会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート34〉 〈食料供給困難事態対策法、食料危機編〉【ナス農家の直言】

農家の声

2025(令和7)年4月に、食料供給困難事態対策法が施行されました。
有事を想定した食料供給の法律ということで、
「戦争や有事でもないのに、食料が配給制になるぞ!」
と曲解やデマを流す方や、食料危機の持論を展開する方もいます。
ということで今回は、
「農業に関するデマで打線組んでみた! <食料供給困難事態対策法、食料危機編>」
をテーマに、農家の私ナス男が食料供給困難事態対策法や食料危機対策について紹介していきます。

1.(中)そもそもどういう法律なんだ!

今回成立した食料供給困難事態対策法とは、
「近年の世界的な食料需給の変化と生産の不安定化により、食料供給が大幅に減少するリスクが高まる中、食料供給が減少し、国民生活・国民経済に影響が生じる事態を防止するため、平時からの対応に始まり、必要な対策を政府一体となって早期から措置を行う」
と、農水省のHPにあります。

上記のような有事の際に、政府の意思決定や指揮命令を行う体制は存在しなかったため、新たに作られた法律です。
有事の際の、食料生産に携わる者=農家にも関係している法律ということで、SNSでは多くの賛否、そしてデマが集まりました。

2.(二)花農家に芋や米を作らせるのか!

多くの方が勘違いされている部分が、
「花農家などが、米や芋などを強制的に生産させられる」
ということです。
たしかに有事の際に政府は農家に対して、生産促進の「要請」は可能になります。
しかし「要請」に強制力はないですし、農水省も否定しています。

農家の立場としても、トラクターやコンバインのような農機がない農家に、いきなり米や芋を生産しろと命令しても無理だと思います。
私なんかはナスとキャベツしか作った経験がないので、機械があったとしても米や芋を栽培する技術はありません。

3.(三)国が農家に増産を要請するのか!

「農家に特定の食料の増産を命令するのか! 営農の自由がなくなる!」
という批判は、間違っています。
たしかに食料供給困難事態の時は、提出された生産計画の変更が可能と見込まれる者に限り、生産計画の変更指示することができるようになります。

しかし、作物転換したうえで値崩れが発生した場合は、財政面の支援内容を検討するという一文があります。

「損をした分は埋め合わせるように検討するから、この作物を作ってくれ!」
と言われれば、国の有事の際には協力する気持ちになると思います。

4.(一)増産に従わないと罰金20万円!

最もクローズアップされているのが、罰金20万円の部分です。
「農家は増産指示に従わなかったら罰金20万円」
というデマが目立ちますが、正確には、
「生産計画の届け出を行わなかったら罰金20万円」です。
農家に無理筋な作物を生産させるための罰則ではありません。
食料供給困難事態対策法は、有事の際の食料生産能力の把握を目的とした法律なので、生産計画がなければ対策の取りようがありませんからね。

5.(左)指示に従わなかった農家は公表されて晒される!

生産計画の履行や変更指示に実効性を持たせるために、罰金の他にも罰則があります。
それが、
正当な理由なく、「届け出た計画に沿った生産を行わなかった場合」と、「計画変更の指示に従わなかった場合」です。
「必ず計画通りの収量以上を取らないと晒されてしまうのか!」
と思われるかもしれませんが……
自然災害や健康上の理由で収量が減ってしまった場合は、罰則の対象にはなりません。
平時の時でも収量の増減は、農業では毎年のようにありますから、頑張ったけど計画通りにいかなかった場合は当然考慮されないと困ります!

6.(右)食料自給率100%を目指せ!

「食料自給率が38%なんて、有事になったらすぐに飢えてしまうじゃないか!」
と心配する声もあります。
たしかに食料自給率を向上させることは大事ですし、日本政府も45%を目標にして様々な政策を立ててはいますが……
カロリーベース食料自給率は、計算式上ではなかなか上がらないのが現状です。
カロリーベース総合食料自給率(2023年度)
=1人1日当たり国産供給熱量(841kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,203kcal)=38%

カロリーベースの食料自給率を上げるのであれば、カロリーが低い野菜ではなく、

①小麦などの穀物
②牛肉豚肉鶏肉などの畜産物

をもっと生産するしかないのですが……

①湿気に弱い小麦は、狭い田んぼが多い日本の農業に向いていませんし、
②国内生産した畜産物でも、輸入した飼料を使って生産した分は、総合食料自給率における国産には算入していません。

すでに1億人を超える人口を抱える日本では、100%自国で食料を補うことが難しいのではないでしょうか。
いきなり輸出入を閉ざしてしまえば強制的に食料自給率は100%になるでしょうが、それは即ち食料供給困難事態になってしまいますよ!

7.(捕)種も全て国産にしろ!

「現状の日本で生産されている野菜の種の9割以上が海外産!」
という某教授の発言は、正確ではありません。
正しくは、「9割以上が日本メーカーの海外圃場(ほじょう)で生産されている」です。
有事の際に種が手に入らなくなるかと言えば、私は手に入ると思います。
種苗メーカーはあらゆるルートを使って日本に種を持ってくるでしょう。
空路や海路が全て危険で封鎖されてしまったら、さすがに種は入ってこないでしょうけど……
同じく石油は100%輸入なのだから、食料の心配をするのと同レベルで、まず輸送が滞る心配をした方がいいです。

8.(遊)肥料も国産にしろ!

「肥料を全て国産にしろ!」
という主張も無理があります。
下の図のように、現状の肥料の国内製造資源は3大主要要素の一つのリンをベースにして25%しかありません。

鉱物資源が乏しい日本では、全てを国産にするのは難しいのが現状なのです。
肥料の安定供給確保に向けた施策として、

  1.  肥料の備蓄
  2. 輸入国の多角化
  3. 堆肥や汚泥肥料などの有機肥料の活用

などの対策を日本政府は進めています。

肥料をめぐる情勢

食料自給率と同じく、輸入を全て閉ざせば強制的に100%になるでしょうが、それはすなわち日本自ら飢えに向かうことにつながるでしょう。

9.(投)自然栽培は有事に強い!

「肥料や農薬を一切使わない自然栽培なら、肥料や種が入ってこなくなっても作物が生産できる!」
と、有事の対策として自然栽培を推奨している某政党がありますが、私は反対です。
「農薬や化学肥料を使った野菜は体によくないから、自然栽培を増やそう!」
と喧伝していた某政党の党首は、某番組でひろ○き氏に指摘された無農薬で収量が上がったデータを3年以上経った現在でも示せていません。
そして私の記事でも何度か紹介していますが、農薬を使わないとほとんどの作物が減収するのはデータで出ています。

(農水省の「農薬に関するよくある質問より抜粋)


効率的な食料生産という点では、自然栽培は向かないのはデータが示しています。
断っておくと、私は自然栽培自体を否定するつもりは毛頭ないです。
しかし自身の主張を支持者に信用してもらうために、農業の分野でデマを流されるのは勘弁してほしいです。

まとめ

私は国防や輸出入に関しては門外漢ですから、コメントしません。
ただ食料自給率や農業の分野では、明らかに現場の農業を知らない方があたかも事実かのように喧伝しているのは目に余ります。
消費者の皆さんも、不安に煽られず冷静に情報を取捨選択していただきたいです。

 

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人)

 

 会員募集中! 会員募集中!

関連記事

記事検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  2. 2

    徳本修一(トゥリーアンドノーフ株式会社代表取締役)

  3. 3

    コメ高騰は「人災」だったーー農水省作況調査の欠陥が招いた信頼崩壊

  4. 4

    Vol.32 ローラ就農報道で世間を騒がす雑穀食事術「つぶつぶ」【不思議食品・観察記】

  5. 5

    第2回 なぜ米価は暴騰したのか?――隠された“作況指数の嘘”【浅川芳裕の農業note】

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP

会員募集中

CLOSE

会員募集中