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Part2 商業生産の実現に向けて-日本で遺伝子組換え作物を栽培するにはどうすればよいか?-その2【遺伝子組換え作物の生産とその未来 】
どのGM作物が日本で栽培できるか?
GM作物を日本で食品や飼料として利用するためには、安全性の確認をし、認可を得なければいけない。食品は、厚生労働省がリスク管理を、食品安全委員会がリスク評価を行っている。飼料は、農林水産省がリスク評価とリスク管理を行っている。日本で栽培するためには、生物多様性影響評価を行わなければいけないことになっており、農林水産省と環境省がリスク評価とリスク管理を行っている。したがって、日本で栽培するためには、厚生労働省の食品の認可を持ち、農林水産省の飼料の認可を持ち、農林水産省及び環境省の生物多様性影響の認可の3つの認可を持っていることが必要である。現在、これら3つの認可を持っているのは、除草剤耐性ダイズ、ステアリドン酸産生ダイズ、除草剤耐性トウモロコシ、害虫抵抗性トウモロコシ、乾燥耐性トウモロコシ、高リシントウモロコシ、除草剤耐性ナタネ、除草剤耐性テンサイ、除草剤耐性アルファルファ、低リグニンアルファルファ、ウイルス病抵抗性パパイアなどである。日本でGM作物を栽培しようとする場合、これらの中から選んでいくことになる。
それでは、これらの作物ならすぐに栽培可能かというと、そう簡単にはいかない。なぜかというと、除草剤耐性作物には除草剤を散布することが必要であり、除草剤耐性作物に除草剤を散布するには、そうした使用方法の農薬登録が必要になるからである。現在、GM作物に散布できる農薬登録を持っている除草剤は、日本には残念ながらまだ存在しない。これは、農薬会社が日本ではまだGM作物が栽培されると考えていないからである。したがって、GM作物の栽培がうまくいき、多くの生産者が栽培をしたいという状況ができれば、農薬会社も農薬登録を取ると考えられる。この点でもGM作物の栽培を始めることは重要である。
そうなると、今すぐに栽培可能なものは害虫抵抗性作物になる。それ以外にも、ステアリドン酸産生ダイズ、乾燥耐性トウモロコシ、ウイルス病抵抗性パパイアがある。そうしたなかで、従来品種が日本で広く栽培されていて、生産者や消費者が栽培を見てメリットを感じられるとなると、害虫抵抗性トウモロコシが最も実現可能性が高いと考えられる。その理由は、殺虫剤を散布しても害虫に食われてしまったトウモロコシと、殺虫剤を散布しなくても害虫に食われていないトウモロコシを見れば、そのメリットは、生産者はもとより、消費者にとっても一目瞭然だからである。日本で開発されたGM作物で、食品・飼料・生物多様性影響の3つの認可を取っているものはない。日本がこの分野で遅れていることがここからも見えてくる。新しい技術を取り入れて生産性の向上を図ろうとしない行政や政治の将来を考えない姿勢は非常に残念である。
これまでに日本で栽培されたGM作物
これまでにも、GM作物を栽培しようという試みはなされてきた。まず挙げられるのは、1998年から2年間、除草剤耐性ダイズを北海道で栽培した例がある。生産者がこのことを2004年に公にしたところ、大騒ぎになり、北海道でGM作物の栽培に関する条例が2006年1月に制定された。この条例では、GM作物を栽培したい生産者は、地域説明会を行ったうえで、申請書を提出し、提出の際に32万5500円の手数料を支払い、審査を受けることになっている。地域説明会で栽培の合意を得ることは現状では難しいと考えられる。さらに、仮に合意が得られて審査が行われても、栽培が認可されない場合は手数料は戻ってこないという決まりになっている。したがって、この条例は事実上、GM作物の栽培をできないようにしていると言っても過言ではない。
GM除草剤耐性ダイズへの除草剤散布前
GM除草剤耐性ダイズへの除草剤散布後
写真提供/バイエル クロップサイエンス(株)
また、2001年から、GM作物のメリットを知りたいという生産者が集まって組織されたバイオ作物懇話会が、除草剤耐性ダイズの試験栽培を日本全国の20カ所以上の圃場で行っている。2001年と2002年は、開花までの除草効果を確認し、交雑の心配に応えるために開花前に除草剤耐性ダイズ植物体をすき込んでいた。除草効果は非常に高く、ほとんど雑草のないダイズ畑を見て、試験地の周辺の生産者たちは大変びっくりしていた。「これこそダイズ栽培を大きく変える夢の技術だ」「すぐに使いたい」という声であふれた。2003年は、試験栽培に参加していた生産者から収穫量を見て、収穫量のメリットを確認したいという強い要望が出て、交雑の心配がないよう十分な隔離距離を取って栽培試験が行われた。しかし、交雑防止手段が取られているにも関わらず、反対派が開花させたら従来のダイズと交雑すると主張し、1カ所の試験圃場でトラクターを使って試験栽培中の除草剤耐性ダイズをすき込んでしまう事件が起きた。この事件が新聞などで全国に報道され、そのすき込まれた圃場以外の試験圃場でも、県や市町村などから中止するよう要請を受け、中止となってしまった経緯がある。この後、GM作物の栽培は生産者レベルでは一切行われていない。GM作物の恩恵を受ける生産者はそのメリットを体験しながら理解する場を失ってしまい、大変残念な結果であった。
これら以外にも、農研機構やGM作物に取り組んでいる一部の企業が小規模な試験栽培を行い、市民などの見学会を実施したりしていたが、これらに対してはあまり大きな反対運動は起きていない。
以上の事例を考え、GM作物を栽培する場合は計画を立てていかなければいけない。
※『農業経営者』2022年11月号特集「日本でいよいよ始まるか! 遺伝子組換え作物の生産とその未来Part2 商業生産の実現に向けて」を転載
筆者山根精一郎(株式会社アグリシーズ代表取締役社長) |