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第1回 なぜ農薬を使うのか【農薬について知ろう】

コラム・マンガ

農作物の安全性の面から「残留農薬」を気にする人が増えています。最近では、小麦粉やパンなどの小麦製品から残留農薬が検出されたことが話題になりました。スーパーマーケットには化学合成農薬を使わない、いわゆる有機(オーガニック)栽培の野菜も並びます。ひょっとしたら農薬は必要ないとすら考える人もいるのかもしれません。そこで、農薬が気になる人の疑問を解決すべく、残留農薬を中心に、農薬の使用目的や安全性、検出法などについて、サイエンスライターの佐藤成美がシリーズで解説していきます。


害虫や雑草から農作物を守る

農薬とは、害虫や雑草、病気から農作物を守り、安定して供給するためのものです。病害虫から守るための殺虫剤や殺菌剤、雑草を排除するための除草剤、農作物の生育や開花を調整する植物成長調整剤などがあります。

害虫や雑草の被害にあうと、農作物は病気になったり、生育が悪くなったりして、高品質で十分な量の作物を収穫できなくなります。また、栽培面積が大きくなればなるほど、同じ作物を長く栽培するほど病害虫や雑草の被害をうけやすくなります。たとえば小麦の栽培では、雑草が増えると、小麦の生育が抑制されて収量が悪くなり、収穫前に雑草の種子が落ちると、種子が収穫物に混ざり品質が低下します。そのため、生産現場では、病害虫や雑草の防除が不可欠なのです。

農薬の歴史を遡る

農業が始まってからというもの、人類はずっと病害虫などの被害に悩まされてきました。古代ローマやエジプト、中国では天災としてあきらめるか、神に祈っていたようです。また、病害虫や雑草から農作物を守るために、栽培法を変えたり、農地の敷き藁などを敷いて雑草が伸びるのを抑制したりと、多くの労力を費やし、さまざまな努力をしてきました。

最も古い農薬が使われたのは紀元前1000年頃といわれています。硫黄を燃やし、その煙で害虫の防除が行われました。ワインやオリーブ油が殺虫剤として使われたこともあったようです。

日本では、江戸時代に鯨油を水田に注ぎ、ウンカを駆除する方法が考案されました。それまでは冷害や風水害、病虫害などによる不作により、飢饉に見舞われることも度々ありました。この方法は、日本で初めて行われた合理的な害虫防御の方法です。

第2次世界大戦後に、農薬が広く使われるようになりました。農薬の使用により少ない労力とコストで安定的に農作物を収穫できるようになり、戦後の食料難の解決に農薬が貢献したともいわれています。

食料の安定供給に欠かせない

日本の農家は耕地が狭く、労力も少ないという環境において、農産物の生産向上に努め、世界で最も集約化に成功しています。農薬がなければ、農作物の安定供給はむずかしく、集約化は成功できなかったかもしれません。そうなれば、今のように安くて高品質の農作物が食卓にあがることはなかったでしょう。

いまでは、農薬を使わずに栽培した野菜も出回っています。小規模の農地なら労力をかけ、栽培技術を工夫することで無農薬でも生産でき、農作物の値段が高くても無農薬野菜を好む消費者が購入します。しかし、小麦のような穀物を大規模に無農薬で栽培しようとすると、雑草や病害虫の管理はかなり大変で、雑草駆除にかかる人件費や燃料代も相当かかります。そのコストをかけても穀物の値段は高くならないので、穀物の無農薬栽培は日本でも海外でもあまり普及していません。もし、穀物の値段が高くなれば、毎日のように食べるパンやうどんなどの値段も高くなるので、消費者にとっては好ましいことではありません。

実際、日本の農作物の生産に占める無農薬や有機栽培の割合はごくわずかで、農薬を使わずに安定的に農作物を生産するのはまだ難しい状況です。だれもが高品質で安く食料を手に入れるためには、農薬の特性を十分に理解し、的確に使用して農業生産をすることが重要なのです。

筆者

佐藤成美(サイエンスライター)

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