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震災でわかった、偽情報の危険性と情報源の重要性:41杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

2024年1月1日に発生した能登半島地震では、SNS上に多くの偽情報が出回りました。今までの地震でもあったことですが、今回は首相自らが「SNSの偽情報に惑わされないよう」呼びかけ、SNSプラットフォーム事業者にも対応を要請するなど、異例の事態なのでした。

「人工地震説」という偽情報

実際にSNSを見ると、怪しい情報がわんさか出てきました。
特に多かったのは「政府の支援が足りない」と支援を実際よりも小さく見せるもの。
政府にもっと支援を充実させてほしくて言っているのかもしれませんが、避難所の情報などは被災者にとって大切なのでやっぱり偽情報はいけません。

でも、そんな中でもっとすごいのがあるんです。
それは「人工地震説」。
まじめに読んでいませんが、「政府が人口削減のために超テクノロジーで地震を発生させて、マスコミは隠蔽して云々……」というもの。
いやー、クラクラ来てしまいますね。
さすがに真に受ける人は少ないと思います。
でも、陰謀論の世界ではよくあることなんです。
そして、陰謀論のマイルドな入口になっているのが、「農業と食のトンデモ情報」なんです。
実際にSNSのアカウントを見てみると、人工地震説を唱える層と食の不安を煽る層はかなり被っていました。

食関係にあふれる陰謀論(偽情報)

食の不安情報は、「よく聞いてみたら陰謀論だった」という類のものが多いんです。
私の体験を2つ述べます。

【事例1】講演会に行ったときのこと

「日本は世界が禁止する危険な農薬が使われている」という、まあよくある話がありました。
講師が「この真実はメディアでは報道されません」と言うので、『なぜ報道されないのですか?』と聞くと、「それは、メーカーがメディアを裏で操っているからです」と返ってきました。

(ええ、最初の質問で陰謀論かよ……)と思いつつ、「……えっと、そういうのは取り締まられないんですか?」と聞くと、「政府も彼らに逆らえない」と、もう1ランク上の陰謀論が返ってきました。
さすがにこの辺からは会場の人たちも半笑いになったんですが、もうちょっと聞いてみようと思って「そんな企みがバレているならジャーナリストの誰かが報じるのでは?」と聞いてみたところ、なんと「そうしようとしたジャーナリストは殺された!」というものすごい説明がありました。

いやいや、なんでもアリかよ!
バカバカしいと思うでしょう?

でもこれ、信じられないかもしれませんが、国会議員と県議会議員(どちらも当時は候補者)がやっていた講演会ですからね。
真面目っぽい人がやっている真面目っぽいテーマなのに、終始こんな調子なんですよ。

【事例2】オンライン講義を受けたときのこと

「日本の残留農薬の基準は大幅に緩和され危険」と、これもまあよくある話が出たんです。
私は(あー、これもまた陰謀論なのかなあ)と思って聞いていたら、講師は「これはアメリカの指示なんです。日本政府はこれに従っているのです」と自ら進んで陰謀論を披露しました。
講師は「これはテレビでは報じられていない真実です。なぜならメディアも裏で繋がっていて……」とお決まりの陰謀論を披露していたんです。
でもね、実はこの講師、頻繁にテレビ番組に呼ばれているんですよ。

いや、自分がテレビで言えばいいだろ! と心の中でツッコミながら聞いていたのですが、参加者はコメント欄で「うん、アメリカはけしからん。今の政府もだ」と満足そうにしていました。
なぜアメリカが日本の残留農薬基準を緩和させようとしていたかについては「日本人を病気にさせて薬を売って儲けるためだ」と説明しており、いやはやなんともというものでした。

さすがにこれには別の参加者から「さっきからいろいろ根拠なく言いすぎでは?」とツッコまれ、講師が一時取り乱すという珍事もありました。
ちなみに信じられないかもしれませんが、この講師、東京大学の教授ですからね。
さすがに自分でもわかっているからか、テレビに出たときは陰謀論を封印して真面目っぽい話をしているんです。
でも、いくら真面目っぽく話していても根拠は陰謀論なんですよ。

流言は智者に止まる

こんな感じで、一般人向けに農薬や食の不安を煽る情報は真面目っぽく見えても、一皮むけば雑な陰謀論ばかりでげんなりしてしまうんですよ。
まあ、根拠のないトンデモ情報を無理に辻褄を合わせようとするとどうしても陰謀論になってしまうのかもしれませんね。
辻褄を合わせようとしてワルモノ設定が増えてしまうのもご愛敬。
講演を聴いていると、最終的には政府もメーカーも省庁もJAも流通業者もメディアも生産者も医療業界もみんなグルでワルモノ、というぶっ飛んだ世界設定になりがちなんです。

もちろん、食に関する陰謀論を探しては仲間内でキャッキャッと楽しむこと自体に害はないのかもしれません。
ですが、冒頭で述べたように、食品の陰謀論を流す人物は災害時には重大な偽情報を発信します。
災害時には情報が生存率を左右します。

自分の安全のために、情報源には普段から気をつけたいものです。
そして、自分の大切な人の安全のために、情報拡散にも気をつけていたいものです。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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