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SNS時代の「農業デマ」とどう戦うか——生産者インフルエンサーが示した“線引き”と実践手順【AGRI FACT定期オンラインセミナーレポート02】

食と農のウワサ

「農薬は毒」「オーガニックで病気が治る」「JAが農家を搾取している」——。SNS上で拡散する農業デマは、消費者の不安を煽るだけでなく、生産現場の信頼や地域の意思決定にも影響する。こうした課題意識のもと、AGRI FACT定期オンラインセミナー001「今、そこにある農業デマ対策──生産者の実践的アプローチ──」が開かれた。講師は、愛知県の露地野菜農家で、農と食に関する誤情報やデマに対して学術的知見と実践的経験をもとに正確な情報発信を行っているSITO.氏だ。

まず「相手」を類型化する——デマ発信源は6つに分かれる

SITO.氏が講演の軸に据えたのは、デマ発信者を6類型に分けて見極めることである。

①大型インフルエンサー(自称含む)
②パッケージ型インフルエンサー
③著名人(芸能人・有名人・企業社長)
④識者(大学教授など)
⑤政治家
⑥一般人

そして「相手の型」により、効く対処と損耗の度合いが変わるという。

①大型インフルエンサーは投稿がデマに一貫し、リプライ反応は「基本ない」。ここで有効なのがコミュニティノートで、正確な情報を“場に残す”ことができるとした。その仕組みについてSITO.氏は、評価者として活動を重ねることで作成側になれる一方、一般ユーザーでも「ノート要請」は可能と解説。浅川編集委員も「フォロワー規模に関係なく対抗に参加できる」と受け止めた。

②パッケージ型は、肩書き風の表記や定型文(「知られていないことですが」等)で“それっぽさ”を演出し、指摘されると削除→時期を変えて同内容を再投稿する例があるという。業者的に回している可能性もあるため、「見わけて気にしない」=放置が合理的だと述べた。

③著名人は影響力が「別格」で、支持者が妄信的に信じやすい。リプライや引用での反論は集中砲火のリスクがあり、慎重さが必要だと警鐘を鳴らした。例としてGACKT氏や柴咲コウ氏の名が挙がり、情報源が識者由来になることも多いという。

識者と政治家——「権威」がデマを増幅させる構造

④識者についてSITO.氏は、事実を「巧妙にねじ曲げ」不安や危機感を煽る存在として警戒感を示した。具体例として鈴木宣弘氏、山室真澄氏、菌ちゃん先生氏を挙げ、政治・農政への影響にも言及した。

⑤政治家は、発言が支持者へ二次拡散しやすく、SNSの外(政策・行政)へ波及しうる点で厄介だという。SITO.氏は参政党の名を挙げつつ、山田正彦氏、川田龍平氏、須藤元気氏らにも触れた。一方で政治家は「有権者の代弁者」でもあるため、疑問や指摘を一般側から積極的にぶつけることが重要だとした。

一般人は「線引き」が要——通報、法的措置も視野に

⑥一般人は、話が成立しない/論点ずらし/根拠を明らかにしない、といったケースが多い一方、稀に考えを改める例もあるという。SITO.氏は対応の判断軸として、相手のフォロワー数や当該投稿の閲覧数を見て“相手にしない”線引きを提案し、誹謗中傷がひどい場合は通報、悪質なら法的措置も考えるべきだと述べた。通報の方法は投稿やアカウントのメニューから選べ、数が積み重なるほど措置判断の材料になる——という説明もあった。

行政も例外ではない——自治体イベントの“疑似科学”に目配り

講演では、「デマ発信者」そのものだけでなく、行政が疑似科学や極端な言説を含む事業・イベントを取り込んでしまうケースにも注意が促された。SITO.氏は、ベジセーフの配布や、いわゆる“とんでもオーガニック映画”の採用といった例に触れつつ、千葉県いすみ市や栃木県小山市などの事例を挙げ、行政担当者の科学リテラシーや情報リテラシーが問われる局面だと指摘した。オーガニック給食が話題化して以降、こうした傾向が目立つという。そのうえで有権者が、自分の住む自治体の取り組みをしっかり確認していく必要があるとした。

デマの射程は「農薬」だけではない——JA、規格、フードロス

農業デマの定番としては、農薬=毒・病気、オーガニック=健康改善といった言説、そしてJA悪玉論が挙げられた。SITO.氏は、JA悪玉論の背後に「農家は弱く、搾取されているはずだ」という潜在的な蔑視・軽視があるのではないかと述べ、米価高騰局面では頻発したと振り返った。

興味深いのは、規格とフードロスを「無自覚なデマ」の温床として位置づけた点である。規格外品が増えた際に「規格は不要」「規格外でも食べられる」だけを切り取り、規格の必要性や流通の役割が軽視されると、結果的に農協叩きと結びつきやすい。フードロスについても、生産段階の規格外品を「フードロス」と呼び、罪悪感を刺激して購買を誘導する“確信犯”がいると指摘した。

「誰が得をするのか」——不安は商品化され、収益化される

SITO.氏は、デマで得をする主体を、

①商売人
②SNSインフルエンサー
③政治家
④識者

の4つに整理。象徴例として「ホタテパウダー」を挙げ、同等成分でも形を変え“エセ科学”で高額化できると説明。先鋭的なデマは閲覧数を稼ぎやすく、収益につながる構造があるという。識者についても、議論が俎上に乗ることで研究領域の維持や講演機会(お金・権力)につながり得るという見立てを示した。

一次情報に当たる重さ——だから「役割分担」と“土台”が必要

正確な情報発信は骨が折れる地道な作業でもある。SITO.氏は、論文や各種機関の情報といった一次情報から必要なデータを抽出し、そのままでは伝わりにくい内容を整理・加工したうえで、端的に言語化していく力が前提になると説明した。しかも、こうした作業を即座に行うには、相応の技術と経験が求められる。その一方で、「最初は信頼のおける人の受け売りで構わない」「情報に精通している人につなぐのも有効」とし、無理なく関わるための現実的な入口も示した。

実践フローと心得——勝敗より「荒れない訂正」「消耗しない線引き」

SITO.氏が示した実践フローは、①内容を確認し、デマ発信者のパターンを見極める、②発信者のパターンに応じて対処を検討する、③内容を再度確認し、自前の知識を整理して指摘する、④反応があった場合は正しい知識で一つひとつデマを潰していき、反応がない場合は基本的に放置する、という流れである。対処の目安としては、インフルエンサー、著名人、識者、政治家には引用リポスト、一般人にはリプライ、パッケージ型インフルエンサーには放置(余裕のある時に引用する程度)と整理された。デマ発信者の多くは反応しないことを前提に、発信されたタイミングでどれだけ早く訂正を差し込めるかが重要だとした。

訂正時の心得として挙げられたのは、「とにかく冷静に」「端的な内容を心がける」「誹謗中傷は絶対NG」「のめり込みすぎない」「状況に応じてコミュニティノートを活用する」の5点だった。SITO.氏は、「怒りは議論ではない」と強調し、訂正する側の姿勢そのものが、発信の信頼性を左右すると訴えた。

事例:動いた訂正、効いた“物証”

事例紹介では、自治体が配布を検討した洗浄液「ベジセーフ」をめぐるやり取りが語られた。SITO.氏は、企業側から直接リプライが来た稀なケースとして、サイト内の不適切表現を修正させた経緯を紹介し、訂正が“動く”可能性を示した。また学校給食や「無農薬でないと受け取ってもらえない」といった誤情報に対しては、生産履歴の画面など「一撃で仕留められる」証拠画像が有効だと強調。農薬使用量ランキングの誤解、オーガニックの健康効果の誇張など、典型例も挙げた。

「選ぶ自由」と「押し付けの政治」を分ける

質疑では、食品不安の背景として過去の公害(例:水俣病)や、かつて問題になった農薬(例:パラチオン)に触れ、「情報リテラシーだけでは限界があるのでは」と問う声が出た。SITO.氏は、科学は常に更新され「今は安全」と100%言い切れない以上、毒性学・検査技術・ADIの考え方などの進展も勘案しながら、最終的には「自分の中で一つ一つ判断していくしかない」と述べた。

そのうえで、個人が「危ないから避ける」選択をすることは否定しない一方、それを政治的主張として訴えたり、周囲に「こうでなければ」と強要するのは別問題だと線を引いた。デマ対応が社会的対立を深めないためには、個人の不安や嗜好を“他者への義務”にすり替えない姿勢が求められる。
デマへの対抗策に“特効薬”や“必殺技”はない。しかし、相手の類型化、証拠の整備、冷静さ、線引き、そして共同の参照基盤——SITO.氏が示したのは、疲弊しないための実務的な作法だった。

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• 主な活動:ファクトチェック、教材・資料の提供、講演・イベント、提言活動など
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編集

AGRI FACT編集部

 

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