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第10回 敵対国による農地・山林の買収を許すな―アメリカの農業安全保障法制に学ぶ―【浅川芳裕の農業note】

コラム・マンガ

米国農務省は中国、ロシア、イラン、北朝鮮の4カ国を「敵対勢力」と定義し、その農地・山林の取得を国家安全保障上の重大リスクと位置づける。
「国家農場安全保障行動計画」を策定し、取得禁止や既存所有地の回収まで視野に入れた法整備の厳格化を急速に進めている。
一方で、日本では対策が始まったばかりだ。
鈴木憲和農相は2025年11月4日、自身のXで「森林取得の際の国籍把握などに向け、速やかに検討していきます。ちなみに、現状では、農地を取得する際には国籍を把握する仕組みになっております」と述べた。
(出典:https://x.com/norikazu_0130/status/1985695989446185053

農水省も、領土問題を抱えるロシア・韓国、領海侵犯を繰り返す中国、拉致・ミサイル問題を抱える北朝鮮を領土上の”敵対勢力”と指定し、より厳格な対応を進めるべきときだ。
その実現に向け、先行するアメリカ農務省による制度運用を整理し、日本の政策設計に生かす視点を提示する。

米国農務省「国家農場安全保障行動計画」

米国農務省(USDA)は2025年7月8日、「国家農場安全保障行動計画(National Farm Security Action Plan)」を発表した。

この計画は、農地・牧草地・山林を含む土地全体への外国勢力の関与を国家安全保障上の脅威と位置づけ、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの「敵対勢力」による購入禁止の方針を明確に打ち出した。

同計画は「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」を強化し、対米外国投資委員会(CFIUS)が農地取引を含む国家安全保障上のリスクを審査・禁止する仕組みを導入している。

敵対国認定の根拠と法制度

アメリカでは農務省をはじめとする省庁が中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「懸念国や敵対国(foreign countries of concern/foreign adversaries)」として明示的に指定している。

米国商務省の場合、これらを懸念国と定義し、重要技術・土地・インフラ投資の制限を定めている。

農務省の「国家農場安全保障行動計画」では、「外国の敵対国」には“少なくとも中国、ロシア、イラン、北朝鮮を含む”と拡大定義した。

これら4カ国等による農地取得を「敵対的外国勢力による影響工作(adversarial foreign influence)」と位置づけ、農地取引の監視から排除、没収に至るまでの措置を制度化した。

同計画はさらに、農業サプライチェーン全体を監視対象とし、国家安全保障の枠組みの中で包括的に管理する体制を整えている。

こうした制度は、農地や山林の取得規制に留まらず、農業テロ※を目論む敵対国のサプライチェーンへの浸透や、農業関連の知的財産・技術情報の窃取を「国家防衛と同義の脅威」とみなすトランプ政権の明確な姿勢を示している。

※農業テロ(アグロテロリズム): 農産物、家畜、または食品供給システムに対し、意図的に有害物質や病原体を混入することで、経済的・社会的混乱や大量殺りくを引き起こすテロ行為。

行動計画は、農地取引・農業サプライチェーンに加え、農務省関連の研究者や技術者の採用・契約にも及ぶ。

農務省は「敵対国と関係を持つ研究者・団体との契約を解除・除外する」と明記し、2025年7月には約70名の外国籍研究者との契約を終了した(出典:Reuters報道)。

外国人による土地所有の制限

アメリカでは「外国農業投資開示法(AFIDA)」により、外国人や外国企業が農地を取得した場合、その所在地・面積・目的を農務省に報告する義務がある。

2025年から報告違反への罰則が強化され、違反者には土地市場価値の最大25%の罰金が科される(出典:National Ag Law Center)。

国家農場安保行動計画では、この制度をさらに厳格化。中国、ロシア、イラン、北朝鮮など敵対国による土地取得を禁止し、既存所有を没収対象とする方針が示された(出典:Trade Compliance Hub)。

州法による罰則強化と売主責任

2025年時点で、アメリカの28州が外国人による農地取得を何らかの形で制限している。

なかでもフロリダ州のSB 264法(2023年施行)は、中国など「懸念国」出身の非永住者による農地取得を第三級重罪と定め、最大5年の懲役および土地没収を規定している(出典:Florida Senate Bill 264全文)。

さらに、敵対国と知りながら土地を売却した米国人地主も処罰対象となる。
故意に売却した場合、第一級軽罪として最大1年の禁錮または1,000ドルの罰金が科され、契約自体が無効となる。

この仕組みはテキサス州やノースダコタ州にも広がり、「敵対国籍への売却を行った地主の刑事罰化」という新たな抑止モデルが形成されつつある(出典:CSG Midwest Policy Report 2024)。

取得違反の調査と回収・差し止め

農務省は2025年7月の声明で、「既存の敵対国関係者による土地所有を調査し、必要に応じて回収する」方針を発表した。

司法省と連携し、軍事基地近郊での中国系企業による土地購入を差し止めた事例も報告されている(出典:Washington Post)。

日本の現行制度との比較と提言

日本の農地法は、市町村農業委員会による許可制を定めているが、外国人・外国法人による取得そのものを制限する規定はない。2023年9月に国籍・在留資格の報告義務が導入されたが、実質的には「情報収集」にとどまる。

アメリカの制度から見えてくる日本への示唆は明確である。

  • 特定国籍による土地取得の禁止・許可制強化
  • 農業研究・人材分野への安全保障審査の導入
  • 既存所有の追跡調査と必要に応じた没収措置
  • 敵対国と知りながら売却した地主への罰則導入
  • 外資系土地所有データの公開と地域監視体制の整備

日本の単なる「国籍把握段階」は、アメリカの「国家農場安全保障政策」に比べて著しく遅れている。農地山林取得・日本人売主責任・農業サプライチェーンを包括的に扱う「ニッポン版農場・山林安全保障法制」の整備が急務である。

編集部註:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年11月5日の記事を許可を得て、一部編集の上、転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。

 

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筆者

浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

 

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