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知識ある人ほど「不安なし」 ~遺伝子組み換え、ゲノム編集食品調査から分かること【FOOD NEWS ONLINE】
こんにちは。小島正美です。「ゲノム編集食品、どうやって選ぶ?」で、狙った遺伝子を自在に改変できるゲノム編集食品について詳しく紹介しました。きょうは、このゲノム編集食品が、消費者に受け入れられ、市場で流通するかどうかを考えてみます。
業者が売らない「遺伝子組み換えパパイヤ」
ママ美 受け入れられるかと言えば、私は難しいと思います。
正美 おや、どうしてですか?
ママ美 このブログの第11回の時の私がそうですが、新しい技術については内容を正確に知らないために、不安を感じる人が多いと思うからです。
正美 たしかに、人々に不安があるうちは流通は難しい、とよく聞きます。
実際、遺伝子組み換えで作られたハワイ産のパパイヤは、日本では流通していません。一方、パパイヤの本場・ハワイでは1998年から、ウイルスの病気に強い遺伝子組み換えパパイヤが流通し、いまでは約8割が組み換えになっています。ハワイに行く日本の観光客の大半は、組み換えパパイヤを口にしているはずです。たぶん、知らないうちに食べているでしょう。
ハワイと対極的なのが日本です。日本でも安全性の審査が終わった2011年、ハワイからの輸入・販売が許可されました。しかし、いまだ店頭では見かけません。許可当時、輸入・販売事業者に聞くと、「消費者の抵抗感が強い」「市民の反対運動が店の前で行われたら商売はできない」という声が強かったのを思い出します。きっと、流通業者はややこしい反対運動に巻き込まれたくないのでしょう。
ママ美 その気持ちは理解できますが、それでいいのかな、という気もします。
プロの方が「不安を感じない」
正美 こういう調査結果もあるんですよ。消費者庁が2016~17年に行った消費者調査で、1万648人から回答を得ました。その調査によると、遺伝子組み換え食品について、41%が「不安がある」と答えたのですが、「気にしていない」は29%、「不安はない」は11%だったんです。つまり、約4割の消費者は食べることにあまり不安がないことが分かりました。仮に3~4割の人が食べてくれるなら、店頭に並びさえすれば、一定程度は売れていくと思いますね。
ママ美 不安を感じない人は、私が想像していたより多い印象です。
正美 こういう調査もあります。内閣府食品安全委員会が2018年2~3月、委員会に登録されている食品安全モニターの方々に聞いた「食品の安全性に関する意識」調査(回答者348人)です。この調査によると、遺伝子組み換え食品について、「とても不安を感じる」が12%、「ある程度不安を感じる」が28%。両方を合わせれば「不安を感じる」人は約4割でした。一方、「あまり不安を感じない」は39%、「全く不安を感じない」は20%でした。
ママ美 「不安を感じる」人の割合は2つの調査とも4割ですが、「不安を感じない」人の割合は、消費者庁の方が4割、内閣府の方が6割で、内閣府の方が多いですね。
正美 そうなんです。2つの調査で異なるのは、消費者庁の回答者が一般の消費者であるのに対し、内閣府のほう方の調査の回答者は、モニターに応募した食品生産・流通・加工関係者や医療・教育・研究職関係者といった専門家が多数いることです。ある程度、知識のある専門家のほうが、「不安を感じない」割合が高いといえますね。
市場に出れば、売れるだろうが…
ママ美 なるほど。技術について知るにつれ、不安を感じなくなるようだ、ということですね。ゲノム編集食品への意識についても当てはまるのでしょうか。
正美 当てはまると言ってよいと思います。
東京大学医科学研究所の内山正登客員研究員らが2018年5~6月、一般の人約1万700人(回答者)に聞いたインターネット調査では、ゲノム編集された農産物について、43%が「食べたくない」と答え、「食べたい」はわずか9%でした。
一方、大阪府立大学の小泉望教授らで組織する「ゲノム編集の未来を考える会」は2019年、東京都内で行った科学コミュニケーションのイベントで「あなたはゲノム編集食品を食べますか」を聞きました。来場者はホワイトボードにシールを張る形で答えました。参加した91人のうち、「食べたい」は17人(19%)、「食べてもよい」は46人(51%)、「迷う」は13人(14%)、「あまり食べたくない」は9人(10%)、「絶対に食べたくない」は6人(7%)でした。
ママ美 イベントに来場したのは、おそらく科学に関心のある人たちですよね。答えた人の数などが異なる調査なので単純な比較はできないでしょうけれど、一般の方は「食べたい」が1割ととても少ないのに対し、関心の高い人は「食べたい」「食べてもよい」が7割にものぼる点が、大きなちがいですね。
正美 そうなんです。やはり、関心のある人は、安全性への理解が深まることで「食べてもよい」と思うようになるのではないかと推察されます。
これらの調査結果から、私は、ゲノム編集食品が市場に登場すれば、一定の人たちは買って食べるだろうと見ています。
ママ美 それなら、いろいろなゲノム編集食品が市場に出回る日も、遠くないかもしれませんね。
正美 いえ、そこは、ハワイ産の組み換えパパイアを扱う事業者がいまだ現れていない現実を見なければなりません。「消費者の抵抗感が強い」と考えて、流通業者がゲノム編集食品を、いわば自主規制して避ける可能性が高い、との見方もあります。
その一方、社会には組み換え食品やゲノム編集食品に対して、食べてもよいと考えている人は決して少なくないことも、もっと知られるべきだと思います。3~4割の消費者が買ってもよいという意向を持っていれば、市場での販売は可能だと思います。
ただし、最大の論点は、これから登場してくるゲノム編集食品に「買いたくなる魅力、価値」があるかどうかです。次回のブログでは、これから市場に出てくると予想されるゲノム編集食品の一覧を示し、一つ一つその魅力度をチェックする検証作業をやりましょうか。ママ美さんが買いたいと思うゲノム編集食品があるかどうか、乞うご期待です。
きょうのレッスンは、新しいテクノロジーで生まれた遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品に対する不安感は依然として強いものの、その一方で「買ってもよい」と思っている人も一定程度いるということです。この新しい食品が世の中に受け入れられるかどうかは、その食品を店頭に置くかどうかの判断をする流通業者がカギを握っているということも知っておきたいです。
※FOOD NEWS ONLINE「第14回 知識ある人ほど「不安なし」~遺伝子組み換え、ゲノム編集食品調査から分かること」を許可を得て転載(一部再編集)
筆者小島正美(「食品安全情報ネットワーク」共同代表) |