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VOL.25 「陰謀」を食べたくない女~中編~【不思議食品・沼物語】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。前回からの3回シリーズでは、驚くべき言説によって「陰謀」とされる食品に振りまわされる女性の顛末を、物語の形式でお届けします。
※この物語は、フィクションです。実在の人物・団体・事件などとは関係ありません。また作中に登場する言説は一部現実に存在しますが、一般的に支持されている情報ではなく「デマ」が多数含まれます。あくまで物語のエッセンスとしてご理解ください。

陰謀に溢れた世界で何を食べればいいのか?

偶然手にした食用昆虫への嫌悪感から、千絵は日常のあらゆるものに「陰謀」を感じるようになっていた。今まで見ていた世界が、ガラリと変わる。

体づくり(主に筋トレ)に熱心な家族が勢ぞろいしている千絵の家には、昔からウォーターサーバーが設置されていた。それでも調理に使う水は水道水だ。スープに、炊飯に、麺や野菜を茹でたり。これまではそれがごく当たり前だったが、急に怖くなってきた。

「水道水に含まれるフッ素化合物は、思考を低下させる」

そんな情報を入手したからだ。思考を奪い、操りやすくする陰謀なのだろう。

生まれてから今まで、一体どれくらいの水道水を飲んだのだろう。考えただけで恐ろしくなる。こうして知らず知らずのうちに、どれだけの陰謀を体内に取り入れてきてしまってたのか。でも世の中には、そうした現状に対抗しうるプロがいるのがせめてもの救いだ。ネットの仲間たちがよく名前を出す、ナカジマクリニックというお医者さまである。

ナカジマクリニックが発信しているnoteには「水道水のフッ素は、海草とウコンでデトックスできる」と書いてあった。対処法があることに、千絵は胸をなでおろした。早速スーパーのスパイスコーナーでターメリック(ウコン)を買い込み、ワカメと昆布をたっぷり入れたスープを作った。正直味は好みではなかったが、美味しいものを食べるのが目的ではないので、問題はない。

家族にも、この真実を知らせたほうがいいだろうか? でも、もともと心が通じ合える家族ではない。こうしている今もリビングで、千絵を除いた皆はネットフリックスの『シティ・ハンター』を楽しんでいる。主人公の冴羽獠を演じる俳優のボディを鑑賞し、「上腕三頭筋が惜しい!」と盛り上がる家族。物語にじゃなく、筋肉にしか興味がない家族に、千絵は全くついていけない。脳筋の家族に、いまさらフッ素で思考力が……と伝えても無駄だろう。飼い猫のムギの飲み水だけをこっそりと、急遽買い込んだシリカ水に変えておいた。

我こそは陰謀と戦う光の戦士

加工品はもともとあまり食べない一家だったので「これだけは助かったわ」と、胸をなでおろす。加工品には、不健康なものを食べさせて利益を貪るがん利権がからんでいるというからだ。

納得のいくものしか食べたくなくても、薄給な千絵には贅沢に食費を使える余裕はない。実家に頼りつつ、思想だけは貫きたい。

健康のためにたっぷり食べていた野菜についても、「注意が足りなかった」と反省している。

最近参加するようになった「世界の真理を暴く会」というオープンチャットでは、「農薬メーカーはみんなを病気にさせてクスリを売って儲ける」という説が全面的に支持されている。「全部アメリカの指示」と皆が口々に言っているのにも驚いた。大きな権力に、翻弄されていることを知らなくてはならない! できるだけ自然農法の野菜を買いたいけれど、手に入らないときは、重曹やホタテパウダーで野菜を洗っている。パウダーを加えた水に、野菜を10分つけおきする。すると表面に、嫌な色の汚れが浮かび上がってきて、これだけの悪いものを取り除けた!という達成感もあって、ちょっと楽しい。

できることから一つ一つやるのが、私たちの戦いだ。

こうなると、牛乳の消費を政府が促す動きも怪しく思える。もともと日本人は乳糖不耐症が多いハズなのに、不自然だとは思っていたけど……! 一日中スマホを覗き込んでは、自分の感性とマッチする色々な答えを拾い集める千絵だった。

権力者たちのいいようにされてたまるか。買い物は、投票だ。

光の戦士の一因である自負も生まれ、これまでの常識がリセットされていった。

価値が分かるのは一握り

もともと家族の食事とは別だったから、さして問題はない。やっかいなのは、友人との会食だ。友だちが誘ってくる比較的リーズナブルな店に、安心できる店はほとんどない。

一度、親しい友だちをひとりだけ、固定種の有機食材のみを取り扱うレストランへ誘ってみたことはある。店主もこうした問題に理解があり、店内には信頼できる書籍もたくさん並んでいる。店内の客も「わかってる」感じの人が多く、とても居心地がいいのだ。

食後に友だちはこう言った。

「オシャレでおしいしかった! たまにはこういうランチもいいね〜。でもわざわざ来るにはちょっと遠いかな(笑)」

この価値が分からなかったか……と残念な気持ちになる。でも仕方ない。世の真実に気づいて行動できる人は、一握りなのだから。そうして古くからの友だちとはだんだん疎遠になり、新たに知り合った光の戦士たちとの交流が深まっていく。

グローバル企業に洗脳されてはならない。病気知らずと言われている梅干しや発酵食品、玄米、味噌。そして信頼のおける水。

「昔ながらの日本の食材で、私は戦う」

地味に静かに、千絵の抵抗がはじまった。

後編に続く

 

【不思議食品・観察記&沼物語】記事一覧

筆者

山田ノジル

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