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参政党の事実を無視した食料・農業政策を検証する
2022年の参院選で1議席を獲得し国政政党となった参政党。大衆を扇動するような急進的で非現実的な政策を訴え、保護主義的な反グローバリズムを標榜して一部の支持を獲得している。2023年4月の統一地方選には「全国で1000人規模の擁立を考えている」という。「有機無農薬」や「伝統食」などを推進する参政党の農業政策は農と食の事実を無視したものであり、AGRI FACTとしても見過ごすことはできない。統一地方選を前に、浅川芳裕氏のツイートをもとに参政党の食料・農業政策を検証する。
世界人口を半減させる「肥料や農薬を使わない」農業政策
参政党の重点政策からいきなり、農業と食料の基本を無視している。「農薬や肥料、化学薬品を使わない農業と漁業の推進」だ。「化学肥料を使わないと、養える世界人口は今の半分になる」。参政党は化学肥料に加え、「農薬を使わない農業の推進」も公約にうたっているが、使わない場合、食料生産はさらに減る。世界人口の半分以上を餓死される農業政策を推進すると公に謳うのが参政党の基本政策なのだ。
選挙のたびにトンデモ農業公約を数多くみてきたが、「肥料を使わない農業の推進」を訴える政党はさすがにはじめて。
化学肥料を使わないと、養える世界人口は今の半分になる(下図のグレイ部分)。
化学肥料を使った食料増産のおかげで、世界の35億4000万人が食べられ、生存できている(レッド部分) pic.twitter.com/bwTiwDAK7a
— 農業と食料の専門家/浅川芳裕 (@yoshiasakawa) June 25, 2022
伝統食に戻して食料自給率100%で健康になろう→意味不明
参政党唯一の国会議員で副代表の神谷宗幣氏氏の農業政策に関する演説を要約すると、「日本の伝統食に戻す」「食料自給率100%」「乳製品はよくない」「日本で元々とれない作物はつくらない」「スタバに行ってもケーキとか食べない」。そうすると「健康になった」 。だから「みんなで健康になろう」という。意味・因果関係とも不明だ。
小麦食は戦後のアメリカ文化なので政治で小麦を止める→事実誤認
神谷氏によると、「日本の伝統食に戻す」「食料自給率100%」「日本で元々とれない作物はつくらない」「ケーキとか食べない」を達成するためなのか、参政党は政治誘導で「小麦を止める」という食料・農業政策を打ち出している。しかし、前提となる事実がすべて間違っている。ウ露戦争が起きても小麦の輸入は順調であり、小麦の伝来は弥生時代で食の文化は全国各地にある。戦前に遡れば、日本は小麦を大量輸出する小麦大国だった。
日本人技術者が戦前に日本で開発した背丈が低く倒れにくい小麦の新品種「農林10号」が、アメリカの戦後小麦育種を飛躍的に発展させ、同国の小麦生産を成長させた。農林10号を育種に活用した新品種は小麦の「緑の革命」の原動力となった。
小麦を止めて国がコメを買い付ける→コメ不足と高騰を招く
小麦の輸入と生産、小麦を食べるのもやめてどうするのかというと、コメを食べ、小麦粉は米粉で代替するという。そして米価が下がっているので、国が一定以上の価格で買い付けるという。
そのうえ参政党は自然栽培のコメの生産を推奨している。生産性の低い栽培法を政策化すれば、コメ不足と価格高騰が起きるのは必定。それこそ日本の食料危機を招く。
しかも参政党の「小麦を止める」政策とセットの「みんなでコメを食べよう」政策は、農家の売る自由と消費者の買う(食べる)自由が制限される暗黒世界の到来。なぜならその手法が「コメの買付け→食料確保→食料危機を乗り切る」で、戦時中に始まった食管法(1995年廃止)と全く同じ発想だからである。実現するには、農家のコメの供出(強制売渡し)と国民への配給がセットになる。
何を食べたらいいか決めるのは参政党や政府などではなく、自分や子どもを育てる親である。農家を救うのも当たり前だが、参政党や政府ではない。農家は救われるべき被害者ではなく、自ら判断できる農業経営者なのだから。なお参政党の綱領には「日本国の自立と繁栄を追求し」とあるが、「自立した国家」は「自立した個人と家族」からしか生まれない。参政党の食料・農業政策は自立した国家の追求とは真逆の政策なのである。
参政党はなぜ「反肥料・反農薬」を訴えるのか
発起人が自然栽培の信者さんだからだ
「自然栽培米は10キロ1万円くらいで売れるの…参政党員で買ってあげませんか。みんなで」(神谷氏)
価格は一般米の3、4倍。党員が買うのは自由だが、生産性が低い栽培法を政策化すれば、コメ不足と高騰へまっしぐら pic.twitter.com/ZPOcdoiC1E
— 農業と食料の専門家/浅川芳裕 (@yoshiasakawa) July 5, 2022
有機無農薬・自然栽培と子どもの問題を結び付ける→根拠なし
参政党は有機無農薬・自然栽培食材を使った給食を政策提言しているが、そのために子どもの学力や健康の問題を結び付けている。もちろん科学的な根拠は一切ない。
参政党の「農薬や肥料を使わない農業の推進」は危険
神谷氏は演説で、給食は
・有機無農薬、できれば自然栽培(無農薬・無肥料)
・食べたら、子供の病いが減る
・荒れなくなる
・学力が上がる
・絶対そうなる
と断言するが、根拠ゼロ子供の問題と肥料農薬を結び付け、使う農家を悪者にする危険思想▼ pic.twitter.com/HNFGTF9CG6
— 農業と食料の専門家/浅川芳裕 (@yoshiasakawa) July 5, 2022
「日本人の自殺・死亡原因は世界一の農薬と化学肥料のせい」という主張はデマである。日本農業は世界一の農薬・化学肥料ではなく、農薬と化学肥料の使用と、自殺および死亡原因との関連性は認められていない。
これは酷い
日本人の自殺・死亡原因は「世界一の農薬!世界一の化学肥料!」(いずれもウソ)・・・のせいにする参政党神谷議員根拠なき不安につけ込み、自著で「うちの息子には生来、自然栽培の米、野菜しか食べさせていない」「病院には一度も行ったことがない」と自慢のネタで布教。信者を増殖させる https://t.co/H3kU8eGg9C
— 農業と食料の専門家/浅川芳裕 (@yoshiasakawa) August 22, 2022
参考
肥料・農薬は戦後に種とセットでアメリカに買わされた→日本農業史を知らない
さらに肥料や農薬を使う大多数の慣行農家を貶める言説をまき散らしている。法令と用量用法に則って、安全で適正な生産をしている慣行農家に対する侮辱だろう。
また参政党の神谷氏は、肥料と農薬が戦後になって種とセットでアメリカに買わされたという事実も根拠もない陰謀論を演説で語っている。
参政党は、肥料と農薬が戦後になって、種とセットでアメリカに買わされたというが、ただの陰謀論
日本初の化学肥料会社「日産化学」創業は明治20年。「農業の盛衰は国家の盛衰に関わる」と実業界の父・渋沢栄一が設立。農薬の日本初は「日本農薬」で創業は昭和3年。種は江戸初期創業の会社が今も継続 https://t.co/tIJ9tQH8EH
— 農業と食料の専門家/浅川芳裕 (@yoshiasakawa) June 28, 2022
参政党の神谷氏は演説で「日本ではアメリカで使えないグリホサートという農薬が認められている。なんでアメリカで使えないものを日本人にだけ使うんですか。なんでそこはグローバルに合わせないの!」と訴えるが、これも完全なる誤り。農薬の知識もこの程度だ。
参政党はデマ市場の中抜き政党
先述してきた言説や下記の主張を見てもわかるように、参政党の食料・農業政策は反農薬・反肥料に陰謀論が乗っかっている。
さらに実はその過激さは、有機農業で破綻したスリランカや反農薬イデオロギーの強いドイツどころではない。参政党Q&Aブック基礎編には「農業を資格制にし、一定の資格(文脈から自然農法)を持った者にしか農業に従事できないようにする」とある。これは職業選択の自由を奪い、既存農家を廃業させる政策だ。
これまで農と食に関する虚偽言説は左派系野党の独占市場だったが、それでも政治家はクローズドな場でしか語らず、デマの発信と拡散はプロの活動家・末端活動家の仕事だった。そこに新たに登場したのが参政党で、候補者が実名しかもオープンな場でデマを語るようにしたことだ。いわば「デマ市場の中抜き」をして国政政党となったわけで、統一地方選やその後の国政選挙党でも同じ手法を繰り返すだろう。有権者のリテラシーが試されている。
筆者AGRIFACT編集部 |