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第2回 鈴木宣弘氏の農業・食品言説を検証する!/AGRI FACT編集部(前編)【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】

特集

鈴木宣弘東大教授の農業と食品に関する言説は、原典・元資料の誤読や意図的な省略・改変、恣意的なデータ操作に依拠して農業不安を煽るものが多い。農と食を支える多様なプロフェッショナルの判断と行動を「今だけ、金だけ、自分だけ」などと批判する鈴木氏の言説を検証する。(前編)

コロナ禍による物流停止はあったか

鈴木氏は月刊『文藝春秋』2023年4月号の緊急特集「ウクライナ戦争でさらに深刻化 日本の食が危ない!」や『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』などの著書でコロナ禍による物流停止に言及している。文藝春秋には2020年3月のパンデミック以降、「農機具や肥料、種、鶏のヒナなど農畜産業には欠かせない生産資材の輸出入にも影響が出た」という。

種について国際種子連盟の統計「Seed statistics-International Seed Federation」を見ると、日本の種の輸入は、【2019年:7万1090トン、320百万米ドル】【2020年:6万7006トン、301百万米ドル】と少し減っている程度で、「影響が出た」というレベルの話ではない。

また、OECD(経済協力開発機構)の「The impact of the COVID -19 pandemic on global and Asian seed supply chains(COVID-19のパンデミックが世界とアジアの種子サプライチェーンに与えた影響)」を見ると、次のような趣旨の説明が記されている(日本語訳して引用)。

日本の種苗会社調査

2020年9月と10月、日本の農林水産省は日本の種苗会社を対象に、COVID-19の影響に関する2つの調査を実施した。日本種子産業協会(JASTA)の会員企業14社が調査に回答した。

日本は種子の大規模な輸入国であり、COVID-19に対処するために設けられた制限により、日本での種子へのアクセスが制限されるのではないかという懸念が高まっていた。しかし、日本の種苗会社は、2020年9月の調査で、種子を輸入する際に大きな障害は経験していないと回答している。また各社は、予期せぬ緊急事態に対処するための十分な在庫を持っているため、2021年の春の植え付けに向けて種子供給に問題はない見込みであると回答している。

鶏のヒナに関しても、「貿易統計:概況品別推移表00101 鶏」によるとコロナ禍での輸入数量に大きな減少は見られない。

鈴木氏は世界の食を襲うコロナ禍以外のクワトロ・ショック(4つの危機)の一つに、中国の爆買いを挙げる。『世界で最初に飢えるのは日本』では、「中国は大豆を約1億トン輸入しているが、日本の大豆の輸入量は、大豆消費の約94パーセントを輸入しているものの、たかだか300万トンに過ぎない。中国に比べると、「端数」のような数だ。もし中国がもっと大豆を買うと言えば、輸出国は日本のような小規模の輸入国には、大豆を売ってくれなくなるかもしれない。今や中国のほうが、高い価格で大量に買ってくれる。」と述べている。

しかし、現実には1990年以降、一貫して日本の輸入単価の方が高い。

種子法に関する基本的な間違い

文藝春秋で鈴木氏は「2017年に政府は種子法の廃止を決めてしまった。これによって、かつてのように都道府県が優良品種を開発して安く普及することができなくなり、さらに農業競争力強化支援法により、その種子開発の知見を、海外を含む民間企業に譲渡することが課せられた。これで一層、コメや大豆、小麦の自給率低下や海外依存に拍車をかけることは間違いない。」と説く。

この言説は「種子法(主要農産物種子法)」に反対する人たちの基本的なロジックでもある。しかし、法律の趣旨を理解している(条文はわずか8条)人間からは相手にされていない。なぜなら、まず種子法と種子の開発(品種開発)は無関係だからである。

農林水産省の資料「主要農作物種子法(平成30=2018年4月1日廃止)の概要」を見ると、「主要農作物種子法は品種開発後の生産・普及段階の制度として、食糧増産に対応するため、戦後間もない昭和27年に制定され」「品種開発(種子法と無関係)」と明記されている。

品種開発を担うのは、種子法の廃止前も廃止後も、国の研究機関、地方公共団体、民間企業等であることに変わりはない。さらに、鈴木氏による種子法の別の説明には、法律の条文にない文言が勝手に追加されている。

「命の要である主要な食料の、その源である良質の種を安く提供するには、民間に任せるのでなく、国が責任を持つ必要があるとの判断から種子法があった。」

しかし、これも間違いである。種子法の第一条には、

(目的)第一条 「この法律は、主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うことを目的とする。」とあり、“優良な種子”の生産及び普及の促進が目的であって、“安い”とはどこにも書いていない。あくまで優良な種子を適切な値段で普及することが目的である。

「農業競争力強化支援法により、その種子開発の知見を、海外を含む民間企業に譲渡することが課せられた。」というのも間違いだ。「農業競争力強化支援法」第八条とその四項を引用する。

(農業資材事業に係る事業環境の整備)
第八条 国は、良質かつ低廉な農業資材の供給を実現する上で必要な事業環境の整備のため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。
四 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。

この「生産に関する知見」の範囲とその提供先がポイントになるが、農水大臣の国会答弁などによると、

  • 提供する知見とは、原原種・原種の生産技術、測定技術を指し、種子を売り渡し(育成者権の譲渡)や知的所有権の譲渡ではない
  • 知見の提供は有償
  • 知見の提供の際には、目的外以外利用・第三者譲渡(海外流出を含む)の条項を含む契約を結ばせるよう通達をだしている、ため、鈴木氏の指摘は当たらない。

実態とかけ離れた自給率算定

鈴木氏は鶏卵の高い自給率に関して「そもそもニワトリのヒナも100%近く輸入に頼っているので、もし輸出を止められてしまったら、ヒナから育てて採卵したり鶏肉にしたりできなくなる。それは養鶏産業自体が成り立たなくなることを意味するのだ。」と文藝春秋で不安を煽る。

大量の鶏のヒナが100%近く海外依存という説明がまず正しくない。ヒナの状態では輸送中のエサや衛生の確保などが大変で現実的ではないからだ。実際には国内の種鶏場が海外の育種会社から種鶏(ヒナ)のつがいを輸入している。国内の種鶏場が鶏卵・鶏肉生産者に種鶏のヒナを供給し、鶏卵・鶏肉生産者が採卵鶏・肉用鶏を育成・肥育するという流れだ。さらに、「採卵鶏96%(肉用鶏は98%)」の種鶏が海外依存とはいえ、国産地鶏等のヒナ由来の採卵鶏のシェアが4%あり、「鶏のヒナは100%近く海外依存」は不正確だ。「鶏のヒナの親の大部分は海外依存」、採卵用の「鶏のヒナの親の96%以上は海外依存」が正しい表現である。

日本の養鶏産業には国内でつがいの種鶏(ヒナ)を育て、ヒナを産み・育てる体制が存在するので、海外からの種鶏の供給が急減する最悪のケースでも、すでに供給実績のある地鶏の種鶏に切り替えていくという対応策がある。「輸出を止められたら、養鶏産業自体が成り立たなくなる」というのは、実態を無視した極論だ。

鈴木氏は「種子法の廃止によって、一層、コメや大豆、小麦の自給率低下や海外依存に拍車をかけることは間違いない。」と述べ、「今は国産率97%のコメも、2017年以降の一連の種子法廃止と種苗法改正で、いずれも野菜と同様10%前後の自給率に落ち込む可能性も否定できないのだ。」(文藝春秋)と警告する。

種子法廃止前後の実状を農林水産省の「稲、麦類及び大豆の種子について」の「稲、麦、大豆の種子をめぐる状況(令和5年4月)」から見てみよう。

種子法廃止は2018(平成30)年だが、最下段の種子更新率は2010年から2020年の間に上昇している。なお、2010(平成22)年のコメ生産量は824万トン、2020(令和2)年は723万トンで、約12%減っているため、種子生産量の減少(マイナス10%)と種子更新率の上昇は矛盾しない。

稲、麦、大豆の種子の生産状況(10年前との比較)
稲、麦、大豆の種子の生産状況(10年前との比較)
注:穀物課まとめ。都道府県からの聞き取りであるため、⼀部⺠間企業が独⾃に⾏う種⼦⽣産(みつひかり、しきゆたか等)はカウントしていない

そして、稲(コメ)の種は100%国産である。鈴木氏の主張によれば、種子法廃止と種苗法改正によって海外種子メジャーの進出が本格化して都道府県の種子生産が減り、海外からの輸入が増えるはずだが、そのような事態は起きていない。

(参考)稲、麦、大豆の種子の国産割合の試算(令和4年産)

種子の国産割合の試算 ※令和4年1月~令和4年12月累計

出所:「 稲、⻨、⼤⾖の種⼦をめぐる状況(令和5年4月 )

【第3回へ続く】

 

【おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する】記事一覧

筆者

AGRI FACT編集部

続きはこちらからも読めます

※『農業経営者』2023年5月号特集「おいおい鈴木君 鈴木宣弘東大教授の放言を検証する」を転載(雑誌掲載時よりも新しいデータが入手できたものは、新しいデータを記載した)

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