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「学校給食を有機に!」という議員さんに質問してみた:29杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

長崎の某市議会に「学校給食を有機に!」と熱心に訴える議員さんがいるという話を聞きました。議会の動画を見てみると、「食の安全が脅かされている」「農薬のせいで発達障害の子供が増えている」「農薬の影響は2世代、3世代先に現れる」と主張しています。え? そうなの? 本当ならとてもこわいですね。市の担当者さんは「給食に使う食材は安全が確保されている」「有機野菜も供給や価格の面で問題なければ採用することができる」と答えていました。しかし、市議さんは全く納得いかない様子で、「やる気がない」「子供たちの安全を考えていない」と強い口調で詰め寄っていました。どの学校でも給食はたくさんの人のおかげで安全が守られていると思うのですが、違うのでしょうか? 気になったので、その市議さんに直接お話を聞きに行ってきました。

長崎県出身の元農水大臣の影響

「議会の動画を拝見しました。学校給食では安全でない食材や、給食にふさわしくない食材が使用されているのですか?」

市議「そういう意味で言ったわけではない」

「では、議会で給食の安全性について訴えた理由は何ですか?」

市議「農薬の基準が見直され、大幅に緩和されたのを問題視している」

「それは残留農薬のことですか? いつの見直しですか?」

市議「わからないが、講演会でそんな話を聞いた」

市議さんは長崎県出身の元農水大臣の名前を挙げました。

「基準の見直しはたいてい緩和だけでなく、厳しくなるものも多いのですが、その方の話では触れられませんでしたか?」

市議「え? 厳しくなったものもある? 『日本の農薬の基準は緩和された』としか聞いていない」

「はい。基準の見直しは膨大な項目が発表されますが、大抵は緩和も厳格化もどちらもあります。その中で緩和された一部の品目のみについて話すのはなぜでしょう?」

市議「うーん。しかし、なぜ基準が緩和されるのか、国の情報は不透明なので信用できない」

「基準が見直される理由も仕組みも、隠されているどころか誰でも見られるようになっているように思いますが、どのあたりが不透明ですか?」

市議「調べたわけではない。私ではなく、元農水大臣が言っていた」

市議さんの手元には給食有機運動を促すパンフレットがありました。

農薬と発達障害

「議会では『(農薬のせいで)発達障害の子供が増えている』と主張されていましたが、そのことについて質問します。発達障害の子供が増えるのはよくないことですか?」

市議「そんなことは思っていない。しかし、増えている原因が気になる。なぜだと思う?」

「私は専門家ではないのでよくわかりませんが、診断自体が増えているからではないかと思います。発達の仕方は人それぞれなので、原因を探すよりも多種多様な人たちみんなが生きやすい社会を作ることに関心があります」

「議会では『農薬の影響は2世代、3世代先、子や孫の世代に現れるかもしれない』と主張されていましたが、そのことについて質問します。一般消費者と比べて農家は農薬を扱う機会が多いですが、農家のことも心配していますか?」

市議「もちろんそうだ。農家が大量の農薬を使っているのを私はこの目で見た」

「では、農家に生まれる子や孫のことも心配していますか?」

市議(明確な回答なし)

「長崎では、原爆の被害に遭った人が子や孫への影響を心配されて結婚できなかったこともあるそうですが」

市議「農薬の影響については、私ではなく、そう言っている人がいる」

質問が進んでいくと「誰かがそう言っている」という回答が多くなり、議会での強い口調とは対照的な印象を受けました。

民間企業は儲け重視で、安全性を犠牲

「食の安全を考えたとき、どのような問題があると思いますか?」

市議「それは企業、特に大企業にある。民間企業は利益や儲け重視なので、安全性の面で疑問がある」

「安全と利益は両立できないものですか? 利益のために安全を第一に考えるものでは?」

市議「完璧な安全を追求するにはコストがかかる」

「もしあなたが食品関係の企業で働く社員だとしたら、儲けのために安全性を犠牲にすると思いますか?」

市議(しばらく考えたのちに)「それでも、民間企業はやっぱり儲け重視なんだと思う」

減農薬栽培品に認証マーク

「食の安全については、学校給食以外にもあると思います。給食以外では何かアイデアや政策などはありますか?」

市議「農薬を少なく使用して栽培した農産物に認証マークをつけるのが良いと思う。安心・安全の面で消費者の利益になるし、差別化になってより高く売れるので農家にもプラスになる。他の県では、民間企業がそうした活動をしているので、同じような取り組みが作れればと思う」

「民間は儲け主義なので安全性で信頼できないと仰っていましたが、その民間企業は大丈夫ですか?」

市議「そうした指摘もあるかもしれない」

「もうひとつ、安全マークは安全の面で差別化になるものですか?」

市議(明確な回答なし)

「安全性で優劣を付けられないものに無理に優劣をつけるのは、差別化ではなく、差別になりませんか?」

市議「もちろん、ファクトに基づかなければならないと思っている」

「では、議会で話されていた『有機野菜は安全、有機でない野菜は安全ではない』というのはどのようなファクトですか?」

市議「農水省が有機野菜を推進している」

「たしかに、農水省は有機栽培の技術向上を推進しています。ですが、有機の技術は慣行でも活かされていますし、安全性はまったく別の話です。現に農水省は『有機栽培は安全を担保するものではない』とはっきり表明しています。最近では、有機農業関係者からも『有機だから安全、と言わないでほしい』と声が上がっています。そうした話を聞いたことはありますか?」

市議「知らなかった」

「すでに安全が保たれているものに無理に優劣を作ったり、子供たちに新たに不安を植え付けたりするやり方は教育にふさわしいと言えるでしょうか? しかも税金を使って」

市議「そのあたりはまだ知らないことがある。これから勉強していきたい」

「発達障害の当事者も同様ではないでしょうか? 『食べ物が原因かも?』という言葉は、発達障害当事者や親たちの心にどう届くでしょうか? 発達障害の当事者や親たちが何を望んでいるのか聞いたことはありますか? もしないなら、私がその機会を作りましょうか?」

市議「ぜひお願いしたい」

私は、自分が参加している発達障害児・者を支えるグループに連絡を取り、次の定例会に市議さんと一緒に行けるよう段取りを組みました。

ファクトに基づかないといけないと言いながら……

「最後の質問です。議会で述べていた『学校給食を有機に』『発達障害の原因は食べ物』という今までの主張をこれからも続けますか?」

市議「ファクトに基づくものでなければならない。これからはあなたの話も参考にして、発達障害当事者の声にも耳を傾けたい」

「今日はありがとうございました」


私は、「お互いに少し理解し合えたかな? 対決ではなく、解決ができたぞ」と得意な気持ちになっていました。
ですが、現実はそんなに甘くはなかったのです。
続きはまたの機会に述べます。

余談ですが、今回は「有機給食運動は反ワクチン活動や食の不安を煽るマルチ商法のようなビジネスが背後にいるケースが非常に多いのですが、そのあたりと関係は?」と質問してみました。

議員さんから明確な回答はありませんでしたが、あとでSNSを見たところ、全国的に有名な自然派小児科医を招いて「コロナワクチンでシェディング(ワクチン接種者に近づいたら危険とかなんかそういうやつ)」「子供たちにワクチンを打たせない」みたいな講演会を開いていたことがわかりました。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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