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気候変動懐疑論とオーガニック問題の悪魔合体【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑩】

オーガニック問題研究会マンスリーレポート

気候変動懐疑論について調べていて、奇妙な現象に気がつきました。
以前から薄々とは感じていたのですが、「農と食の誤情報」を発信する人々や、それを受容する人々のあいだに、気候変動懐疑論が浸透してきているのではないかということです。
より自然な、天然に近い食と暮らしを求めながら、一方で気候変動はフェイク・プロパガンダであり対策は必要ないとする心理は、少なくとも傍目には矛盾に満ちているように思えます。何が起きているのでしょうか。

気候変動懐疑論者はファクトが嫌い?

日本における気候変動懐疑論のオピニオンリーダーとして知られる、杉山大志氏という人物がいます。
キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹という肩書きを持ち、abemaTVなどの動画メディアにも多数出演しているので、ご存じの方も多いかもしれません。

その杉山氏の運営するYouTubeチャンネルに、AGRI FACTでもお馴染みの東京大学名誉教授の唐木英明氏が出演している動画があります。(※1)
食の安全をめぐる誤情報について唐木氏が解説をおこない、杉山氏はホストとして聞き役を務めるという、オーソドックスな構成の番組だったのですが、YouTubeのコメント欄は思いがけない方向に展開していました。

日頃から杉山氏の気候変動懐疑論を支持していると思われる熱心な視聴者が、こぞって唐木氏への批判と、杉山氏への失望・不信感を書き込んでいるのです。

【被害が無いならなんで日本だけが二人に一人癌になるの? 御用学者丸出しで草】
【論点ずらしに聞こえました。信頼出来るチャンネルと思っていたのに残念です】
【4毒の次に注意すべきが5悪。5悪の中に食品添加物や残留農薬等があります】

「欧米では規制されている農薬や食品添加物が日本では野放しであり、がんや発達障害の増加の原因にもなっているが、政府や企業によって被害が隠蔽されている」というステレオタイプな陰謀論的コメントが多数あるのに比べ、それに対する反論や、動画への肯定的なコメントはほぼ全くありません。

動画本来のコンセプトとしては、専門家の解説によって「農薬は危ないものという既存のイメージ、メディアなどに刷り込まれたステレオタイプな思い込み」を科学的見地から覆し、結果として「気候変動についての刷り込まれたステレオタイプも同様に疑わしいのだ」という認識を視聴者にさらに強化してもらうことを目指していたはずです。

しかし、結果としては「ねじれ現象」が起きています。
コメント欄の状況から嫌でも頭をよぎる可能性は、「気候変動懐疑論の支持層と、農と食の誤情報に強く影響を受けている層は、相当程度重なっているのではないか」ということだと思います。

農薬や添加物に忌避感を持つ人々は往々にしてオーガニック食品を「自然な・安全な」ものとして捉えていますが、有機農業の本来的な意義は資源循環や環境負荷低減、生態系(生物多様性)の保全・回復にあります。
現在日本やEUが有機農業を推進しているのも(その是非は別としても)、気候変動対策としての側面は大前提となっています。

「気候変動(による将来世代への深刻な影響)を信じない人々がオーガニック食品を支持する」というのは壮大な自己矛盾に思えるのですが、どうでしょうか。

オーガニックと懐疑論を同時展開する人々

ここで思い出すのは、国際ジャーナリストを自称する堤未果氏です。
過去の記事でも触れた通り、全国オーガニック給食フォーラムの基調講演に登壇するなど有機農業運動/反農薬運動のオピニオンリーダーとして活躍を見せる一方で、自著のなかでは「地球は過去8年ずっと冷え続けている」などの気候変動懐疑論(陰謀論)を展開するという、矛盾をはらんだ言動を見せています。(※2)

ここで誰もが頭に浮かぶのは、先の参院選で躍進を果たした参政党ではないでしょうか。
朝日新聞が7月に実施した主要政党アンケートで参政党は、温室効果ガス排出の削減を「積極的に進める必要はない」と回答した唯一の政党でした(※3)。
理由として「地球温暖化は科学的に議論の余地がある」「偏りのないエビデンスに基づく科学的な検証が必要」などと主張しています。

その参政党がこれまでどれほどオーガニックや食の安全をめぐる誤情報を利用して支持を集めてきたのかは、今更触れるまでもないでしょう。

杉山氏は参政党主催の「DIYスクール」講師を務めたり、同党のYouTube番組「赤坂ニュース」に出演するなど、前述の堤氏と同様に相当程度、党の政策にも影響を及ぼしているのではないかと思われます。
杉山氏自身の参政党に対する距離感はわかりませんが、少なくとも参院選の直前の7月には『参政党の躍進は日本の脱炭素政策を変えるか』と題する記事を発表しており、ドイツの極右政党AfDの躍進などを引き合いに出して、期待を表明しています。(※4)

さらには当然のように、堤氏・参政党・杉山氏とも共通して何らかのかたちで第二次トランプ政権への支持を表明しています。
このうち杉山氏に関してはオーガニック推進を支持しているとは思いませんが、少なくとも支持者の一部にはその傾向が強く見られるというのは前述の通りです。

前回の記事で触れたママエンジェルスのような団体もそうですが、オーガニックを掲げながらトランプ政権を支持するような人々は、表面的には気候変動を憂慮していたとしても、実際には気候変動対策を後退させかねない行動をとっているという意味で「消極的懐疑論者」と言えるのかもしれません。(※5)

余談ですが前述の杉山氏の記事によれば、AfDなどに対する「極右」「反科学」といった評価は既成政党やメディアによる「レッテル貼り」なのだそうです。
どこかで聞いたような主張です。

その後まもなく、8月にはAfDの議員自宅から武器と爆発物が大量に押収されたことや、9月には別のAfD議員が中国からの収賄やマネーロンダリング疑惑で検察の捜索を受けていることが報道されています。

気候変動も体調不良も、自分の責任ではないと思わせてくれる

堤氏や参政党の「大衆ウケの良さ」を考えれば、冒頭の動画コメント欄で起きていた「ねじれ現象」についてもある程度理解することができます。

「がんの増加や自分の体調不良は、農薬や食品添加物の影響だが、既得権益層によって隠蔽されている」と考える人々にとっては、「気候変動は起きていない→多少起きていたとしても人間(自分)の責任ではない→不安を煽って対策を強いるのは既得権益層のプロパガンダ」と思わせてくれる主張は甘美に聞こえるのでしょう。

「自らの置かれた苦境は強大な外敵の策略によるものである(=陰謀論)」という世界観においては、両者に矛盾はないからです。
発信側の堤氏も参政党も、そのことをわかっていてやっているのではないでしょうか。

もちろん、真面目に有機農業を営む生産者や、その意義をまっとうに理解して支援する消費者がたくさんいることも知っています。
一方で、持続可能な社会環境よりも不安の解消や自己実現、陰謀論に惹かれてオーガニックにハマるような人々は一定数存在しています。
そのように仕向けるインフルエンサーや政治家も増えています。

種苗法改正反対や、あきたこまちR反対運動などは、人々に正しい知識を啓蒙することを怠り、断片的な情報とミスリードを駆使し、不安をたくみに煽って「動員」することで影響力を拡大してきました。

あきたこまちR反対署名に集まっている、口汚い罵詈雑言(遺伝子組換え米なんかいらねえんだよ!!この売国奴/某国の命令か?/おたくらディープステートの手先なのか? etc)を見ていても、彼らの意識に複数種にまたがるいくつもの陰謀論・誤情報が混濁していることは明らかです。(※6)

そうやって煽られた憎悪が向かう先に何が起こっても、煽動し動員した人々は責任をとりません。
そのことで短期的にオーガニック食品のシェアが伸びたとしても、気候変動の解決はむしろ遠のいていくのではないかと思います。


(※1)被害が無いのに不安はナゼ? 食品添加物、残留農薬・・(杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所)
(※2)オーガニックカルトはトランプと排外主義の夢を見るか?②【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑦】
(※3)日本保守党は無回答。温室ガス削減、「必要ない」は1党 参院選、各党の気候変動対策は(朝日新聞)

なお、日本保守党共同代表の河村たかし氏は参院選直前のラジオインタビューで「本当にCO2が悪いかどうかは怪しい」「気候危機が起きているか起きていないかわからない」「大きな流れでは寒冷化に向かっている」と発言。【参院選2025】各政党の幹部・議員との質疑まとめ【音声振り返り】(TBSラジオ)

一方で河村氏は2021年の名古屋市長選公約にオーガニック給食を掲げ、ママエンジェルスと面談するなど、市長在任時にはオーガニックを推進する姿勢を見せていた。

(※4)参政党の躍進は日本の脱炭素政策を変えるか(キヤノングローバル戦略研究所)
(※5)参政党は批判してもケネディJrは英雄視? オーガニック運動の矛盾から見えるものとは【オーガニック問題研究会マンスリーレポート⑨】
(※6)わたしは、遺伝子を改変された「あきたこまちR」を食べたくありません!(OKシードプロジェクト)

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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