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第4回 農家のリアルな声Part1【種苗法改正で日本農業はよくなる】

食と農のウワサ

種苗法改正にあたり、農家壊滅論の原拠として、反対派の“インフルエンサー”たちはイチゴ、芋類、サトウキビ、果樹の名前をよく挙げる。これらの作目を栽培する“農家さん”は自家増殖が禁止になると、種苗費が増し、経営が圧迫して困るというものだ。また、彼らは「種苗法改正により、在来種や固定種が失われてしまう」と危機感を煽り、芸能人を含めて“食に興味を持つ消費者”を不安に陥れた。だが、実際に心配されている作目を栽培する農家は、種苗法改正についてどのように考えているのだろうか。

【作物 サツマイモ】(株)フィールドワークス(福井県)

「とみつ金時」を中心にサツマイモ3品種を13ヘクタール(13ha=13,000㎡)、カボチャ4品種を5ha、ダイコン2品種を1haで栽培。生産費における種苗費の割合は25%。

心配はしていない

「種苗法改正については、自家増殖が完全に禁止にならなければ影響はなく、注視はしていますが、心配はしていません。反対している人は、憶測の憶測で騒いでいるのではないでしょうか」(『農業経営者』編集部注、以下「注」:一般品種は従来通り、登録品種も許諾を受ければ自家増殖可能)。

ほぼすべてのサツマイモ農家は自家増殖しており、とくに「べにはるか」(育成者権:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)や、「シルクスイート」(同:カネコ種苗)など登録品種を栽培している人は戦々恐々しているというが、「万が一自家増殖が禁止され、すべて購入しなければならないとなると、『その苗をどこが作るのか?』という点が問題となるため、現実には起こらないと考えています」。

70%はウイルスフリーのメリクロン苗(注:茎頂分裂組織あるいはこれを含む茎頂部を分離して無菌的に培養して得られたもの)を毎年購入し、翌年用に育苗、採穂する。また、30%は種イモを苗床に伏せ込み、採苗して植え付ける。サツマイモの生産費における種苗費の割合は25%と他作物と比較して若干高めではあるが、ウイルスフリー苗代120円に加え、組合への手数料として50円が上乗せされているためである。

主要栽培品種である「とみつ金時(高系14号)」は一般品種だが、圃場の5%ほどで登録品種の「紫芋」も作付けしている。ただし、紫芋は種苗店から必要な分だけ苗を購入して定植するため、改正に影響は受けない。「登録品種に対して、許諾料や使用料を支払うことは当然だと考えています」。

海外流出の防止に関しては、サツマイモも原体を持ち出せば十分ありうるため、急がないといけないと感じている。

【作物 ばれいしょ(じゃがいも)】合同会社更別プリディクション・岡田農場・エアステージ更別農業研究所(北海道)

経営面積は57haで、ばれいしょ、豆類、甜菜、小麦を栽培。生産費に占める種苗費の割合はばれいしょで10%、その他は5%程度。

農家にデメリットはほとんどない

「種苗法の改正には、農家がデメリットになるような点はほとんどありません」。ばれいしょは主に「ホッカイコガネ」「さやか」「メークイン」「きたひめ」「コロール」の5品種、それ以外に小規模で3、4品種ほど栽培している。このなかではきたひめとコロールのみ育成者権が存続しているが、ばれいしょを含めすべての作目で種子更新率がほぼ100%のため、改正に影響は受けない

ばれいしょと小麦の育種にも従事しているが、品種開発を目的とした交配による種子生産は、改正後であっても許可されている。それより海外に品種が流出するリスクを懸念する。「農業関係の展示会の韓国ブースで、長崎県の育成品種である『デジマ』が“我々の品種”として紹介されていました。苦笑いです」。ばれいしょの場合も、チルドや冷凍など加工品であれば海外からの輸入ができる。つまり、日本で育種したものが海外に流出し、日本へ戻ってくるリスクが十分にあるという。これは日本の農家にも関わる問題ではないだろうか。

【作物 イチゴ】加藤いちご園(栃木県)

経営面積は25aで、栃木県の育成品種である「とちおとめ」を栽培。生産費における種苗費の割合は約1.5%。

正規ルートの苗購入が安定生産のもと

改正による影響はありません」。栃木県の場合は、県が種苗を管理し、一般のイチゴ農家がウイルスフリー苗基地(無病苗増殖施設)で無病苗を生産、もしくはJAが管理し、部会員が生産するなど様々な形態を採用している。イチゴ農家は、そこで生産された無病苗の親株や定植苗を購入している。

無病苗の使用が、イチゴの品質と生産の安定につながるため、イチゴを生産する上で、正規以外のルートで苗を入手することに大きなメリットはない。「新品種を1株から何年もかけて増殖することは、現実的にはあり得ないし、農家の中でやろうとする人はいないですよ」。

同園は、栃木県は県内のイチゴ農家に対して、よほどのことがない限り登録品種の増殖許諾をするだろうと考えている。「許諾料についても、当地域ではウイルスフリー苗協議会が支払っていて、農家個人の負担はありません。他地域でもこれに近い形でしょうと基地の農家から聞いています」。

現在、栃木県は「とちおとめ」が主要品種だが、県育成品種の登録品種「スカイベリー」も1割程度栽培されており、さらに「栃木i37号」など新品種も開発されたばかりだ。それらの話題の中でも、海外への流出に関する話題はまったく出ず、周囲の農家は、品種の海外流出や種苗法改正にもあまり関心がない。

【作物 野菜類(在来種/固定種)】在来農場((株)ALL FARM)(千葉県)

在来種を含む野菜類など50品目、130品種を経営面積13haで栽培。また、都内で飲食店「WE ARE THE FARM」を6店舗経営。生産費における種苗費の割合は3%。

在来種の保護と種苗法の改正に関連性はない

在来種の占める割合は75%で、種子更新率は74%と自家採種も行なっている。また、在来種を固定種という縛りで栽培しているため、登録品種も25%ほど栽培している。「議論されている種苗法の改正によって影響を受ける内容はありません」。

「US春播き五寸」(横浜植木)や「スナック753」(サカタのタネ)等の登録品種は、すべて毎年種子を更新(購入)している。また、「白もちとうもろこし」「Red Russian Kale」(ケール)、「大浦ごぼう」等自家採種をしている品種に関しては次のように話す。「自家採種自体が目的ではなく、購入が困難など栽培上不可欠な品種に絞って行なっています」。さらに、種苗費が生産費に占める割合も高くないため、コスト削減の目的で採種している品目は数える程度しかない。「自家採種にもコストがかかるので、現状と差異ない価格で購入できるのであれば、在来種であっても経営的観点から購入(毎年更新)することを選択することが多いです」。

種苗法改正に関する議論において在来種の保護を論点とする主張も見られるが、同農場は在来種の保護と種苗法の改正に関連性はとくにないと考える。「法律の制定の目的に在来種を排除するような趣旨は読み取れませんし、そもそもそれをするメリットがどのプレーヤーにもないと思っています」。

とくに野菜種子に関しては、品種数が多い上に、地域による嗜好性も異なる。また、世界的にも自家採種は伝統的に行なわれている。そのため、「一部で言われているような大手が牛耳るような事は経営的に不合理だと思います」。

*この記事は、『農業経営者』(2020年8月号)の【特集】種苗法改正で日本農業はよくなる! 前編【種苗法改正】徹底取材 育種家と農家のリアルな声一挙掲載を、AGRI FACT編集部が再編集した。

【種苗法改正で日本農業はよくなる】記事一覧

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