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第2回 秋田県の新しい米「あきたこまちR」導入計画とカドミウム対策の詳細【放射線育種と「あきたこまちR」】
2024年2月7日、食の信頼向上をめざす会主催の第21回ZOOM情報交換会『放射線育種と「あきたこまちR」~「あきたこまちR」はどこがどう画期的なのか~』が開催された。長谷氏(量子科学技術研究開発機構(QST)量子技術基盤研究部門 高崎量子応用研究所 量子バイオ基盤研究部(当時))、小松氏(秋田県農林水産部 水田総合利用課土壌・環境対策チームリーダー(当時))がそれぞれ講演。第2回は小松氏の講演の内容をレポートする。
カドミウム汚染米の対策と課題
カドミウム摂取を少なくする安全な米の開発が進められた背景に、日本には過去の鉱山開発の結果として、カドミウム濃度の高い米が生産される可能性の高い地域が存在し、日本国民のカドミウム摂取量は他国に比べて高い傾向があることが挙げられる。
「国内には、過去の鉱山活動等によるカドミウム、銅、ヒ素の土壌汚染対策が必要な地域として、これまで7592ヘクタールが地域指定されたが、特にカドミウム関連が多く、97地域、6709ヘクタールに及んでいる(令和4年度)。カドミウムは健康に影響を及ぼす場合があるため、食品衛生法の基準値(0.4ppm(mg/㎏))が設けられている」と小松氏は説明する。
参考
コシヒカリ環1号を知っていますか?実は日本のコメが抱える二大問題を解決できるかもしれない品種です。ところが今、「放射線育種米」や「放射線米」などと名付けられ、SNSなどで「ヤバイ」と言われ始めました。科学的に正しい情報を提供します。
秋田県は過去に鉱山開発が多く行われ、文献によれば、県内には200以上の鉱山が存在していた(現在は稼働中の鉱山はなく、再汚染対策として、毎年調査や監視もされている)。このため、土壌のカドミウム濃度が高い農地では、食品衛生法の基準値を超える米が発生することがある(平成23年2月までは米のカドミウム含有の基準値が1.0ppm(mg/kg)未満、その後基準値が改訂され、現在は0.4ppm(mg/kg)以下)。
原因事業者がすでに撤退し、抜本的な解決が難しい状況だが、県では農用地土壌汚染防止対策(客土)やカドミウム汚染米買入処理事業等の生産・流通防止対策を講じている。令和3年産まで過去10年間の年平均は、買入量が428トン、買入処理費が約1億円と、負担は大きい。
また、県独自に、「作らない・出さない・売らない」の三本柱でカドミウム汚染米の対策を進め、具体的には以下の対策で生産流通防止対策がしっかり行われている。
- 作らない対策:湛水管理、客土、作付転換を通じてカドミウムの低減を図る。特に湛水管理は効果的で、出穂期前後の各3週間、水を絶えず張ることで米のカドミウム濃度を通常の水管理より60~90%低下させることができる。
- 出さない対策:各集荷団体(JAなど)による米の検査と県のクロスチェックにより、安全な米の供給を確保。基準値を超えた米は県が買取り、市場流通を防止している。
- 売らない対策:基準値を超えた米は一切流通させず、土木工事用の人工骨材(砂利)を成形する材料として処理している。
あきたこまちRの開発背景と特徴
農研機構 農業環境研究部門石川氏より提供
あきたこまちRは、従来のあきたこまちとコシヒカリ環1号(カドミウム低吸収品種)と交配した後、7回戻し交配して作られた。この品種は、カドミウムをほとんど吸収しない特性を持ち、収量や品質、食味などの特性は従来のあきたこまちとほぼ同等であり、国内外の基準値に確実に対応できる安全な米の生産が可能となる。
食味は「あきたこまち」と同等
あきたこまちRの開発は、2012年にあきたこまちとコシヒカリ環1号の交配から始まり、石垣島での戻し交配を年2回、合計で7回繰り返してあきたこまちの特性に近づけ、2020年に品種登録出願公表され、従来のあきたこまちと同等の特性を持つカドミウム低吸収品種が誕生した。
「あきたこまちR」の「R」は、「Renew(更新)」「Reborn(再生)」「Reduce Cd(カドミウム低減)」「Reiwa(令和)」の意味があり、この名前には、秋田県の米づくりの伝統を守りつつ、新しい時代に適応するための願いが込められているのだ。
そして、あきたこまちRの導入により、国内外の基準値に対応できるコメの生産流通が可能になり、輸出への対応も期待される。また、生産者は湛水管理の負担が軽減され、収穫期のコンバイン作業が容易になるというメリットもある。
さらに、カドミウムとヒ素の国際基準値が見直しされる可能性がある中、ヒ素とカドミウムはトレードオフの関係にあり、両方の基準を満たすためには、新しい対策が必要だということも言及された。
「もし、カドミウムの基準が引き下がったり、ヒ素の基準が設定されたりすると、水管理のみで両方を抑えることはかなり難しい。このため、カドミウム対策は低吸収品種を導入し、ヒ素対策は間断かん水で対応することで、カドミウムとヒ素の同時低減を図るということが一番有効と考えている」と小松氏は語る。
風評被害への対応
秋田県では、あきたこまちRに対する誤解や風評被害に対する対策も講じている。一時期、SNS等を通じて間違った情報が広がり、一部の消費者や農家等からの問い合わせや批判が相次いだことがあったことから、随時、正しい情報を提供するため、県は令和5年9月に「あきたこまちR生産・販売推進本部」を設置し、農業団体や市町村と連携しながら、リーフレットやイベント、座談会、ウェブサイト、広報誌などを通じて周知活動や理解促進活動を行っている。
あきたこまちRは令和7年秋からの販売を予定しており、秋田県としては国内外の消費者に安全な米を安定供給するための重要なステップと位置づけている。
小松氏は、あきたこまちRの導入が秋田県の米生産の将来を見据えた重要な取り組みであることを強調した。「令和7年秋からの販売に向け、皆様のご理解とご支援をお願い申し上げます」と述べ、講演を締めくくった。
【第3回へ続く】
編集AGRI FACT編集部 |