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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート26〉【ナス農家の直言】
今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート26〉」
をテーマに、農業のデマを農家の私ナス男が紹介します!
1.(二)化学肥料の歴史が浅すぎる!
「有機質肥料は昔から使われているのに、化学肥料は最近になって開発された!」
「化学肥料の歴史が浅すぎて、安全かどうか分からない!」
たしかに、有機質肥料は日本では少なくとも江戸時代には使用されていました。
ナタネ油粕や魚粕、人糞などの有機質肥料と言えるものを使用していたので、400年くらいの歴史はありますね。
一方の化学肥料の歴史はどうかというと、18~19世紀のヨーロッパだと言われています。
特に1913年に、空気中の窒素を固定する技術である「ハーバー・ボッシュ法」が確立されたことで、一気に化学肥料が世界中に広まったとされています。
つまり、100年ちょっとの歴史ということですね。
化学肥料の歴史が浅い! といっても、100年以上の歴史があります。
よく農薬批判で、「100年使ってから安全かどうか分かる!」という理論を振りかざしている活動家がいますが、化学肥料は100年以上の歴史があるので、批判はお門違いです。
2.(遊)肥料取締法の歴史が浅すぎる!
農薬の扱いに農薬取締法があるように、肥料の扱いにも肥料取締法というものがあります。なお現在は「肥料の品質の確保などに関する法律」となっています。
1950年に制定された肥料取締法は、農業生産力の維持増進と国民の健康の保護に資することを目的として、肥料の規格及び施用基準の公定、登録、検査等を行う法律です。
制定されて終わりではなく、国民の安全意識の高まりから、現在に至るまで何度も改訂されています。
肥料制度の見直しについて:農林水産省 (maff.go.jp)
化学肥料が危険だと思うかどうかはあなた次第! ですが……
肥料取締法には80年近くの歴史があり、安全性の改正も何度もされているという事実は隠せません。
3.(右)ほんの少しでも疑わしい農薬は即刻禁止しろ!
「欧米では予防原則がちゃんとされているのに、日本はそのまま放置している!」
「ほんの少しでも疑わしき農薬は、即刻禁止!」
と、予防原則を持ち出して批判する人もいます。
予防原則の考え方自体は重要だとは思いますが……
様々な機関の評価で定められたADIや農薬取締法だとしても信用できないとしても、信ぴょう性の低い論文が一つクローズアップされるだけで、その農薬を禁止するというのは、さすがにいき過ぎていると思います。
それならば、「塩や水も摂りすぎれば危険なので禁止!」ということになります。
スマホだってここ十数年でできた電子機器なのだから、100%安全かどうかなんて誰も証明できません。
都合よく予防原則という言葉を持ちだしているだけの活動家もいるので、冷静になる必要があります。
参考 食の安全性をめぐって「予防原則」が乱用されている例として
4.(一)EM菌農業、資材に補助金!
「EM菌は万能で、農業にも幅広い場面で使える!」
「EM菌に対して補助金を出しているくらい、国のお墨付きがある!」
という意見があります。
EM菌とは、Effective Microorganisms(有用な微生物群)の略です。
農業でもEM菌の資材はありますし、最近EM菌の会社に補助金を出たことで一部界隈がざわついていましたが……
科学的には、EM菌に含まれる微生物の多くが雑菌であり、農業に特別有用な効果を生み出さないとされています。
堆肥や土づくりや有機質肥料のボカシにEM菌を使用するようですが、EM資材を用いて野菜を栽培した結果,有機質肥料として以上の肥効は全く認められなかったようです。
しかしだからと言って、EM菌資材を使っている農家を否定するつもりもありません。
私はEM菌資材を使ったことはありませんが、どの資材を使うかは各自試してコスパがいいと思えば使えばいいだけ、だと考えているからです。
悪いのは、
「EM菌を採れば、コロナの結界を作れる!」
「EM菌で放射能の除染ができる!」
など、EM菌で革命を起こせるかのような主張をしている人たちです。
トンデモを勧めている人たちの思惑に流されないようにしたいですね。
5.(三)政府は空からケムトレイルという農薬を撒いている!
一部界隈が問題視している「ケムトレイル」とは、一般人には秘密にされている邪悪な意図で、高高度を飛行する航空機から空中に散布された有害な化学物質または生物兵器……
とする陰謀論です。
長時間消えない飛行機雲に似たものがケムトレイルだそうですが、長時間飛行機雲のように白く残り続ける農薬ってあるのでしょうか? 農薬は短期間のうちに分解・消失する(残留しない)ものだけが使用を認められているからです。
もし白く残留し続ける農薬があれば、証拠(エビデンス)付きでぜひ教えてください! 私ナス男が責任をもって規制機関に警告します。
6.(中)椿油を使えば、ジャンボタニシも退治できる!
「椿油を使えば、ジャンボタニシを使った除草法も簡単にできるのでは?」
と、以前炎上したジャンボタニシ農法に、椿油を使ってチャレンジしようとしている人がいたら、止めてください!
椿油粕は農薬として登録されていませんし、また農薬取締法により「使用量や濃度によっては農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼす恐れのあるもの」とされ、使用を禁止されています。
加えて椿油の主成分である「サポニン」には、抗菌作用や殺ダニ作用がありますが、魚毒性もあることに注意が必要です。
椿油が天然由来だとしても、もし水路や河川等に流れ込んでしまったら、大変なことになります!
適切に水田の除草剤を使えば安全と言えますので、農業初心者の方は無難に農薬を使うことをおすすめします。
7.(左)オーガニック○○の資格を取って、オーガニック野菜を作ろう!
民間の資格で、「オーガニック○○、有機○○アドバイザー」などの資格があります。
これらは民間の資格以上の意味はなく、ましてや有機栽培をするのに必須なわけではありません。
むしろ資格団体によっては知識が偏っていて、農薬に対する正確な知識が身につかない可能性もあります。
民間の資格が全くの無意味だとは言いませんが、資格ビジネスに振り回されないようには注意しましょう。
8.(捕)バナナは農薬が残留しやすいから、軸をすこし切り落としてから食べた方がいい!
「バナナは農薬が残留しやすいから、少し先端の軸を切り落としてから食べなきゃ!」
という、間違った投稿がありました。
安心してください。
バナナの残留農薬は皮ごと検査されており、皮から農薬が検出されたとしても、皮をむいて食べれば人体に影響はないです。
また、特定の部位に農薬が残留しやすいということもありません。
バナナの皮をむいて、いつものようにおいしく食べてください!
9.(投)日本原産の野菜だけ食べよう!
「海外原産の作物なんか気に食わん! 排除して日本古来の野菜だけ食べよう!」
かなり右寄りの思想ですが、日本原産の野菜だけを食する生活はかなり厳しい生活になります。
なにしろ、日本古来からの在来種は「明日葉、フキ、ミツバ、ワサビ、ウド、セリ、自然薯」くらいなのですから。
料理のレパートリーもあったもんじゃありません!
極端な思想を農業や食に取り入れてはいけませんね。
まとめ
読んでくださる消費者の皆さんのおかげで農業デマシリーズも、メジャーリーグの球団数(30)まであと少しです。
絶えず発生する農業デマを、これからも消費者に分かりやすく紹介していきます。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |