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Vol.42 思想は強いが味はいい! 「聖なる廃業」からの推せる優良食品&レストラン【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、ファンが騒然となった「聖なる廃業」。そこから「思想は強いが美味しい」と思う、あれこれを集めて紹介。もっともグルメガイドではないので、住所やHPは載せません。興味のある方はご自身の責任で検索し探してみてください。
惜しまれて去る銘菓「思想強すぎるおかき屋」
皇室への愛がほとばしる、菊花紋章を思わせる袋のデザイン
唯一無二の存在感! おかきの美味しさと相まって、ブレない姿勢には賛辞の声さえ上がっていたのではないでしょうか。今や説明不要の(そう?)おかき屋「播磨屋」です。
一部では2010年頃から「思想は強いが美味しい」として話題になっていましたが、兵庫の銘菓としては、それ以前から広く知られていました。関西出身の人たちからは「どこの家にも、播磨屋のデカい空缶があったものだ」と聞いたこともあります。そして公式HPを見るかお取り寄せをするか(通販をすると熱量高い手紙がついてくる)、偶然あのトラック(後述)に遭遇するかしない限り、こうした思想を持っているとはわからない、普通のおかきや。店舗もごく普通だと聞きます。
通販で詰め合わせを取り寄せると、思想の強いリーフレットが同封されてくる
さて今回ネットを騒がせたのは、廃業の理由です。社長が「人類根本救済に専念するため」だという。これはもう「思想は強いがおかきは美味しい」という話ではなく、メッセージを広めるために企業努力をする「思想のための味」ではなかろうか。「企業イメージを損なう」なんて一般常識は、存在しない世界線です。工場には見事な三重の仏塔が建てられ、都心部には「スメラギ特別広報隊」と呼ばれる大型の宣伝トレーラーを走らせる! おかき界を走り抜けていった、孤高の荒馬です。
播磨屋本店「豊の岡工場の敷地内に建つ、「皇(スメラギ)三重ノ塔」と呼ばれる本格的な仏塔。珍百景さながらである。
撮影/ハルマゲ丼
播磨屋の思想を知りたい方はこちらをどうぞ。
撮影/ハルマゲ丼
「美味しい」と話題の味は、絶妙な塩梅のサクサク感とほんのり上品な塩加減に、大変和みました。おかきのラインナップもカレー味やトマト味、チョコがけタイプなど、バリエ-ションも豊富で飽きがこない。
食べ物の美味しさは基本的に、主観に大きく左右される部分もありますが、播磨屋の場合は惜しまれる声と歴史が圧倒的で、それらを美味しさの根拠であると考えていいでしょう。
幕末に創業したという歴史や長年愛されてきた商品ブランドの価値を想うと、世界平和に覚醒した5代目(おかきやとしては2代目)の個人的な活動で幕を引くというのはどうなのかという部分はありつつ、ブレない姿勢には、惜しみない拍手を送りたい。
リピートしたくなる「分子栄養学」のスパイスカレー
トンデモウォッチャー界隈では「コレを言い出したら距離を置け」と言われる分子栄養学ですが、それを売りにした飲食店があります。偶然前を通りかかったときは、二度見しました。そして数日後、ランチで利用してみたのです。
メニューを開くと真っ先に飛び込んでくるのは「「こっち側」のカレー」。一般社会での、立ち位置を冷静にとらえているのだろうか……と思ったら、すみません全く違いました。芸術的な玄人好みのカレーを「あっち側」、クセのない家庭的なカレーを「こっち側」としているのです。実食してみると、それはとても丁寧に作られた、優しい味わいのカレーでした。十八穀米に、ピクルスが添えてあり、いろいろな食材が摂れるのもポイントが高い。量はやや控えめで、ますます体に優しい感じがあります。肉はスプーンで簡単に崩れるほどにホロッホロ。女性のおひとりさま率が高い、某スープチェーン店のカレーを思い出させる味でもありました。
この店の名物だという「「こっち側」のカレー」。自分から見れば「あっち側」である
店の雰囲気はごくごく普通である一方で、特徴的なのは、店主の想いがしたためられたメニューです(思想強い店あるある)。この店の料理において、使わないもの(小麦、精製塩、砂糖、超加工品、トランス脂肪酸を含む油など)一覧とその説明がずらーりと……。
思想強め個人店では「店主がクセ強」というパターンもよくありますが、こちらはそんな気配はなく、淡々と業務をこなしているように見えました。
同じカレーのカテゴリーでは、濃厚な金沢カレーをベースにした「アパ社長カレー」も、レトルトにしては美味しいとよく聞きます(ホテルで食べられる店舗もある)。パッケージの強烈さとともに、ネタ土産の定番とも。そのほか、天理教の「天理カレー」、大山ねずの命神示教会の喫茶処で販売されているカレーパンなども、味に厳しい友人から、絶賛の声が届いています。
どの世界に行っても、カレーの包容力はすごい。
横浜の大山ねずの命神示教会本部喫茶処で販売されているカレーパン。中に福神漬けが入っている、心づかいが素晴らしい
ホメオパシーの第一人者が店主の「豊受オーガニクスレストラン」
日本におけるホメオパシー(疑似科学です!)のドン・由井寅子氏が店主を務める、「豊受オーガニクスレストラン」(用賀)も、率直に言って大変美味しく、誰をお誘いしても心配ない店だと言えるでしょう。10月に静岡へ移転することが発表されているようですが、ファンの間では聖なる移転となりそうです。
こちらは単なる無添加・無農薬・有機栽培の食材を使ったレストランとは一線を画し、「豊受御古菌をつかった自然な堆肥」「日本の固定種・在来種の種を自家採種による自然な種にこだわる 」といった自社ブランドを強調する自然派路線。農学や生物学的に見ると、この「自然」はもはや詭弁ですが、「そういう思想のもの」と解釈するほかありません。そもそもが、この店の母体である「豊受」は、オカルト的な考え方をベースにしたホメオパシーの世界なので、一般的な理論を当てはめても仕方ない部分があるでしょう。
2018年に訪れた際の写真
こちらで食べたのは「百姓御前」。米と味噌汁のほか、野菜中心の小鉢が7~8品ついてくる、ランチの人気メニューでした。薄味でもしっかり美味しい点は、素材のよさを感じます。中年の心身に染みわたる! ちなみに自然派レストランならどこでも丁寧で美味しいかといったら全くそんなことはないので、秀でて「思想は強いが美味しい」と言える店としてカウントできました。静岡の新店舗も、ぜひ訪れてみたいものです。
2018年に立ち寄った時は、豊受の世界観あふれる雑貨も併設のショップに並んでいた
メジャーなメーカーなのに「波動」なめいらく
近所のスーパーで買ったアサイードリンク。文句なく、安定したおいしさ
トップの思想がエキセントリックになり、企業全体が巻き込まれるという点では、めいらくも忘れてはなりません。スジャータめいらくグループは、創業者の故・日比孝吉氏が提唱した「波動」を通じた健康・長寿の研究を長年展開しており、就職活動の現場でもその思想の強さが漏れ出ているようです。名古屋市に「波動医科学総合研究所」を置き、万物が発する微弱エネルギー(波動)を数値化して健康状態や食品の適性を判定するとされる独自の波動測定などを行っているようです。一方、商品の品質には安心感しかありません。製品は極めて高品質で支持されているが、トップの思想が突出して個性的(エキセントリック)な食品メーカー。播磨屋と双璧かもしれません。
商品とトップの思想は切り離されるべきと言う人がいるかもしれません。しかし愛顧によって共感できないビジネスを支えることにはなるので、大プッシュは控えたいところであり、常に複雑な思いが頭をよぎります。
自分の体験では、昭和の時代に母たちが「おいしい卵が買える」というご近所コミュニティの口コミから、昨今「カルト村」と呼ばれている「ヤマギシ」を使用しはじめ、その流れで友人とともに夏の合宿に放り込まれるという出来事もありました(過去に当時の体験をコラムに書きました)。それがきっかけで、参画した人もいるのではないでしょうか。そうなると、おいしいからと言って無条件に受け入れることは、全くもって難しい。誰もが無関係でいられない食には、異界への入り口が山ほどあるのでした。本コラムを読むなどして、事前に免疫をつけておきましょう。
きっかけとなった「美味しい卵」の味は、残念ながら全く覚えていない
筆者 |



