処分するな!」
「そもそも豚にワクチンを打つな!」
なぜワクチンを豚に接種するかというと、
政府の豚熱ワクチンについての見解をまとめると、以下のようになります。
- 野生イノシシの豚熱の感染が拡大しており、衛生管理の向上等を図っても豚への感染防止が難しい場合に、豚への感染リスクが高い地域において、豚を対象にワクチンを接種し、豚熱の発生を予防する。
- 防疫措置は、早期発見と感染した豚の処分を原則としている。ワクチンを適切に接種されれば発症を防御することができる。
- 人の予防接種のように免疫を獲得すると、ワクチンに含まれているウイルスは体内から消失します。感染した豚肉が市場に出回ることはない、仮に感染した肉を食べても、人体に影響はない。
詳しくは農水省のHPを確認してください。
CSF(豚熱)に関するQ&A:農林水産省
つまり、なるべくならワクチンを使いたくはないけど、いざ感染が広がって地域の畜産農家が壊滅的なダメージが出るのを防ぐためにワクチンを接種しているのです。
感情的になってしまうニュースですが、畜産農家の事情も理解していきたいですね。
4.(三)東日本の野菜は危険!
東日本大震災の後に、「西日本野菜」などの表記がECサイトなどで出てきました。
福島第一原発の事故により、東日本の野菜を敬遠する消費者が一定数いて、その方々のために作られたフレーズでしょう。
正直、この表現は私は嫌いです。
海外と比較しても厳しいセシウムなどの基準値をクリアしている農産物は安全と言えますし、除染が行われた農地で栽培されています。
何より、一生懸命生産している農家に失礼です。
いつまでも農林水産業が、風評被害を受けるような状況にはしてはいけません。
5.(右)農作物の価格が暴落したのは、汚染水を海に放出したからだ!
福島第一原発の処理水放出後から、主に漁業に関してのデマが交錯していますが、
農業についても、個人のSNSでこんな内容の発信がありました。
「○○の価格が暴落したのは、汚染水を流したからだ!」
「香港や中国は買ってくれない! 日本政府はこの責任をどう取るのか。」
この時期に一部の農作物の価格が下がった主な要因は、供給量が多くなってしまったからです。
風評被害によるものではないので、政府から補償はされないでしょう。
そして責任があるとしたら、処理水についての不安を煽って風評被害を流している左派政党や活動家であってほしい!
6.(捕)シャインマスカットの価格が暴落したのはなぜだ!
高級フルーツの代表格、シャインマスカットの価格が暴落したというニュースが話題になっていました。
私が色々なスーパーを周ってみた限りでも、去年は高い時期で3000円だったシャインマスカットが、今年は一時期800円で売られていることもありました。
シャインマスカットの価格下落の原因は何か。
それは主に、供給量の増加です。
シャインマスカットは消費者に人気があり、高く売れる!→シャインマスカットを植えよう!→供給量が増加→価格が下がる
という流れです。
シャインマスカットを生産する農家にとっては残念なニュースですが、一方で消費者にとってはチャンスとも言えます。
何しろ、高級だったシャインマスカットが食卓に並ぶ機会が増えるチャンスでもあるのですから。
ぜひシャインマスカットを買う機会を増やして、ブドウ農家を応援しましょう。
お気に入りの農家から直接ブドウを買っても楽しめますしね!
7.(二)農薬をしょっちゅう撒く農家に文句が言えず、洗濯物も外で干せない!
「とある地方都市では、周りの農地にしょっちゅう農薬を撒くから洗濯物が外に干せない」
「文句言いたいけど、共存していかなくちゃいけないから言えない」
というようなニュアンスの投稿を見ました。
基本的に、農家は周辺住民に配慮して農薬散布をしています。
具体的には、
● 日中の活動の迷惑にならないように早朝からやったり、
● 風向きや風の強さを計算に入れたり、
● 時には「この日に農薬散布します。」と周辺住民の方に伝えたり、
などです。
農薬の飛散に十分に注意するように、JAからも通達があります。
洗濯物に農薬がかかってしまうような散布をしている農家がいるのであれば、文句を言っていいと私は思います。
8.(遊)最新の除草機械を導入すれば、有機栽培は広がる!
最近では、AIが雑草を判別して、電気で雑草を焼き枯らす機械も開発されているようです。
たしかに素晴らしい機械だと思いますし、AIの可能性を感じさせるものですが……
ではその機械によって有機栽培が広がるかというと、一筋縄ではいかないと思います。
なぜなら、技術的には可能でも、商業的にはまだまだハードルが高すぎるからです。
まだ価格が公表されていない機械がほとんどで、おそらく超高額になると予想されます。
何千万円もしたら、買える農家はほぼいません。
除草剤への懸念が消費者には根強くあるかと思いますが、現状でも除草剤や肉体労働以外の除草方法はあります。
- マルチを張る
- カルチベーターや管理作業機を使う
- 雑草の根を手作業で切って枯らす
などです。
詳しくはこちらの記事で。
とはいえ、AIの進歩は私の想像なんかの遥か上を越えていきますし、AIが農業の現場で当たり前のように導入される日もいつかは来ると思います。
9.(投)乳牛を〇したら、補助金が出る!
ウクライナ情勢や円安の影響で飼料価格が高騰し、さらに国内の牛乳や乳製品の需要が低迷していて、酪農経営を圧迫しています。
需給バランスを保つために、乳牛を淘汰して乳量を減らすと補助金が出るという国の政策がニュースになり、私はショックを受けました。
私の近くの酪農家にこの政策について聞きましたが、
「チーズが足りないから乳牛を増やせとか、牛乳が多すぎるから牛を減らせとか、前にもあったんだ。その時の迷走から、政府は何を学んだのか」
「知っての通り、牛乳を絞れる乳牛になるまで2年半以上の時間がかかる。将来増やそうとしても簡単には増やせない」
「俺はこの先も酪農を続けるつもりだから、乳牛を減らさないよ。政策を変えられても合わせられない。何より、命を軽々しくは考えられない」
とのことでした。
それぞれの酪農家や地域によって考え方は違うと思いますが、本当に残念で心苦しいニュースです。
私たち消費者に出来ることは、まずは牛乳や乳製品を買うことです。
状況が好転するかは分かりませんが、私もできる範囲で酪農家を支えたいと思います。
まとめ
農薬だけでなく、農業全般でも多くのデマや間違いがSNSでは飛び交っています。
これからも、随時農業デマを取り上げていきます!
筆者ナス男(ハイパーナスクリエイター「ただのナス農家」) |