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【誤り】検証内容「数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。体内に残留しないというモンサントの説明に疑義が生じた」山田正彦氏(元農水大臣)
「数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。体内に残留しないというモンサントの説明に疑義が生じた」山田正彦氏(元農水大臣)
【AGRI FACTによるファクトチェック結果】
【その理由は?】
母乳に化学物質が含まれるのは、体内から正常に排出されている結果であり、体内に残留していることを示すものではないため。
AGRI FACTのファクトチェック【対象と選択基準】
AGRI FACTのファクトチェック【評価基準と判定】
以上の要旨はAGRI FACT事務局が作成したものです。
詳細は以下でご確認ください。
農業にまつわる噂・ニュースの真偽検証サイト AGRI FACT(アグリファクト)は、2019年11月30日、「数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。体内に残留しないというモンサントの説明に疑義が生じた」山田正彦氏(元農水大臣)との記述についてファクトチェックを行い、「科学的根拠なし」とする調査結果を発表した。
ファクトチェックした記述内容
「数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。体内に残留しないというモンサントの説明に疑義が生じた」
記述内容の原文(検証対象は太字部分)と出典
数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。人間の体内に残留しないとするモンサントの説明には疑義が生じ、同時にEPAへ申請した前提も崩れることになる。
出典:山田正彦『売り渡される食の安全』(角川新書、2019)168頁
ファクトチェックの検証結果
化学物質の体内残留量は、通常は時間とともに減少し、半分の量まで減る時間を「半減期」と呼ぶ。半減期を迎えるたびに体内残留量は半分に減るので、半減期を10回迎えれば残留量は1/2x10=1/1024、20回迎えれば1/2x20=1/1048576、つまり100万分の1以下まで減る。
こうして時間をかければ健康に影響がない量まで体内に残留する化学物質の量は減っていく。「体内に残留しない」とは、通常の測定法では検出できないレベルまで減少していることで、より正確には「検出限界以下しか存在しない」という意味である。
農薬は厳しい安全性試験が行われているが、もし体内に残留することが試験で証明されれば、農薬として販売することは禁止される。
糞、尿、汗、乳などは体内の化学物質が排出される経路であり、これらに化学物質が含まれていることは、体内から化学物質が正常に排出されている結果と考えられる。したがって、「人間の体内に残留しないとするモンサントの説明には疑義が生じ」という記述は、科学的な見地から正しいとは言えない。
とはいえ、母乳に多量のグリホサートが含まれていれば、乳幼児への健康に対する影響が懸念される。そこで、母乳に残留するグリホサートの影響について「量」の観点から計算してみる。化学物質の安全性は、「毒性の強さ」と「摂取(曝露)量」の掛け算から得られる値を基準に評価される。そして摂取量が一日摂取許容量以下であれば、一生の間毎日食べ続けても健康に影響はないと考えられている。
食品中の化学物質の安全性を検証する国の専門機関である食品安全委員会が定めたグリホサートの一日摂取許容量は1ミリグラム/kg/日であり、体重3キロの乳児であれば1日に3ミリグラム(3000マイクログラム)になる。母乳に入っていたとされる166マイクログラムのグリホサートを体重3キロの乳児が飲んだとしても、166マイクログラム/3000マイクログラム=0.055、つまり一日摂取許容量の1/16以下。母乳を一生飲み続けることはないが、仮に一生の間飲み続けても健康に何の影響もない量である。
ゆえに、「数人の母親の母乳から最大で166マイクログラムのグリホサート(ラウンドアップの主成分)が検出された。体内に残留しないというモンサントの説明に疑義が生じた」は「科学的根拠なし」(評価基準と判定)と判断される。