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【コラム】加速する憶測の暴走! 不妊や先天性異常、骨粗しょう症原因説の粗雑さ
不妊を引き起こす説の乱暴な理屈
除草剤ラウンドアップの主成分グリホサートは、不妊や自閉症などの発達障害と関連があるといわれることがありますが、科学的根拠は何もありません。この話の元となっているのが、米国のセネフ博士とサムセル博士の論文です。彼らの主張はこうです。
(1)グリホサートはマンガンと結合する。
(2)精子の運動性はマンガンに影響を受けている。
(3)ゆえにグリホサートは不妊と先天異常の原因である。
(1)のグリホサートがマンガンと結合する、というのは事実です。マンガンは金属の一種で、人間に欠かせない必須栄養素の1つです。グリホサートはマンガンと結合してキレート化合物と呼ばれる物質を作ります。
次に(2)の精子の運動がマンガンの影響を受けているのも事実です。
しかし、三段論法の前提である(1)(2)と、前提から導き出される(3)の結論の間には大きな飛躍があります。まず、グリホサートによって体内のマンガンがどの程度減るという実証データもなければ、グリホサートによるマンガンへの影響が、不妊や先天性異常と関連していることを示す統計的なデータもないからです。つまりこれは非常に乱暴な理屈で、憶測に憶測を重ねたものに過ぎません。
グリホサートとマンガンの関係を示すデータはない
科学的な理論には、観察や実験による実証的データが不可欠です。用量作用の原則を無視して極端なことを言うなら、人が日常的に取っている水や塩も一度に大量摂取すれば死に至る毒になります。グリホサートの毒性を証明するには「どの程度の量が体内に残留すれば、どのような影響が出るか」という実証研究が必要ですが、セネフ博士とサムセル博士の論文にはこの部分が欠けているのです。
両博士は自分たちの説を裏付けるために、328もの文献を引用していますが、そのうち動物の体内でのグリホサートとマンガンの関係を扱った論文は1つしかありません。その論文は乳牛に関するもので、体内に残留するグリホサート量とマンガン濃度との間に関連は見つかっていません。つまり、動物の体内におけるグリホサートとマンガンの関係を示すデータはどこにもないのです。
セネフ博士とサムセル博士は、この無根拠に近い説をさらに発展させて、グリホサートとマンガンの結合が、自閉症、アルツハイマー病、パーキンソン症、不安障害、骨粗しょう症、炎症性腸疾患、腎結石、骨軟化症、胆汁うっ滞、甲状腺機能障害などの原因だと主張しています。根拠の部分で科学的な正確さがないのですから、これらの主張も憶測でしかありません。
実際に彼らが科学誌に掲載した論文は、メスネイジ博士とアントニオ博士によって検証され、完全に否定されています。
憶測の暴走が止まらない
セネフ博士とサムセル博士の憶測の暴走はまだ止まりません。今度はグリホサートが農場から流れ出して海に至れば、珊瑚礁を死滅させ、大規模な環境破壊につながる可能性があると主張します。珊瑚の表面は粘膜に覆われていて、この粘膜に含まれる「硫酸化糖タンパク質」を作るにはマンガンが必要です。グリホサートはマンガンを減少させるから、表面を覆う粘膜に異常が発生して珊瑚が死ぬという理屈です。
この説でも、実際にグリホサートが珊瑚を殺すのかどうか、殺すとすればどのくらいの量が必要か、といった実証データはありません。農場におけるグリホサートの使用は厳重に管理されていますから、流れ出るのは微量です。海に至れば、さらに希釈されます。そのような微量の物質が大きな環境破壊を起こすことは今まで証明されたことがありません。これも憶測に過ぎないといえるでしょう。
狂牛病までもグリホサートが原因!?
あろうことか両博士は、グリホサートが「プリオン病」を引き起こすとも言っています。プリオン病とは、狂牛病と呼ばれて世界中で大問題となった「BSE」などの病気です。人間の脳疾患である「ヤコブ病」もプリオン病の1つです。
プリオン病の原因は「プリオンタンパク質」です。このタンパク質にマンガンが結合すると、プリオン病になるのです。両博士は、グリホサートがマンガンのバランスを崩すとプリオン病を引き起こすと主張します。しかし、彼らの説では、グリホサートはマンガンと結合するのですから、プリオンタンパク質に結合するマンガンは減るはずです。むしろプリオン病を予防することになります。ここでは屁理屈の理屈すら合っていません。