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香料不使用の商品開発で考えた、自然か人工かではない物差し:71杯目【渕上桂樹のバーカウンター】
私は仲間と耕作放棄地を開拓してベルガモットという柑橘の農場を営んでいます。ベルガモットは香りが良く、アロマや香料として使われ、紅茶のアールグレイの香り付けに使われていることで有名です。ただ、日本では香料になって輸入されるものがほとんどで、フレッシュなベルガモットはなかなか手に入りません。私たちがベルガモットを栽培する理由の一つに、国産のフレッシュなベルガモットを使った製品をプロデュースしたいという思いがありました。そこで取り組んだのが、地元・長崎県産の紅茶と自分たちのベルガモットを使った「素材感あふれるアールグレイ」の開発です。もちろん、香料は一切使わず、自分たちのベルガモットの香りがそのまま伝わるものを検討したのですが……。
欲しい香りだけ抽出の商品開発に苦戦
商品開発は長崎県の食品開発支援センターという施設で、商品開発に強い職員さんも仲間入りして進めたのですが、やはり簡単ではありませんでした。一番苦労したのが、「ベルガモットの香りだけを取り出すこと」です。もちろん、ただ香りを出すだけなら簡単です。ベルガモットはもともと香りが強い柑橘なので、多めに使えば香りは出るのです。問題は苦みや酸味など、「それ以上要らないよ」という風味がついてきてしまうことです。
開発の際にはベルガモットの皮を剥いて、果肉の部分と分けて乾燥・粉砕するのですが、その粉砕の方法や皮と果肉の配合に苦労しました。たとえば、皮を多めに入れると香りが出やすいのですが、苦みもついてきてしまいます。
また、果肉を多めに入れると香りより酸味が出てしまいます。こうして「欲しい香りだけ」を抽出するのに苦労しました。あたり前かもしれませんが、ベルガモットはベルガモットなので、都合よく香りだけを使うなんて勝手な話なのです。
香料不使用の商品開発でわかった、香料のすごさ
もしここで香料を使えればもっと簡単に開発できたかもしれません。風味のクオリティも高いものが作れるでしょう。香料不使用の商品を開発しているうちに、香料の技術の重要さや食を豊かにする役割の大きさを感じさせられるようになりました。何パターンも作ったお茶をテイスティングしながら、私たちはたびたび「香料ってすごいんだね」と笑って話すことがありました。香料のすごさは、もしかしたらうま味調味料やそのほかの食品添加物にも当てはまるものかもしれません。
でも、私たちは香料不使用にこだわって開発を進めました。ピュアな香りを取り出せる香料の良いところはしっかりと理解したうえで、酸味や苦みやその他の雑味もついてくる私たちの製品こそ、素材感であり特色だと信じていたからです。ですので、私は香料不使用を掲げながら香料をリスペクトしていました。
私たちが香料不使用にこだわったのは、香料を良くないものと捉えているからでもありません。香料を使わない方が自然であるというのは、素材感が近いという意味ではそうかもしれませんが、優れているというつもりもありません。自分たちで拓いた土地に、自分たちで植えたベルガモットのそのままに近い香りを届けたいという思いで開発していました。
自然 or 人工論の先へ
「自然のものは良い」「なるべく自然なものを」「人工のものは避ける」という物差しがあるのは理解していますが、農場の開拓から農産物の加工まで携わっていると何が人工で何が自然か簡単に判断できないと感じます。自然を切り拓いて造った農場はもう自然とは言えませんし、人工的と言える香料だって「素材感ある」香料ができれば十分自然を感じられるかもしれません。自然と人工を分ける物差しも、とても曖昧なものに思えてくるのです。
商品開発を通して学んだのは、自然と人工を対立させることではなく、それぞれの良さを理解したうえで、自分は何を届けたいのかを選ぶことでした。だから私は、自然か人工かではなく、「作りたい」や「好き」の物差しを大切にしたいと考えています。
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |



