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遺伝子組み換え作物由来の植物油を使う粉ミルク――安全性に全く問題なし【FOOD NEWS ONLINE】

コラム・マンガ

こんにちは、小島正美です。きょうは、あの憎まれっ子の遺伝子組み換え作物に関する2回目のお話です。粉ミルクに遺伝子組み換え作物由来の植物油が使われていても、安全性に全く問題はないというお話です。

ママ美 そういえば最近、赤ちゃんが飲む「粉ミルク」に、遺伝子組み換え作物が使われいるという話をネットで見ました。なんだか赤ちゃんを育てているお母さんを怖がらせるような話ですが、大丈夫でしょうか。

正美 遺伝子組み換え作物は「組み換え」という言葉のせいか、どうもイメージが悪く、どうしても嫌いな人たちが世の中にいますね。その気持ちは尊重したいですが、科学的根拠に基づかずにお母さんを怖がらせるのはちょっと行き過ぎですね。

市民団体「たねと食とひと@フォーラム」が日本の粉ミルクメーカー6社にアンケートをしています。メーカー側の回答を見ると、粉ミルクの原料のひとつとして植物油が使われ、その植物油の原料に遺伝子組み換えナタネや大豆が使われていることが分かります。

植物油に、組み換え作物の元の遺伝子やたんぱく質は残っていない

ママ美 どんな目的で植物油を使うのでしょうか。

正美 粉ミルクは牛乳を主原料に作ります。だけど、それだけでは赤ちゃんが育つには足りず、植物油やビタミン、ミネラルなどを加えます。植物油は乳児の成長に必要なリン脂質の補強、消化吸収の改善、脳神経系の発達などを目的に使うようです。大豆から抽出したレシチン(リン脂質の一種)も使われている場合がありますが、これは粉ミルクを均一に溶けやすく効果もありますね。ついでに言えば、大豆レシチンはチョコレートにもよく使われていますよ。

ママ美 植物油は必要性があって加えられているわけですね。植物油の原料が組み換え作物だと危ないのでしょうか。

正美 いやいや、そんなことは全くありません。そもそも粉ミルクに食べて危ないものが含まれていたら、いまごろ全国の赤ちゃんは病気だらけのはずです。まず知ってほしいのは、遺伝子組み換え作物(大豆、ナタネ、トウモロコシ)を原料にした食用油には、元の大豆やナタネなどにあった組み換え遺伝子やその遺伝子が作り出したたんぱく質は含まれていないということです。大豆やナタネから油を取り出す過程で元の組み換え遺伝子は除去されたり、分解されるからです。

植物油の原料は、すでにほぼ100%組み換え作物

ママ美 そうだったのね。食卓で使うドレッシングのような食用油にも残っていないでしょうか。

正美 その通りです。私たちが日々利用している食用油の原料(大豆やナタネ、トウモロコシ)は、いまではほぼ100%、遺伝子組み換え作物になっています。つまり、粉ミルクに限らず、食用油の原料はすでに組み換え作物が利用され、食べられているのです。

ママ美 そこまで普及していたんですね。ならば、その表示をしてくれればよいのにね。

正美 そう思う気持ちは多くの消費者にありますね。組み換え作物かどうかを表示する制度は2001年に始まりましたが、その表示義務の対象品目は検知可能な豆腐や納豆など33の食品群です。残念ながら、粉ミルクも含め、食用油は表示の対象外です。

ママ美 えー、そうなんですか。なぜでしょうか。私は知りたいけどなあ。

正美 それはさきほども言いましたが、食用油には組み換え作物の元の遺伝子やたんぱく質が残っていないからです。検査しても検出できなければ、その表示がウソかホントか、行政側が取り締まることができないわけです。

トレーサビリティーで、値段が2倍以上に

ママ美 でも、原料の素性は、さかのぼれば追えるのではありませんか。

正美 たしかに不可能ではありません。トレーサビリティー(生産から消費までの過程を追跡すること)といって、流通過程を追跡する方法はあります。ですが、米国の生産現場から日本の最終消費の現場まで「これは組み換えではない」との由来証明書をつけたま流通させるためには、多額の管理費用と手間暇がかかります。中小事業者には大きな負担となります。それでも一部生協では、組み換えではない原料を使った食用油が「組み換えではない」と任意で表示されて販売されています。けれど、値段は通常の2倍以上もします

ママ美 2倍以上! それは大きいですね。品質には差があるのでしょうか。

正美 組み換え原料であろうと、非組み換え原料であろうと、油の成分、品質に差はありません。だって、作物から取り出した油は、純粋な油ですから。たとえば、同じ品種のナタネから抽出した油なら、組み換えかどうかで差は生じません。むしろ、組み換え作物のほうが生産過程で農薬の使用が少なく済むので、私自身は組み換え作物を使った食用油のほうが絶対にみんなに喜ばれるはずだと思うけどね。

組み換え作物の方が、使う農薬も、発生する二酸化炭素も少ない

ママ美 組み換え作物は、すでに相当、日本の食卓に浸透しているわけですね。

正美 そのとおりです。日本は遺伝子組み換え作物(トウモロコシ、大豆、ナタネ)を計年間2000万トン近く(2018年)も輸入しています。その用途は主に3つで、

①家畜の飼料
②食用油の原料
③清涼飲料の液糖(甘味料)――です。

家畜の飼料はほぼ100%、組み換え飼料になっています。しかし、牛や豚が組み換え飼料を食べたからといって、その肉やミルク(乳)に元の組み換えDNAが含まれているわけではありません。鶏の卵も同じです。ちなみに家畜に悪影響は出ていませんよ。

組み換えが好きとか嫌いとかは別に、すでに米国やカナダ、ブラジルなど世界の大産地では大豆、ナタネ、トウモロコシの9割以上が組み換えになっています。組み換え作物のほうが収量が多いし、農薬の使用量も少なく、二酸化炭素の発生量も少ないわけですから、どんどん普及していくのは理にかなったことなのです。

ママ美 粉ミルクの話から進んで、世界の状況までよく分かりました。それでも、組み換え作物に対する悪いイメージを消すのはなかなか難しい気がします。

正美 その気持ち、とてもよく分かります。実は私もかつては悪いイメージを持っていました。しかし、事実を知るにつれ、私の考えは徐々に変わっていきました。あせらずにゆっくりと事実を学んでいけばよいと思います。組み換え作物に反対する人たちにちょっと言いたいのは、一方的に怖がらせるのではなく、組み換え作物の良い面にも触れ、科学的には安全だと説明したうえで、それでも嫌いですというふうにしてほしいですね。今回のように事実をふまえずに、粉ミルクを題材にお母さんたちを不安にさせる作戦は感心しませんね。

きょうのレッスンは、日本での食用油の原料のほとんどは遺伝子組み換え作物になっていて、その油には元の組み換え遺伝子やそのたんぱく質は残っていないこと、そして、粉ミルクに使われる植物油は全く安全だということを覚えておくことです。

FOOD NEWS ONLINE「第5回 遺伝子組み換え作物由来の植物油を使う粉ミルク―安全性に全く問題なし」を許可を得て転載

筆者

小島正美(「食品安全情報ネットワーク」共同代表)

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