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無農薬でアレルギー増加ってホント?
無農薬栽培で収穫されたリンゴと、慣行栽培で収穫されたリンゴでは、無農薬栽培の方がある種のアレルギーを誘発する物質(アレルゲン)が多かった――この発表は3月に行われた日本農芸化学会で、京都大学大学院農学研究科の森山氏により行われました。果たしてどういう意味があるのでしょうか。
web版『農業経営者』2005年5月1日 Opinionから転載(一部再編集)。本文中の役職や肩書き等は2005年5月現在のものです。
果物を食べてアレルギーというのは「口腔アレルギー症候群」と呼ばれるもので、それほどマイナーなものではありません。原因となる果物は様々で、リンゴやモモなどバラ科が特に多く報告されています。身近なアレルギー症としては花粉症がありますが、花粉症の人は、口腔アレルギー症であるの割合が高いと一般的に言われています。「北海道鼻アレルギー情報センター」の山本医師の調査によれば、北海道でシラカバ花粉症の人の16%が口腔アレルギーの可能性があり、花粉症でない人では2%程度との調査があります。
花粉症も口腔アレルギー症も、その原因となるアレルゲンは植物に含まれるタンパク質。タンパク質はアミノ酸と呼ばれる成分が多数つながったもので無数に種類があり、ある種のものはアレルゲンになりうるのです。そして、たまたまシラカバの花粉とリンゴやモモに似た種類のタンパク質が含まれていて、共通のアレルギーを引き起こすのではないかと考えられています。花粉症の症状が強い人ほど果物アレルギーの割合が高いというデータもあり、ますます共通点があると考えられます。
では、無農薬で栽培されたリンゴを食べると花粉症や口腔アレルギーが悪化するのか? そして花粉症で悩んでいる人は無農薬リンゴを食べない方が良いのでしょうか? 無農薬の方がアレルゲンが多かったわけですから、アレルギーを誘発する可能性は高い、つまりリスクが高いと言うことはできるでしょう。ただ、そのリスクの大小が、我々にとって差があるほどのものなのかどうかは、今後の研究の発展を待たねばなりません。実際には無農薬栽培のリンゴやモモは世の中にほとんど出回っていませんから、世間に現実的な問題が起こるとは考えにくい状況です。森山氏の研究結果だけから「花粉症患者は無農薬栽培を避けるべき」といった話を掲載した週刊誌(アサヒ芸能・4月14日号)もありましたが、これはあまりに短略的です。
作物には病害虫や低温、水不足など様々なストレスがかかっています。それらに対抗して作物も色々な防御を自ら行っており、その一つが特殊なタンパク質を作ったりため込んだりすることです。まだまだ未知なことが多く、どういう状況でどんなアレルゲンが増えるかなどわかっていませんが、そういうリスクはあるということなんですね。無農薬リンゴの話でも、無農薬の方が病害虫にさらされることが多く、それらに対抗するためにアレルゲンが増えたと考察されています。それらが苦み成分であったりして、味にも影響を及ぼす可能性もあります。基本的にはストレスを出来るだけ与えないように作物を育てるのが良いのでしょう。月並みですが、こういう点から見ても結局は愛情込めてよく手入れをするのが農業の基本だということなんですね。
今回、学会発表をキッカケに話題になっていますが、農薬関連業界などでは作物が病害虫によってリスク成分を増大させる可能性について、以前から言われていました。業界は普段、農薬使用について多くの批判をあびているので、逆に無農薬栽培によるリスク増大を反撃材料に使う可能性があります。私はドングリの背比べ程度の話と考えており、どちらの栽培方法にしろ、きちんと収穫できたものならば実質的な差はないと思っています。データはデータとしても、これをもって無農薬と慣行栽培を対比させるようなことはあまりして欲しくないなと感じました。
筆者西田立樹(「農薬ネット」主宰) |
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