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Vol.13 肉牛肥育をやめた農家が「食料・農業・農村基本法改正」問題を語る【農家の本音 ○○(問題)を語る】

農家の声

栃木県小山市郊外でコメ麦ソバ等を生産する末柄淳です。1999年に制定された農政の基本理念や政策の方向性を示す「食料・農業・農村基本法」の改正が予定されています。先日その改正法案が農水省から自民党に示されたとの報道がありました。農業関係者すべてに影響する基本法の25年ぶりの改正であり、意見聴取の会議が開かれるたびに報道されてきたので、注視していた人も多いと思います。農水省が示した基本法改正案の条文は2024年2月14日付け農業協同組合新聞記事およびJAcomで見ることができます。今回は基本法改正案に関する私見を述べたいと思います。

改正案が示唆する「農村」のイメージと実情

法律自体が農業関係の全体を網羅しているため改正範囲も広く、法律用語が羅列された改正案を読むのは実に難儀です。斜め読みして気になる言葉を拾っていったところ、「農村」に関することが多く書かれていることが分かりました。

アグリファクトユーザーの皆さんは「農村」という言葉を聞いて、どんな状況を思い浮かべるでしょうか?

あたり一面に広がる水田での田植え風景や稲刈りの風景。あるいは畑で野菜の収穫作業などを思い浮かべると思いますが、これは農村「風景」であって、実情はそんな綺麗な景観ばかりではありません。

実例として私が住んでいる集落は一般的には「農村」と呼ばれるであろう集落ですが、戸数は70戸弱。その中で農地を持っているのは約半数。まがりなりにも農産物(主にコメ)を作っているのは5戸にすぎず、販売目的(自家消費の余りを売る程度の方を除く)で農産物を生産しているのはたった3戸です。そう、比率にすると4%程度の人しか農業を生業としていないのです。

農作業の生産性が上がった結果、一人で多くの面積を耕作できるようになりました。一方で小さな面積では機械の償却もできずに離農が進み、比率は場所によっては変わるでしょうが、「農村」と呼ばれる地域ですら風景こそ農村でも、実態は「農業をしている人もいる集落」なのが実情だと思います。

ここまで農業で生計を立てる人の比率が減ってくると、通常の農作業も気を使いながらすることになります。15~20年前くらいまでは、日曜日の早朝は日の出とともにあちこちで草刈り機のエンジンがうなりを上げ、道路に多少の土が落ちていてもお互い様、籾殻を燃やして煙や臭いが漂っても野焼きを制限する法律もなく苦情を言われることはありませんでした。それが今では苦情が来るし、場合によっては警察もやって来るので、全部ダメです。

私自身の話になりますが、表題に「肉牛肥育をやめた農家」と入れたように、父の代から約50年続けた和牛の肥育をやめました。技術的に至らないこともあり経営が厳しくなったこともありますが、牛舎周辺の悪臭や糞尿処理等で、直接間接を問わず苦情を貰うことになり、経営転換を余儀なくされたことがきっかけになっています。

もはや風景として農地がある地域であっても、住んでいる人と農地の関係は希薄になり、「農村」と言ってよいのか疑問が湧く状況なのです。

のどかな風景の維持より農業しやすい法制度環境の整備を

そうした農村の実情を踏まえた上で、今回の基本法改正原案を見ると、現状に則して運用を変えようというより、「のどか」だった時代の風景を維持しようという思想が見えてきます。

耕作放棄地の増加と食料自給率の低さから、「農村」に何らかの施策で事態改善を計る必要性があるのは分からなくもないものの、原因の捉え方が間違っていないでしょうか? 耕作者がいないのであれば新規参入者を募って……という短絡的な発想は、耕作放棄地の発生原因を理解していないと思います。

耕作放棄地は条件が悪くて耕作に適さず、耕作しても作業に見合った収入を得られないか、権利関係が分からないか複雑すぎてむやみにいじれない土地がほとんどで、耕作者不足が発生要因ではないのです。

参考

戦後の農地解放直後のように、ほとんどの国民が自給のための農業を営み、屋敷付きの農地で農作業を行い、地域住民共同で水路や雑木林を管理していた時代はとっくに過去のものになりました。農業が一つの産業とみられるような状況になり、農産物を生産する農地は、工業団地と同様に住宅地とは分離して管理すべき時代が来ているのではないかと思います。

この手の意見を発信すると、「観光農園や景観を売りにしているところはどうするんだ?」と反論されることがありますが、農産物は生産しているかもしれないけれど、文字通り「観光」「景観」で商売しているのだから支援は違ったアプローチ(農業予算ではなく観光予算等)をすべきでしょう。

中央・地方問わず役所の仕事は予算と仕事(結果として補助事業)の確保なのかもしれません。そして、関連する人の数(農村人口)が減る施策は、自分たちが差配する仕事と予算を減らすことにつながるためか、農政関連の役所や議員が避けたいのは容易に想像がつきます。しかし、農家がやってほしいのは補助事業ばかりではなく、農業現場が仕事をしやすい法制度環境の整備です。

そして、今回の基本法改正以外でも、有事の食料増産に関連して罰則の話なども出てきています。これも現場の状況を見ないまま、「法律作れば皆が従う」と思っているように見えて、何とも残念でなりません。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

末柄 淳(コメ麦ソバ等の生産農家)
栃木県小山市郊外の農家。1986年に宇都宮大学農学部畜産学科を卒業後、畜産団体で乳牛改良関係の仕事に従事。95年退職し家業につく。令和5年現在コメ、ビール麦、ソバ、ジャガイモ、ニンジンを生産。2023年まではピーク時年間出荷約50頭の黒毛和牛肥育も営んでいた。
Facebook : https://www.facebook.com/kiyoshi.suegara

 

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