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【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑦】 オーガニックカルトはトランプと排外主義の夢を見るか?②
前回の記事では「オーガニック問題」が単に食の情報をめぐる正誤の次元を超え、世界を覆う排外主義やポピュリズムとシンクロしつつあるという問題提起をおこないました。
その具体例として、国内オーガニック・インフルエンサーたちの言動を取り上げていきたいと思います。
堤未果氏
国際ジャーナリストを自称する堤未果氏は、食関連の著書に『ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?』『ヤバい“食”潰される“農” 日本人の心と体を毒す犯人の正体(藤井聡氏との共著)』などがあり、最近では「全国オーガニック給食フォーラム」の基調講演に登壇するなど、オーガニック推進のオピニオンリーダーとしても活躍しています。
しかし、オーガニック推進の根拠として堤氏が掲げる情報の多くは、現代の食への強い不安を煽るトーンで発信され、前回取り上げた山田氏と同様に「アテンションエコノミー」の性質が色濃く出ています。
その情報自体も、反農薬運動や健康食品ビジネス等で採用されてきた類型的な誤情報・陰謀論の反復で占められているため、専門家の検証に耐える水準のものとはいえません。
そんな堤氏は2025年1月10日、JAcom農業協同組合新聞への寄稿記事でロバート・ケネディ・Jr氏のトランプ政権入りについて肯定的に取り上げています。(※1)
農業関連記事にも関わらず、記事の前半ではケネディ氏の反ワクチン論者としての立場を擁護。
「ワクチンや食についてメディアから「陰謀論者」と不当なレッテル貼りを受けている」などとして、ケネディ氏が既得権益層から攻撃を受けている被害者であることを強調します。
後半ではケネディ氏が掲げた農業公約を取り上げつつ、「SNSなどでは(ケネディ氏を)まるで英雄のように神格化する声も少なくない。そう、私たちはいつもヒーローを待っている」と手放しに称賛。
最後は自ら法案作成に携わった日本国内の「ローカルフード法案」の話題につなげ、その意義の大きさを訴えています。
「ローカルフード法案」(※2)の詳細にはここでは触れませんが、当法案に対しては、堤氏も関与するアンチWHOの反ワクチン陰謀論団体が支援を表明しています。
中心人物の林千勝氏はSNSで堤氏との写真を投稿し、「医食同源の国民運動が始まりつつある」「これに成功すれば、その勢いでワクチン行政にもより深く切り込むことができる」と主張。
オーガニック推進と反ワクチンがひとまとまりの政治的立場として完全に融合しつつあることを高らかに表明しています。
ところで、このような記事を書いた堤氏の普段の発言をいくつか見てみましょう。
単に食と医療の誤情報にまみれたケネディ氏への共感を超えて、トランプ氏が掲げる陰謀論、温暖化懐疑論、排外主義との親和性が見えてきます。
- 2020年の米大統領選に関して、不正選挙がおこなわれたとするトランプ氏の主張を支持。(※3)
- 自著『堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法』で地球温暖化懐疑論を展開。「白クマの数は20年前の20倍に」「南極の氷は増え続け、毎年最高記録を更新」「ツバルなどポリネシアの島々は、水没どころか面積を広げている」「地球は過去8年ずっと冷え続けている」などの誤った記述が登場する。(※4)
- 自著『日本が売られる』で「医療目的を隠して来日する外国人たちが国保を食い潰す」と主張し、移住連から「在日外国人への偏見を助長する」として正式に抗議を受ける。(※5)
このほか国内でも早くから参政党の動画に出演するなど、排外主義とオーガニック・反ワクチンの融合を指し示す先駆的なサンプルといえるでしょう。
A氏(有機栽培指導者)
堤氏に見られるような現象は、それだけを取り上げる分には、一部の政治家や反ワクチン運動家たちによってオーガニックが悪用されているという風に解釈することもできます。
有機農業者やオーガニック食品事業者たちは誠実に仕事をしているだけなのに、声の大きい過激な人々によってその価値が歪められている、あくまで騒がしいのは外部である、と。
もちろんそのような側面もゼロとはいえないでしょう。
しかし現実には、有機農業の現場にきわめて近いところでもこれに類する現象は多く観測することができます。
一例として、著名な有機農法理論の指導者として多くの自治体で講演・講座などをおこなっている人物であるA氏も、個人SNSの投稿ではトランプ・ケネディ両氏への支持を全く隠そうとしません。
(※メディアや著書など公共の場で発表されている内容ではないため、氏名や団体名を伏せて記述します)
その多くは他者の投稿や動画をシェアする形式で占められているものの、この数カ月のタイムラインを確認するだけでも、驚愕するような内容です。
- 「トランプ大統領を選んだように日本でもまともな代議士を選び〜」と投稿
- HHS(アメリカ合衆国保健福祉省) が児童人身売買に関与していたとするケネディ氏の陰謀論を「実際にあったんですね。陰謀論という誤魔化しは通用しなかった」と紹介
- ケネディ氏がイベルメクチン(抗寄生虫薬)の万能性を主張する動画
- 金星人が人類に伝えたヤバい警告3選と題する動画(トランプ氏がこれまで隠蔽されてきた金星人の情報を公開してくれるという主張を含む)
ケネディ氏が直接登場しない内容であっても、ワクチンや医療関係の投稿は数多く、過激な反ワクチン論者として有名な立憲民主党・原口一博衆議院議員への支持や、断食でワクチンデトックスが可能とする投稿、イベルメクチンで癌が治るとする吉野隆明氏と奥野卓志(ごぼうの党)の動画を「事実だったらすごい事です」とシェアするなど、荒唐無稽の様相です。
このほかにも、反移民・外国人嫌悪・財務省陰謀論(深田萌絵氏の動画を含む)・STAP細胞陰謀論・プーチンを称賛する親ロシア動画・南京大虐殺を矮小化する動画・参政党の神谷宗幣代表と三橋貴明氏の対談動画など、挙げていけばきりがないほど、目を疑う投稿が並びます。
なかにはゼン・ハニーカット氏の「5つの小児用ワクチンすべてがグリホサート陽性」といった投稿をはじめ、農薬や食の安全に関する投稿もあるにはありますが、それらが霞んでしまうほど、多岐にわたる分野の類型的な誤情報・陰謀論によって埋め尽くされている状況です。
これらはともすれば、ネットリテラシーを適切に養うことのできないままスマホ依存を深めてしまった中高年男性のタイムラインとして見る限り、それほど特殊なものではないのかもしれません。
しかし、日本の有機栽培における代表的な有識者として各地で講演・講座をおこなう影響力を持った人物がこのような世界観を有していること、また周囲にそれを諌めることのできる人間がいないことの異様さは、もう少し深刻な事態として問題視される必要があるように思います。
(※1)R・ケネディ・ジュニア氏が米国農務省長官顧問に指名された意味(1)(2) 国際ジャーナリスト 堤未果氏(JAcom農業協同組合新聞)
(※2)ローカルフード法で地域の食を守る!
(※3)報道の裏にある現実を見極める眼を 堤未果 国際ジャーナリスト 【クローズアップ:米国大統領選と情報戦争】
(※4)堤未果の★★・ドクトリン④ 陰謀論編(晴川雨読)
(※5)【お知らせ】堤未果著『日本が売られる』についてのファクトチェックを幻冬舎に送付しました(NPO法人 移住連)
筆者熊宮渉(ダイアログファーム代表) |