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Part2 商業生産の実現に向けて-オランダ映画「WELL FED」に見る遺伝子組換え作物の意外な有用性とは-【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】
遺伝子組換え(GM)作物といえば、なぜか「巨大企業が貧しい農家を搾取している」「GM作物で恩恵を受けるのは先進国の大規模農家だけである」「工業化された農業は環境に負荷をかけ、地球をいじめている」といったイメージが流布している。なぜ、そんな偏った“フェイク情報”が伝言ゲームのように人々の間を伝わっていくかと言えば、そのようなおかしな情報を積極的に流す市民運動の力が強いからだ。ネット情報を見れば、そのことはすぐにわかる。
こうしたゆがんだ状況を変えたいと考えたオランダの青年2人がドキュメンタリー映画「WELL FED」(約50分間・2017年)を製作した。ストーリーがとても分かりやすく、GM作物の実像を理解するための教材として、学校の授業にも大いに活用できる。
映画を作ったのは、監督のカーステン・ドゥ・フルーフトさんと科学ジャーナリストのヘデ・ブルスマーさんの2人。彼らは友人だ。分子生物学の博士号をもつヘデさんはGM作物のメリットを記事で書いてきたが、どうにも広まらない。有機農産物のすばらしさを信じるカーステンさんに説明するが、それでも伝わらない。ならばと文字や説明だけでは限界を感じ、映画作りを思い立った。映画はヘデさんがカーステンさんを説得する形で進んでいく。
バングラデシュでBtナスを栽培する農家に話を聞くヘデさん(中央)とカーステンさん(右)
西欧人はみな否定的
カーステンさんは知人や環境保護団体にGM作物のイメージを聞く。返ってくるのは「遺伝子操作は危ない」「長期的な影響が分かっていない」「巨大企業が貧しい農家を圧迫している」といった否定的な意見ばかり。ヘデさんはカーステンさんをスーパーに連れて行く。「どの農産物も長い間、遺伝子を組み換える品種改良で生まれたものばかりだ。有機の作物も全く同じだ」と解説する。カーステンさんは少し納得する。
さらに2人は、反対派から賛成派に転向した市民活動家として知られる英国のマーク・ライナス氏に会いに行く。ライナス氏は明快に答える。「GM作物に反対する活動家たちは都合のよいときだけ科学を使う。GM作物を食べると同性愛になるとか、発達障害と関係しているとか、全部根拠なしです。途上国では役立っている」
バングラデシュでは貧しい農家に役立っていた
そこで、2人は途上国のバングラデシュに飛んだ。害虫に強いGMナス(Btナスという)が栽培されているからだ。まずは通常のナスを栽培する一般農家を訪ねた。すると、農薬の使用で手が荒れ、健康に悪いことを承知で農薬を使っている実態を目の当たりにする。次に、GMナスを栽培する貧しい農家へ行く。殺虫剤をほとんど使わずに収穫できている事実を知る。このBtナスは、害虫を殺す遺伝子が組み込まれたナスで、このBtが作り出すたんぱく質は有機農業にも使われ、人に対して無害だ。
Btナスの種子はバングラデシュ政府の研究機関が開発して無料で農家に配ったものだ。そこには巨大企業に支配される農家の光景はなかった。小規模な貧しい農家にも役立っていたのだ。ただし、GMへの反対運動はバングラデシュでもあり、「殺されそうになった」と語る農家も出てくる。
カーステンさんはようやく疑問から解き放たれた。オランダに戻り、GM作物に反対するグリーンピースの活動家と対峙した。「オレはこの目でGM作物が役に立っている事実を見てきたんだ。巨大企業の支配は関係なかった」
裕福な国は自分たちの価値観を途上国に押し付けていないか
オランダをはじめ西欧では、家畜のえさ用に米国から大量のGM作物が輸入され、活用されている。GM作物の恩恵を受けていながら、西欧人はその実態をほとんど知らないとヘデさんは語る。「WELL FED」は、「満ち足りた食」と言う意味だ。飢餓とは無縁の裕福な人たちが途上国の貧しい農家に向かって、「GM作物は危ない」と西欧的な価値観を押し付ける資格が果たしてあるのかと2人は訴える。GM作物は農業技術のひとつだ。技術自体は中立であり、活用次第で有用な技術になるんだとカーステンさんは強調する。
全国で上映会
「WELL FED」の上映会は、今年になって札幌(6月23日)、東京(9月14日)、京都(9月16日)で実施された。東京、京都ではオランダから監督のカーステンさんとヘデさんの2人を招き、日本人パネリストも交えて討論会を開いた。「オランダ政府はGM作物の研究をやっているのか」「バングラデシュでナスのGM種子を無料で配ると種子の管理が行き届かなくなるのでは」「GM作物に関するオランダの報道はどうなっているのか」などの意見が出て活発な議論が展開された。
「GM作物に関する映画実行委員会」(代表は筆者)は、今後も全国で上映会を行う。映画自体はネットで視聴することもできるが、できれば上映会のあとに議論する形が理解を深めるものと思われる。上映会を希望する方はFOOD NEWS ONLINEまで連絡を。会場さえ確保していただければ、希望者側の費用負担はありません。全国どこへでもうかがいます。
東京上映・全体パネル
※『農業経営者』2022年11月号特集「日本でいよいよ始まるか! 遺伝子組換え作物の生産とその未来Part2 商業生産の実現に向けて」を転載
筆者小島正美(「食品安全情報ネットワーク」前代表) |
- 特集, 遺伝子組換え作物の生産とその未来
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