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経営論で語るIPM − リスク管理は企業文化形成の手段

食と農のウワサ

いまだ有機や無農薬と同じ付加価値と見なされがちなIPMだが、実際、経営としての農業にIPMを取り入れる意味はどこにあるのか。より広い意味で農業における品質管理の本質とは何なのか。
日本にわずかに二つだけというユーレップGAP(※) 取得農場を経営している和郷園代表の木内氏は「GAPは一つの手段でしかない。もっと高い目標を持たなくては」と述べる。
早くから複合的な品質管理に取り組み、着実な成果を上げている木内氏に、農薬のエキスパート西田氏が聞いた。

(まとめ:田中真知)
※ユーレップGAP:欧州小売業組合適正農業規範。食品の質を保証するとともに、人間、環境に負担のない食品産業のあり方を追及する認証制度。

web版『農業経営者』2005年7月1日 特集「経営論で語るIPM」から転載(一部再編集)
※記事にある情報は、掲載された2005年時点のものになります

食料品は嗜好品化すべきではない

西田 和郷園は食品工場としての衛生管理や農場管理、農薬の適正化など個別的な管理を徹底しているのはもちろん、高度な物質のリサイクル技術や経営手法なども含めたもっと大きな意味で品質管理という問題をとらえている気がします。

木内 そうですね。もともと農業は家族経営が主体だったため、分野ごとのリスク管理がしにくかったんです。われわれが目指している事業的な農業では、農薬の管理、栽培管理、雇用管理、インフラの管理といった分野ごとにリスクに対応できるような仕組み作りが不可欠です。さらに、それらをまとめあげる経営理念と人材教育が必要だと思います。

西田 技術的な面と、その技術を管理するシステムがかみあっているという印象を受けます。技術面で見た場合、それは和郷園でしかできない特殊な技術なのでしょうか。

木内 それは違います。私は特殊な技能をもった人間でなければできない技術では意味がないと思います。むしろその逆で、われわれが目指したのは標準的な能力をもった人間が、標準的な努力によって、その技術に到達できるようなシステムづくりです。

最近、ブランド農産物を売りにして差別化を図ろうとする動きがありますが、私は食品業界では基本は標準的なものでなくてはならないと思っています。ブランドよりも、標準的なコストや価値、安全性を実現し、その質を全体的に上げていけるようなシステム作りを提案したいのです。食料品は嗜好品化すべきではないと思います。

農家が自立し、経営者が育つためのシステム

西田 逆に市場では、産地によってブランド化したりして、食料品の嗜好品化の動きがありますね。それによって少しでも高く売ろうとする。

木内 そうなんです。でも「うちの農産物は誰々のよりもいい」といった方向を目指していると、結果的に自立できなくなります。農業が産業として力をつけられなかったのは、村社会の構造の中で農家同士が競争しあってしまったからです。われわれは競争を協調や協業に変えたい。個の力ではマーケットは満たせないが、農家同士が複合的な共同体となれば、統一的な価値観や品質を標準よりも高いスキルで実現できます。われわれは、そのための手段を作ってきたわけです。

西田 それが結果的に農業全体の発展につながるということですか。

木内 そうです。私はもっと農業は豊かになれると思います。それは生産者に手取りが増えることですが、消費者の価格リスクを増やすことではなく、生産者も消費者も共に豊かになれるはずなんです。その一つの方法として、われわれは中間業者による媒介をやめる、いわゆる「中抜き」をやってきた。しかし、その最終形態は、和郷園が中抜きされることだと思う。そうしない限り、消費者のニーズを知って生産者がもの作りをすることはできません。

西田 それは和郷園そのものがなくなるということですか。

木内 ええ、生産者が自分で契約したものを守れるようになれば、われわれが提供しているような販売管理システムがなくなるわけです。

西田 経営者が育っていくわけですね。

木内 われわれの契約農家の中にも、年間一億円も売上げる農場が出てきています。人材教育によって栽培管理できる人が育てば、社長にはマーケティングできる時間的ゆとりができる。そうすると農家は経営者として育っていくわけです。

生産者が押しつける「良質」ではダメ

西田 和郷園では、特別栽培や無農薬をやっていても、それを表に出して品質のよさをアピールするような方法はとっていませんね。

木内 私は有機や無農薬、減農薬などをアピールするのは生産者の目線だと思っています。でも消費者にとってはそれはあくまで品質のバラエティにすぎません。選ぶのは消費者なのですから。生産者の役割として大事なのは、消費者ニーズのあるバラエティの基準に対して的確に反応していくことだと思います。例えばトマトでいえば一般的には大きくて赤みがあって、糖度が高いのが良いということになっています。でも、ハンバーガー屋さんにとって品質のよいトマトは、酸味があって少し青いものだったりする。「これがいい品質ですよ」というのは、われわれ生産者サイドが決めるものではありません。

西田 しかし、現状では往々にして生産者サイドが押しつける「良質」に消費者が合わせていますね。消費者サイドのニーズのバラエティを知って、ものを作っている生産者はあまり多くない気がします。

情報公開の重要性

西田 品質管理の目的は、質のよい商品作りに加え、コストダウンも重要だと思います。たとえば「こういう施肥でコストが削減できる」といった取り組みは、和郷園でも取り入れているのでしょうか。

木内 われわれが土壌分析を行っている一番大きな理由はそこにあります。土の特性を明らかにすることで、無駄な肥料を使わず、もっとも効率的な施肥を行うことができます。もちろん、それによって理論上品質もよくなるし、圃場管理も楽になります。

西田 防除においても同じ発想で取り組んでいるのですか。

木内 防除は基本的に発生防除です。どうしても毎年出るというものについては、予防防除も行いますが、通常は出てからやるという発生防除です。その場合、その害虫が嫌がる網を入れる、あるいはフェロモントラップを入れるといった、つまり農薬を使わなくても良い方法を、様々情報を集めて取り入れます。ただし、あまりにコストが高いとか、虫がちっとも減らないというのであれば、たとえそのほうが安全だとしても経営的に考えて農薬を選ぶ場合もあります。

西田 その場合、出荷先にその情報は伝えるのですか。

木内 ええ、情報は全部公開しています。われわれは各品目ごとに、どの農薬を使うかという目標を設定しています。それをクリアしているときはいいのですが、虫が大量に発生したり、病気が流行ったりすると、たとえば生協から「この農薬は使わないで」と指定されていた農薬を使わざるをえなくなることがあります。

そのとき生協の言う通りにしていたら収量はガタ落ちです。しかし生協が損害を保証してくれるわけではありません。その場合、経営的に考えて、われわれは契約から外れる農薬を使います。でも、そのことは必ず相手に申告し、その上で出荷の是非を尋ねます。まず九割方、理解してもらえますね。

もし、マーケット側がより高い知識や技術レベルのある生産者を知っていて比較ができれば、そちらから買えばいい。いずれにせよ、情報公開することが大切なんです。

西田 日本の場合、そこまでマーケット側のレベルが成熟していませんね。欧米ではマーケットがイニシアティブをとって生産者のコンサルをしたりしていますが、ジャパンGAPでは生産者側がリードしている面があります。

木内 私は農業分野におけるジャパンGAPには二つの大切なねらいがあると見ています。一つは、われわれの農業を生産事業としてとらえ社員のスキルを上げていくこと、二つ目はそこで働く人たちのリスクを減らすことです。われわれの生産物を換金作物としてマーケットに乗せていくのであれば、そこにPL法的、あるいはJAS的な基準を設けることが望ましいと思います。

なぜユーレップGAPを取ったのか

西田 和郷園のサンチュ農場は、日本ではまだ2件しか事例のないユーレップGAPを取得していますね。一般的にはヨーロッパに輸出する手段として取得するのだと思いますが、ここのサンチュはそうではない。それなのに、なぜユーレップGAPを取ったのですか。

木内 たしかにヨーロッパに輸出する目的ではありませんが、私は日本の農家もきちんとやればヨーロッパの基準を守れるんだということを身をもって示したかったんです。
それと、GAPはリスク回避の基準だという点です。うちの農場は社員で経営している農場で、そのオーナーが私です。そこにはオーナーである私、農場長、働くパートさんのそれぞれに「責任」と「権利」がある。それらがGAPを通して明確になったといえると思います。

西田 それは品質の維持にも役立っているのですか。

木内 ええ、たとえば土壌消毒の時、作業にあたるパートさんたちは防毒マスクとメガネをつけています。これは他の農場ではやっていませんが、うちではそのリスクをきちんと書面にして、パートの人たちにも伝えています。もしマスクをしないで事故が起きたら、それは彼らの責任になります。

西田 それは経営者としての義務の放棄ではなく、働く人たちの責任の所在をはっきりさせることになりますね。意識の向上が結果的にリスク回避につながる。そういう点を取引先はどう評価をしていますか。実際のところ、ユーレップGAPという言葉は少しずつ知られるようになってきましたが、有機が流行ったときと同じように金はかかるし、面倒だというイメージで捉えられている気がするのですが……

木内 私はユーレップGAPは一つの手段にすぎないと考えています。自分たちの商品に「ユーレップGAP取得商品」とは記していません。もっと目標を高く持っています。

私は、日本の農産物を供給する仕組みをおかしいと思うんです。われわれは換金作物を作っています。つまり野菜を供給してお金をもらっている。でも、そのための基準がないんです。

これが自分で直接消費者に売るのであればいいかもしれませんが、間に小売業などの第三者を挟んで供給する以上、統一的な価値観がなくてはいけない。それをジャパンGAPとして作っていこうというのです。

西田 ジャパンGAPやユーレップGAPを取ったから高く買いなさいということではないと。

木内 そうです。そうではなくGAPを取ったものをマーケットの標準価格にしようという発想です。むしろGAPを取っていないものは大量流通のマーケットから排除されていく。そんな時代が来るべきだというのが私の考えです。そういう社会風土を作っていきたいのです。

品質管理と文化の育成

西田 話は変わりますが、和郷園に来て整理整頓や掃除が行き届いていることに驚きました。これは意識して行っているのですか。

木内 整理、整頓、挨拶は、ここでの第一の基本テーマです。この建物を造るとき、一番やりたかったのが最新式トイレを設置することと、花のある環境にすることでした。これは和郷園にとっての価値観であり文化なんです。それがひいては経営の発展にも結びつく。

われわれの野菜が売れるのは、栽培管理や味のせいだけではありません。われわれは食品を扱っているのだから、それにふさわしいように場所を清潔に保つための努力を徹底しています。それを見てバイヤーの方は心動かされ、「ここから買おう」と言ってくれるんだと思います。

西田 栽培方法がすばらしい人たちは全国にたくさんいます。でも、集荷場や加工場を見ると汚なくて、衛生管理どころではないというところも少なくありません。

木内 われわれはサービス業です。その役割は、生産者の作ったものを、よりよい値段で、より高い価値を認めてくれた人たちに流すよう最大限の努力を払うことにあります。

挨拶や整理整頓もサービス業の基本です。それを徹底させるために、私はここにいる日はすべての部署を回り「おはよう」と挨拶します。これを繰り返していくと、ここではそれが当たり前なんだという常識がしみこんでいく。実はそうした文化を育てるのが管理の本質なんです。

西田 企業のお偉いさんは「企業は人だ! 人を育てるのが大切だ」と言うのですが、実情はマニュアル的で、数字を合わせることばかり気にしている場合がほとんどです。

木内 最近はコストが安いということで多くの業種で外国人労働者の採用が増えています。でも長い目で見たら、これはかえってコストがかかるのではないでしょうか。人を育てるには教育費がかかります。しかし何年もかけて外国人労働者を育てても、帰ってしまわれてはその分が無駄になる。うちのパートさんはほとんど辞めません。長く続くということは教育費がかからないばかりか、どんどんスキルアップしていきます。結果的にコストの削減にもなります。

私は人と人との関係はどんな産業であっても、パートナーシップとリーダーシップの関係であるべきだと思います。よく「人を使う」という言い方をしますが、人が人を使うという発想そのものがおかしいと思う。そこからは本当の意味でのパートナーシップは決して生まれないし、将来的なビジネス・モデルにもならないでしょう。

西田 品質管理というと世間的にはマニュアル制にしたり、基準値を満たすといったイメージでとらえられがちです。GAPにしても、同じような技術的マニュアルと見なされがちですが、じつはそうではない。和郷園さんの場合、ユーレップGAPの取得によって、人の意識が固まって、より高度な企業文化の形成へとつながる。それが結果的にお客さんの信頼を得て、経営の向上へとつながっていくという仕組みができているのが、よくわかりました。今日はありがとうございました。

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