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第4回 米ポストハーベスト農薬は“食品添加物に言い換えられた”のか【鈴木宣弘氏の食品・農業言説を検証する】
農と食を支える多様なプロフェッショナルの合理的で科学的な判断と行動を「今だけ、金だけ、自分だけ」などと批判する東京大学の鈴木宣弘教授。その言説は、原典・元資料の誤読や意図的な省略・改変、恣意的なデータ操作に依拠して農業不安を煽るものが多い。AGRI FACTはブロガー晴川雨読氏の協力を得て、鈴木教授の検証記事をシリーズで掲載する。第4回は、鈴木氏が得意とするアメリカ農産物危険説の根拠の一つ、ポストハーベスト農薬に関する言説のトリックを検証する。
日本で禁止の農薬が輸入レモンに!?
精力的に講演活動を行う鈴木氏。2021年3月17日にJAグループ福岡で開催された「国民の食と農やくらし、いのちを考えるセミナー」での講演動画がYouTubeにアップされていた。「コロナ禍におけるわが国の農林水産政策のあり方について」をテーマに講演する鈴木氏は、動画の59分10秒くらいから「世界中の危ない食品が日本向けになってきている」という話題になり、
「アメリカ産の輸入レモン、ここにいかがわしい農薬の名前が書いてあります。なんでこうなったのかというと、これ日本では禁止農薬ですよね。ポストハーベスト。アメリカがかけていたんで、日本は海に棄てちゃったんですよ。怒ったアメリカから自動車(日本車の輸入を)止めてやると脅されて、日本は何言ったかというと、日本では禁止農薬ですけどアメリカが禁止農薬をかけたときには食品添加物という文字に換えましょう。そんなバカな、で今こうなってるわけです。」と語っている。
*この画像はこちらの動画 https://www.youtube.com/watch?v=NdMS-JMeMic から。
この発言は事実だろうか。
輸入レモンのパッケージに書いてある食品添加物は以下の通り。
・チアベンダゾール(TBZ)
・イマザリル
・フルジオキソニル
・アゾキシストロビン
厚生労働省の「残留農薬 – よくある質問」にはこう書かれている。
Q3.ポストハーベストの規制はどうなっている?
ポストハーベストは添加物に該当するため、添加物として指定を受けたものしか使用することができません。
<中略>ポストハーベストは、食品添加物に該当します。食品衛生法第10条の規定により、指定されていない添加物(ポストハーベスト農薬を含む)を使用する食品について輸入、使用、販売等が禁止されます。
食品衛生法で指定されたいわゆる「ポストハーベスト農薬」としての使用は日本でも許可されている。ただし、農薬のパッケージ書いている使い方以外は違反となる。
「食品添加物のページ」にある「添加物使用基準リスト(※既存添加物も含む)」を見ると、上記4つの化学物質はかんきつ類等の防カビ剤としての使用が許可されている。その一方で、日本では農薬登録はされていない。つまり「日本では禁止農薬」というのは間違いである。
そもそも日本では、「輸送時間が短い」「冷蔵設備がある」など、わざわざ消費者に忌避されかねない農薬をポストハーベストで使うメリットがないので、農薬メーカーが使い方として申請しないのだ。
国内外で農薬の定義が異なることを利用したトリック
ポストハーベスト農薬は、収穫前(プレハーベスト)に使用される「農薬」とは別のものと思われがちだが、農薬取締法や残留農薬基準では、収穫の前か後かというような使用時期による農薬の区別はない。一方、国際規格コーデックスなど海外の規定では「ポストハーベスト農薬」として使用が認められているものが含まれる。日本と海外では農薬の定義が異なるというだけなのだ。
ポストハーベスト農薬に類する防かび剤は、先述した通り日本では食品添加物として指定され、 制度上は農薬と区別されている。日本の定義では、収穫後の作物はその時点で食品とみなされるため、海外の規定ではポストハーベスト農薬であっても、日本では食品保存の目的で使用される食品添加物として扱われることになる。
この規定を逆手にとって拡散されている誤情報が「日本では収穫後の農薬散布はできない」という言説で、食品とみなされる収穫後の作物には、指定された食品添加物しか使用できないのが日本の規定なのである。
農薬取締法ではなく、食品衛生法の食品添加物として規制される。「農薬」「ポストハーベスト農薬」「食品添加物」と制度・定義上の区分けや呼び名が違っても、同じものと考えてよい。
鈴木氏の「日本では禁止の農薬」「アメリカが禁止農薬をかけたときには食品添加物という文字に替える」という発言・言説は、日米の農薬の定義、管理規制制度の違いをきちんと説明しないことで生じる認識不足や誤解を利用したトリック(詐術)的言説にほかならない。
編集部註 9. ポストハーベスト農薬も、残留基準値で管理されている【農薬をめぐる重要な10項目】を参照した。
ポストハーベスト農薬も安全性は厳格に管理される
収穫後に散布されるポストハーベスト農薬もしくは食品添加物は、収穫前に使用される通常の農薬と比べて消費に近い段階で薬剤が散布されていることから、安全性に疑問を持たれることがある。しかし、ポストハーベスト農薬であれ食品添加物であれ、世界の規制機関は通常の農薬と同様に、食品への残留が基準値の範囲内でおさまっているかどうかで、その安全性は厳格に管理されている。
実際に日本ではどうなっているのか。食品の安全性に敏感とされる生活協同組合おおさかパルコープ商品検査室の説明を引用する。
【果物の防カビ剤について】
輸入果物の一部に「防カビ剤使用」の表示がありますが、安全性に問題はないのですか?検査室からのお答え
人体への影響はありません。
防カビ剤のうち、チアベンダゾール(TBZ)やイマザリルなどは、かんきつ類への使用が食品衛生法にて認められています。これらは、いずれも1日摂取許容量(※1)を大幅に下回るように使用基準(※2)が定められ、安全性が確保されています。
また防カビ剤の使用方法は、果皮に塗布するので、果肉の中にはほとんど浸透しないと考えられます。
生協では、左記の防カビ剤2品について独自に基準を設け(※3)、検査室にて理化学検査を行い、問題がないことを確認し商品を企画しています。
※1 ADI。人間が毎日一生涯摂取し続けても健康に何ら悪影響が出ない量
※2 使用基準→チアベンダゾール (TBZ)かんきつ類:10㎎/㎏ イマザリル(IMZ)かんきつ類(みかんを除く):5㎎/㎏
※3独自基準→「使用制限添加物」とし、輸入かんきつ類に限り使用を認めています(現状では、有用性が高く、代替えできる食品添加物がないため)
「世界中の危ない食品が日本向けになってきている」という鈴木氏の発言・言説に、科学的根拠はない。
AGRI FACTは、鈴木宣弘氏の言説検証を今後も継続していく。
*晴川雨読氏のブログ「鈴木宣弘東京大学教授のデマ満載動画を視聴した」(2021年09月5日)をAGRI FACT編集部が編集・再構成した。
第5回へつづく
協力晴川雨読(せいせんうどく) |