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選挙で生産者の立場に立ってくれる候補者を、地道なコミュニケーションで増やしたい:58杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

選挙が近くなって、農業がよく話題に上っています。毎回大なり小なり話題になるのですが、いつも思うのが現場目線で話してくれる候補者が(あまり)いないことです。今回は何と言ってもコメ高騰がいちばんの話題ですが、今までコメが安すぎて農家が困っていても話題にすらしてもらえませんでした。そうした中、この原稿の作成中に私は思いがけない出来事に遭遇したのです。

選挙候補者によるオーガニック給食発言

コメ以外では最近、謎のブームになった「オーガニック給食」も同じです。
「子供たちの安全な食のために!」「オーガニックで病気を防ごう!」と事実とかけ離れたスローガンを掲げる候補者がたくさんいました。

あたかもオーガニックでない野菜が危険で、オーガニックを食べれば病気にならないかのような言説が喧伝されましたが、農業や食の現場からすると事実とかけ離れています。
むしろ、現場からすると完全な無茶振りです。「今の給食も十分安全です」「農薬だって正しく使えば安全です」という、ごく普通のことを言ってくれる候補者もなかなかいませんでした。

選挙前に農業が話題に上がったり、食の安全がテーマになったとき、「農業は大事なんだ」と言ってくれる候補者はいるにはいますが、せいぜいが手で田植えをしている様子を写真に撮って「農業は大変ですね」と、ちょっとズレた持ち上げ方をするくらいです。

まあ、そりゃ農業は確かに大変ですけどね。
手で田植えをするのが大変とか、そういうわけではないです。
実際に大変なのは、売値が安すぎることや、資材の高騰や、そもそも農村に人がいないことや、他にもいろいろあります。
でも、どれもサクッと解決できないことばかりなので、有権者に「自分はこうやって解決するんだ」とアピールするのが難しいのは理解できます。

生産と消費を両立する発言を求めたい

こういうときに頼りにしたいのが農水大臣ですが、新しく就任した農水大臣は「消費者目線で」という方針を打ち出し、「コンバインをレンタルかリースにすればいいのでは?」とか「JAに原因があるのでは?」など農家やJAに現場感覚からするとズレまくりの改善を要求し始めました。

まあ、農家のほとんどは普段から農水大臣を頼りにしているわけではないとは思いますが、こういうときに農水大臣が生産者のことをリアルに考えてくれないなら他に誰がやってくれるの? と絶望してしまうのです。

そりゃ「コメが高いと言うなら自家用車をレンタルにすれば良いのでは?」と消費者に言うわけにもいかないでしょうけど、消費者の声を聞くことと農家の立場に立つことは両立できないこともないと思うのです。

せめて得意のパフォーマンスの手腕を活かして、コメ農家を代弁してくれたら現場はどれだけ心強く思うでしょう。

農水大臣以外の政治家も、「コメを安くしよう」と言うばかりで、生産者の側から問題を解決しようとする人はなかなかいないので頭を抱えてしまいます。

生産側のワルモノ扱い化を危惧

ここで私が言いたいのは「コメの値段を高くしろ」ということではなく、ましてや「経営が苦しい農家を支援しろ」ということでもありません。

これからこの手の問題が出てくるたびに、農家の声を聞かないどころか、手っ取り早く農家やJAをワルモノ扱いするのが定番化しないかが心配なのです。
農家の人口が減って票や視聴率につながりにくくなり、危機感が少しずつ現実味を帯びてきています。

コメの値段の問題も、「農家がコンバインをレンタルにすれば」解決するような単純な話ではありません。
個人消費がどんどん下がっていく中で、農村の水田や水路の機能をどう維持していくかという複雑な問題に政治家の人たちはこれまでずっと取り組んできたと思います。

全員を納得させるのが難しい問題なので、誰かから無用な恨みを買うことだってあったでしょう。
出してきた答えは全然完ぺきではなかったと思います。
ですが、その人たちのおかげでなんとか美味しいお米を安定的に生産できたのだと思います。
ただ、もしも安易に農家やJAのせいにするようになれば、あっという間に分断ができてしまうでしょう。
それほどに今の世の中は消費者と生産者の間に認識ギャップがあるように思うのです。
認識ギャップそのものは問題ではないと思いますが、分断や対立に繋がらないよう気をつけるべきです。

農業は全ての人の暮らしに必要な仕事なので、食料が足りなくなれば農家の大切さがきっとわかるだろうと言う人がいますが、私は違うと思います。
むしろ「私たちは生活が苦しいのに農家はコメをたくさん持っている」「コメが高いのは農家が儲けすぎているからだ」とヘイトの対象になるおそれだってあります。
なぜそう思うかと言うと、コロナ禍で医療従事者がそのような目に遭っているのを見たからです。

筆者の元を訪ねてきた立候補予定者

私はこれまで生産者と消費者の間に立つコミュニケーションを仕事としてきました。
それは、消費者と生産者の間にある認識ギャップが分断に発展しないようにするためでもあります。
難しさは実感していますが、コツコツやってきて手ごたえを感じることもありました。

つい最近「農業の現場の話を聞かせてほしい」と立候補予定者の方が畑に来てくれました。
ただ、私はコメにはノータッチなので、果樹や中山間地域農業の実情も、オーガニックや農薬について正直に丁寧に話をしました。
もちろん、これで何かが大きく変わると思ったわけではないですが、ただのパフォーマンスのためなら他のところに行った方が良いはずなので、真面目に話を聞いてくれたと思います。

地道に発信しているとたまにこうして手ごたえを感じることもあるのです。
生産現場の側も「誰も生産現場のことをわかってくれない」とあきらめるのではなく、地道にコミュニケーションを続けることが大切だと思います。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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